「このスライムピアスどうする? 僕とヤンガスは耳に穴開いてないから、ゼシカが着けた方がいいと思うんだけど」
エイトにスライムピアスを差し出され、私は無意識に今着けてる指が行った。

私たちは南の大陸を先に進む前に、レベルアップを兼ねて、世界中に何故か置いてあるっていう宝箱の中身を回収して回っている。
その中から手に入れた一つが、今エイトが持っているスライムピアス。
それには、ほんのわずかだけど、身を守る魔法が封じられている。
大抵の装飾品には一つ、特別高価な物でも二つの魔法を込めるのが限界で、二つ以上の装飾品を身に着けたら、封じられてる魔法が何故か相殺されてしまうので、今身につけてる金のロザリオか、このスライムピアスのどちらかを選ばないといけない。
金のロザリオは、呪文の威力を少しだけ上げる効果があるらしいけど、正直なところ、全く実感が無い。
私は打たれ弱いから、本当は少しでも身を守ってくれる物を身に着けた方がいいってわかってるけど……。
兄さんの形見のピアスを外してまで、身を守る事を優先する気には、どうしてもなれない。
「私は今のままでいいわ。やっぱり少しでも魔法の威力は上げたいし。ヤンガスこそ、何も装飾品は着けてないんだから、この機会に穴を開けてみたら?」
「い、いや。アッシは身体に穴を開けるとか、そういうのは苦手でげすよ」
顔や腕にこんな傷痕残してる人が、何を弱気なこと言ってるんだか。
「それより、ククールは耳に穴が開いてるんだし、ククールにやっちゃあどうでがす?」
ヤンガスに話を振られたククールの指が、ほんの一瞬だけ、自分のピアスに行ったのが見えた。
「オレはいい。そのピアスより、騎士団の指輪の方が守備力が高いからな」
それは全くその通りなんだろうけど、私は直感で、それだけが理由じゃないと感じた。

「ねえ、そのピアス。もしかしてオディロ院長の形見なの?」
私がそう訊ねると、ククールは本当に驚いたって感じで私を見た。
「何で…わかる?」
ククールが自分のピアスに触れたのを見た時、私と同じ気持ちなんだって感じたの。
この人の態度は色々とアレだけど、亡くなってしまった人の残してくれた物を大切にする気持ちは一緒なんだって思うと、ちょっと嬉しいような、不思議な気分。
それに、想像した以上にククールが動揺してるのも、ちょっと気分がいい。
「私もそうだから、何となくね。このピアスとネックレスは、サーベルト兄さんがこのドレスに会わせてプレゼントしてくれたものなの。魔法が封じられてるわけじゃないんだけど、これを身に着けてると兄さんが近くにいてくれてるように感じるから、ずっと身につけていたいの」
「そっか……」
そう小さく呟いたククールの顔が、あんまりにも優しい表情を浮かべていて、不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。
確かに外見はいいのよ、この人。
全然、私の好みのタイプではないけどね。

「確かにこのピアス、オディロ院長がくれたんだ。耳に穴を開けたのはいいけど、そしたらオレのファンが一斉にピアスをプレゼントしだして、どれを着けても角が立ちそうだって困ってたら、これをくれた」
確かに、修道院長に貰ったものを着けてたら、誰も文句は言えないだろうけど、それだったら穴を塞いだ方がいいんじゃないの?
それに、修道院の僧侶がピアスって、していいものなの?
オディロ院長って、随分ククールには甘かったみたいね。
そう心の中でツッコんだけど、次のククールの言葉で、一気に脱力した。

「それと髪も長くなりすぎた時、このリボンも院長がくれたんだ。『ククール。これで髪をくくーるといい』ってな」
私だけじゃなく、エイトもヤンガスもその場にガックリと膝を着いてしまった。

もしかしてオディロ院長がククールに甘かったのって……他に誰もダジャレを聞いてくれる人がいなかったからかもしれない。

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