インフルエンザについて
      2016年~2017年

ワクチンの接種は今年はすでに終了しました
詳細は、☎052-760-9981まで。
インフルエンザとは
ここでは、インフルエンザの基本的な知識と、その予防についてお話いたしましょう。インフルエンザは、近年、急に問題となってきた感染症のようにとられがちですが、
20世紀には、3回の大流行が、ありました。
①1918年(スペインかぜ H1N1)
②1957年(アジアかぜ H2N2)
③1968年(ホンコンかぜ H3N2)
最近、感染症の国際学術雑誌や合衆国の一級の医学雑誌には、次に到来する
新型インフルエンザ(パンデミックという)の大流行を危惧する内容のものが2005年秋より多くなってきていました。その理由の多くは、これらのインフルエンザの大流行の原因となった原因ウイルスが、鳥インフルエンザウイルスの変異や、鳥インフルエンザウイルスと人インフルエンザウイルスの遺伝子の[交雑体」(Reassortment)によって生まれたのではないかという学説に基づくものです。ちなみに、豚は豚固有の豚インフルエンザ以外に、ヒトインフルエンザにも、鳥インフルエンザにも感染する動物であるようです。このため、豚の体内で、鳥インフルエンザや豚インフルエンザの一部の遺伝子が変化「交雑」(Reassortment)し、ヒトに感染するウイルスに変異する可能性が高いとされています。(N Engl J Med 2005;352:323-325) しかしながら、2009年3月まで、新型インフルエンザの形成は、鳥インフルエンザウイルスと人インフルエンザウイルスの遺伝子の[交雑」(Reassortment)によって生まれると予想されていましたので、豚インフルエンザの変異は全くの「想定外」であったことは間違いなく、アメリカのCDC(疾病対策センター)をはじめ、多くの研究機関でその「新型インフルエンザ」について詳細に研究がされました。それによれば、1998年から2009年初頭にかけて、「鳥」「ヒト」「ブタ」の3つのインフルエンザウイルスの重合体(triple reassortant virus)がすでに、北米のブタでは流行しており、アメリカのWisconsinで、17歳の若者がこのウイルスに感染したという報告がありました。(Emerg Infect Dis 2008;14:1470-2.) このウイルスはブターヒト感染は生じても、ヒトーヒト感染は起きなかったため、周辺への感染はなく、拡大しなかったようです。2009年4月になり、このウイルスにユーラシアのブタのインフルエンザウイルスの2つの遺伝子が組み込まれ、ヒトへの感染性が獲得され、ヒトーヒト感染が生じるようになったようです。(N Engl J Med 2009;361:279-85 ) これが、2009年に世界で流行した新型インフルエンザの始まりです。あまり、不安をあおっててはいけませんが、1918の「スペインかぜ」では、世界中で4000万人近く、日本でも39万人の死亡者があったとされ、1957年のインフルエンザによる死亡者数は、約8000人とされており、当時いかに多くの感染者があったかを推定することができます。これに対処する目的で、1962年から1987年まで、学童にインフルエンザの予防接種が義務化され、その後インフルエンザの感染者は除々に減少していきます。インフルエンザのワクチンの接種化はその後、ワクチンの効果を十分に検討することなく、予算の関係もあってか、廃止となりました。ワクチンの集団接種については、アメリカと日本の共同研究で、この日本のインフルエンザの学童を対象とした予防接種の効果についての正確な評価に関する論文がアメリカの一流雑誌に掲載されています(N Eng J Med 344:889-96,2001)。 もともと、欧米ではインフルエンザの予防接種は、高齢者や癌患者など免疫学的に弱い人を対象にしていたらしく、この論文では、日本が学童(schoolchildren)にたいしてインフルエンザのワクチンの集団接種を行った世界で唯一の国であり、その効果は、単に学童をインフルエンザの感染から守っただけでなく、その両親や祖父母の感染まで、減少させたという「高い評価
」です。2008年ごろより、アメリカを中心に毎年、流行型が変わっても、ワクチンの効果が期待できる、「弱毒生ワクチン」を採用してはどうかとの、論文がみうけられました。しかし、新型(豚)インフルエンザが、2009年4月に急に出現したように、インフルエンザウイルスの変異は、われわれが予想するよりも速く、今回のようなできごとは、今後もおこりうると考えた方がよいようです。


1.インフルエンザの種類について
おもに、A型とB型があり、一時問題化した新型インフルエンザはA型です。それも、H1N1というタイプで、
前に述べた1918年の、①スペインかぜは、H1N1で、今流行している新型インフルエンザはこれの「遺産物」ではないかという報告が、2009年のアメリカの一流雑誌に書かれています。これは、いったん1957年には、ヒトから姿を消したものの、豚のなかで、時代を超えて継承されてきたという説が有力です。(N Engl J Med 2009;361:225-229)つまり、1918年のスペインかぜウイルスが、1930年代に豚に入って、そこで維持伝承されてきた古典的H1N1ウイルスとヒト型A/H3N2ウイルスや
トリインフルエンザウイルスなど、との間で遺伝子交雑をおこして生じたものであるということになります。つまり、もとのウイルスはスペインかぜ由来ということになります。(日内会誌99(9):2082~2083,2010)
 
