アンナの首飾り
                                                    文と絵 : 都筑 信介

    (本作品はフィクションであり、登場人物等の名称等は全て仮名で、実在しません。)


章夫(あきお)さんは、犬のアンナちゃんと二人暮らし(?)です。朝早くから、アンナちゃんとお散歩。何をやるときも、いつもアンナちゃんと一緒です。アンナちゃんは、5歳のスタンダードプードルで、女の子です。犬の1歳は、人に換算すると、およそ7年ですから、アンナちゃんは、もし人間だとしたら、だいたい30歳くらいの女性ということになります。アンナちゃんは、ほとんど、章夫さんの話したことがわかるようです。とても温和で、人の心がわかるのか?章夫さんが、体調が悪い時は、そっと心配そうに章夫さんの顔をじっとみてますし、章夫さんが笑うと、アンナちゃんも幸せそうに微笑むのでした。



ある晩、アンナちゃんのお散歩が終わり、夕御飯も終わって、ふと、縁側にきてみると、きれいな「お月様」が燦々(さんさん)と、雲の切れ目から、顔を出したのでした。「アンナ、お月様がきれいだよ。」縁側に座ると、心地よい夜風が、すーとは肌を通り抜け、アンナちゃんも、とても気持ちよさそうです。「外国では、木の人形のピノキオを本物の人の子にしてください、とゼベット爺さんが、月の女神にお願いしたら、ほんとにその夢がかなったんだとか?ねえ、アンナちゃん、日本では、どうだろうね?日本では、月光菩薩がいるはずだからね。」と、言いながら、アンナちゃんを撫でると、アンナちゃんは、気持ち良さそうに、「うん、うん」とうなずくのでした。しばらく、夜風に吹かれて、月の明かりを楽しむひとときでした。



次の日の朝、章夫さんは、次のような、耳元でささやくような声で、目をさましました。
「おとうさん、おはようございます。気持ちのいい朝ですよ」
章夫さんは、少々びっくりして、目を開けると、そこには、今まで見たことはないけれど、なんとなく見覚えのあるような、やさしそうな娘さんが、ベッドの横にいるではありませんか。
娘さんは、こちらをむいて、にっこり笑うと、「おとうさん、わかる?わたしよ、アンナ!」
章夫さんは、はじめは半信半疑だったけれど、すぐに、それがほんとうのアンナであることがわかりました。
それもそのはず、いままでの、アンナとの思い出は全部、この娘さんは知っていて、章夫さんの好きなことは、すべて知っていたからです。
「月光菩薩さまが、夢をかなえてくださった。」と思うと、なんだかとても幸せな気持ちになり、言葉にもならないくらいでした。



この日は朝から、アンナとおにぎりを作って、野にピクニックに行きました。野に流れるそよ風は気持ちよく、アンナと2人で、笑いながら食べるお弁当は、最高でした。野にはシロツメクサがいっぱい咲いていて、章夫さんは、これで、「花の首飾り」を作って、アンナの首にかけてやりました。「花の首飾り」を身に着けたアンナはとても美しく、そんな姿をみて、章夫さんはとても幸せだと思うのでした。
その日は、おいしい夕食を、2人で作って食べ、たのしい夕べを楽しんで、寝たのでした。



次の日、章夫さんは、朝おきて、「アンナ?どこにいるの?」と、アンナ(娘さん)を探しましたが、アンナはどこにもいませんでした。
「どこへいっちゃたんだー?」と家の中の探し回ったときです。縁側のほうで、「クワン」という、犬の声が聞こえました。みるとそこには、かつてのような犬のアンナがすわっていました。「やはり、昨日のことは夢だったのかあ、、、」と、ため息をついたときのことです。
よくみると、アンナの首には、あの「花の首飾り」がかかっているではありませんか?アンナは、笑っていました。「おとうさん」と言ってるように。

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