結核について

日本の戦前は、今より栄養状態がよくなかったこともあり、結核という病気が蔓延していたと思われます。「女工哀史」という書物からは、当時の女性労働者の方が、低栄養下で、長時間労働をされ、若い生命が多数結核に侵されていく姿が想像され、日本の医療事情がいかに今と違ったものであったかを垣間見ることができます。戦後、日本人の栄養状態は、西欧化とともに徐々に改善し、結核の罹患率は、人口10万に対し400近い値から急速に減少し、1996年には33.7まで下降しました。しかし、この値も欧米の先進国と比較しますと、デンマークやイギリスなどが10前後ということからも、まだ高いと考えられます。残念なことに、1997年はこの結核の罹患率は、33.9と上昇に転じ、今後は、結核という疾患を医療側からも再検討する時期にあるとおもわれます。

1.      最近の結核について

結核は、むかしからある病気の1つで、とくにここ最近で病気そのものに大きな変化があったわけではありません。だだし、最近の傾向でとくに特記すべきことは、結核である可能性を考えにいれていないために、“早期診断が遅れる傾向”であるということです。とくに、若い世代のなかで、「結核は過去の病気」といった誤った見解が一部にあることがその一因であるように思われます。

2.      結核の早期診断は?

一番大切なことは、「何かいつもとは違う。体の調子が変だ。」という症状がある場合に、医師に相談することです。結核の初期症状は、咳(せき)が続くだけのものから、微熱、衰弱まで多様であり、この病気に特有なものはありません。このなかには、医師に相談してはじめて結核を疑うようなケースもあり、患者さんのみで判断することには限界があるように思われます。医療側からみた結核の診断法は、むろん医学の進歩により新しく進歩した部分もありますが、基本は今でも、ツベルクリン反応、胸部レントゲン写真、血沈、痰(たん)の検査などであり、これらの11つは、けっして今でも軽視できるものではありません。咳やたんが長く続いたり、微熱が続くなど、体の異常をきたした場合は、まず、医師に相談するようにしましょう。

3.      結核は治る病気か?

基本的には、結核は細菌感染症であり、早期発見、早期治療を行えば、治癒しうる疾患と考えられます。ただし治療薬の種類や、その薬の飲み方、服用期間、は結核の病態と病期(わかりやすく言えば、どのくらい病巣が大きいかとか、どのくらいの広い範囲が結核菌にやられたか、など)により、かなり複雑なので、これらはきちんと医師に説明をうけるようにしましょう。

4.      結核菌とは

結核菌は、マイコバクテリュウムという細菌のなかまに属し、比較的、酸に強いことから「抗酸菌」とよばれることもあります。通常、細菌が私たちのからだに侵入すると、アメーバー状の白血球という「戦闘機」が飛来し、これを食べてしまいますが、結核菌はなかなか強く、1匹の白血球でこれをたいじすることができません。このため、結核菌の周りをこの白血球が数個で取り囲み、これをコンクリートで固めるような方法で、私たちのからだは、菌を退治します。

したがって、十分な栄養や休養をとらなかったりすると、このような大掛かりな免疫機構が働かないことがあり、発病しやすくなると考えられます。予防のためにも、十分な睡眠、休養、栄養をとるようにしましょう。
5. 「ろくまく」とは?
ろくまくとは、肋膜炎、すなわち、結核性胸膜炎のことで、結核菌によって、肺のまわりに炎症(はれ)が起こって、肺の周りに、水がたまる病気のことを、とくに戦前にこう呼んでいました。いまでも、若いひとの結核の一部はこのような形式で発症します。

             まえのページにもどる