論文では永続的遺産(The persistant legacy) という表現が使われています。通常legacyという言葉は、良い意味で「名声」として使われることが多いのですが、ここでは、あえて「風刺的」に使われています。
この、H1N1というタイプは、1918年~1956年まではみられたのですが、どういうわけか1957年から~1976までは姿を消していました。この間、豚ではこのウイルスが伝承されていて、1977年に再びヒトに出現した、と欧米の一流雑誌にかかれています。(N Engl J Med 2009;361:279-85) 。1957年からは②のアジアかぜ(H2N2というタイプ)がインフルエンザの流行の主流になりました。そして、1977年からは、再び、H1N1ウイルス(Aソ連型)が、ヒトのインフルエンザの重要株の1つになってきていました。しかし、現在流行している新型インフルエンザの遺伝子を、詳細に検討した結果、このウイルスは、ヒト、豚、鳥の3つのインフルエンザの重合体(triple reasortant)でありますが、「ヒト」の遺伝子の部分は、季節性のインフルエンザウイルス、それも、A香港型(H3N2)のものが組み込まれており、これに、鳥と、北米の豚インフルエンザの遺伝子、さらにユーラシアの豚の遺伝子が組み込まれているという解析結果がでています。このため、遺伝子的には、H1N1とはいっても、季節性インフルエンザ(A香港型、H3N2)の遺伝子をもっていますので、内容は複雑で、新型であることは、間違いありません。
最近の学術論文では、インフルエンザウイルスを1つの「固定化した物体」(distinct entity)と捉えるよりも、約8個のタンパクの合体で構成される、いわば野球のチームのようなもの、と捉えたほうがわかりやすいとされています。8個のタンパクのうちのあるメンバーは、時々他のメンバーに入れ替わり、違ったチームになるというわけです。そして、新しいウイルスとして、我々と戦うことになるわけです。(N Engl J Med 2009;361:225-229)。
2.現在流行している種類は?
今年のインフルエンザは、2017年2月11日現在A型のインフルエンザが主流です。初めは、のどの痛みと鼻水、微熱で経過し、その後38度の高熱がでるようです。今年は、関節の痛みやだるさ、全身倦怠感、疲労感が強く、大人では、微熱とだるさだけが症状という方もおられます。きちんと検査をしないと、みのがしてしまうこと多く、軽視は禁物です。


3.インフルエンザかな?というとき

急な高熱、関節痛、セキ、等が出た場合は、B型、A型を含め、インフルエンザの感染がうたがわれます。きちんと、クリニックを受診し、検査をうけましょう。

インフルエンザの治療については、医師とよく相談し、治療法を決めましょう。
インフルエンザ治療薬には、2017年2月現在、以下の治療薬が厚生労働省から認可になっています
①タミフル、内服薬で1日に2回で5日間内服」。
②のどや気管支にに直接吸入する薬  
  2a 「リレンザ」 1日に2回で5日間吸入
  2b「イナビル」 1日のみ吸入して治療終了(比較的新しい治療)
③点滴による治療 1日のみ点滴して治療終了(新しい治療)
治療については、先生とよく相談して決めましょう。
インフルエンザの治療においては、これらの薬以外に、熱で失った「水分」を点滴で補ったり、高熱を下げていくといった、基本的な治療をきちんとうけることが大切です。また肺炎を予防したりする抗生物質も場合によっては、治療上大切です。

4.2009年の新型インフルエンザはどんな特色があった?

2009年の新型インフルエンザには、やや、従来のインフルエンザと異なる点がいくつかありました。
アメリカの報告より以下に述べますと、(N Engl J Med 2009;360:2605-15 )
①若いヒトに多い。約40%の患者は10-18歳であり、わずか5%の患者が51歳以上である。
②消化器症状がある。25%の患者に下痢があり、25%の患者に嘔吐がある。
③重症化しやすい患者がある。とくに、5歳以下の子供、妊娠している方、基礎疾患として腎臓病、糖尿病、慢性肺疾患、等がある方、です。
④従来のインフルエンザウイルスにくらべ、やや潜伏期(感染してから発症するまでの時間)が長い。平均3,5日またはこれ以上とされています。
⑤新型インフルエンザウイルスは、喉(のど)などに存在するα2-6という受容体にも、気管支や肺に存在するα2-3受容体にも結合して増殖できるため、従来のものより、肺炎を生じやすいといった特徴があります。これは、トリインフルエンザウイルスの遺伝子HAが交雑した結果です。(日内会誌99(9):2082-2083、2010)。

このほかにも、夏期になっても感染がおさまらず、むしろ持続していることが問題視されています。
その他、臨床症状は、個人によってかなり「ばらつき」があり、同じ兄弟間でも、1人が軽症で経過しても、もう1人は、発熱が4日も続き、点滴による水分補給が必要だった、など「個人差」が顕著です。
最近、アメリカので、家庭内での「新型インフルエンザ」の伝染性についての報告がありました。それによると、家庭内感染は13%で、従来のインフルエンザより低いことが示されました。また、18歳以下の家庭内接触者が発病する確率は、19歳~50歳のそれに比べて2倍であるとされています。(N Engl J Med 2009;361:2619-27).また、アメリカの高校での校内感染の頻度は潜伏期の中央値は1.4日で、学校内での増幅率(reproductive number)は3,3とされています。つまり、潜伏期は短く、1人の生徒から約3人の生徒が感染発病したことになります。(N Eng J Med 2009;361:2628-36).
2010年になり、2009年に大流行したこの「新型インフルエンザ」の詳細が、報告されました。人口10万人に対する死亡率は、カナダで1.32、オーストラリアで0.93、シンガポールで0.57、日本は0.16で、欧米諸国に比し、一桁少なく、段違いに低かったと報告されています。すなわち、新型インフルエンザに関して、世界最小の死亡率と報告されています。(日内会誌99(9):2083-2084、2010)。これは、国際的にみて、患者がすぐに医療機関にアクセスでき、すぐに検査ができて、早期診断され、早く「抗ウイルス薬」が内服できた結果と、日本内科学会誌は
評価をしています。

5.インフルエンザの予防接種は?
今年の予防接種は平成29年2月11日現在終了しました。
早めに接種しましょう。

くわしくは本院にお電話(052-760-9981)ください。

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