子供の頃の私はとってもわがままで、いつも無理なことを言って、周りの人達を困らせていたわ。
その中でも、一番困っていたのは、きっとエイトね。

おばあさまもお母様も、私が十歳にもならない時に亡くなってしまい、家族はお父様一人だけになってしまった。
それは私のことを『ミーティア』と名前で呼んでくれるのも、お父様だけになってしまったということでもあった。
私はそのことが寂しくて、たった一人のお友達だったエイトに、お兄様になってもらおうと思ったの。
エイトは優しいから、『これからは、私のことはミーティアって呼んでね』ってお願いすれば、すぐにその通りにしてくれると思ってた。
なのにエイトは、『それはできません』の一点張りで、私のことを名前で呼んでくれようとはしなかった。

今にして思えば、名前で呼んでほしいっていうのは一時の思いつきでしかなかったんだけど、いつもは何でも言うことをきいてくれるエイトが、初めてミーティアの頼みをきいてくれなかったってことにすっかりムキになってしまったんだわ。
エイトが私のことを『姫様』と呼ぶ度に『ミーティアよ』『ミーティアと呼んで』『ミーティアだってば!』って言い直させようとしていたわね。
それでもエイトは、とうとう一度もミーティアを名前で呼んでくれなかった。
そして気がついたら私の方が、自分で自分を『ミーティア』って呼ぶクセがついてしまっていたのよ。
私はもう子供じゃなくて、サザンビークの王子と結婚まで決まったのだから、こんなクセは直さなきゃいけないってわかってるのに、これがなかなか難しいの。
それもこれも、エイトが見かけによらずに頑固なせいなのよ。ちゃんと責任取ってちょうだい。
もしエイトが一度でいいから私のこと、ちゃんと『ミーティア』って呼んでくれたら、案外気が済んで、自分で名前を呼ぶのはやめられるかもしれないんだから。

ね、だから、エイト。
どうか私を名前で呼んで。
ミーティアは、あなたと家族になりたいの。

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