「流砂のように」


※小説というより詩です




わたしは目覚めた
重い瞼をゆっくりと開ける
ぼんやりと視界が広がっていく
果てしなく何もない大地
空との境界線すら分からない

ここは…どこ?
夢?

まるでわたしという存在は消えてなくなり
どことも分からない空間に意識だけが漂っている
そんな気がした

ここがどこなのか
それどころか、わたしが誰であるのかさえ
今のわたしには分からない

わたしの身体は泡のように消え
もう苦しむことも
悲しむこともないのかもしれない

すべてを忘れられるなら
そうであってほしい
けれど
わたしの身体は消えてなどいない
誰であるか分からない
そう仕向けているのはわたし自身
ここがどこなのか
それは現実を受け止めきれないわたしの悪あがき
わたしの身体は今も
ここにある
そしてここは…

すべてが夢であればいいのに
また涙があふれた

こんなに泣いているのに
涙がかれることはない
どれだけ泣けば
この涙はかれるのだろうか
どれだけ泣けば
思い切ることができるのだろうか

分かっている
泣いても泣いても
悲しみは深くなるだけ
あなたを思い切る日は
永遠に来ない

でも
この涙は止められない
あなたを想うわたしがここにいる限り

忘れられるものなら
忘れたかった
けれど
あなたのさよならは無情にもかき消され
わたしの耳に届くことはなかった
せめてそれを聞いていたのなら
もっとたやすく忘れ去ることができたのに

あなたはどこへ消えた?
どこにいる?

…ああ、求めてはいけないのに
わたしの魂が
またあなたを探している
見つかるはずもないのに

自分の居場所すら
分からないというのに

ここはどこなのか
分かっているのに…

逃げるように目を閉じた

・・・・・・・・・・・・・・

耳元で風のうなる音がする
まるで砂漠に吹く乾いた風のよう
ここは砂漠なのかもしれない

あなたというオアシスを求めて彷徨い
清らかな水を見つけても
それはいつも蜃気楼
わたしの手はいつも空(くう)を舞い
触れられるものは目の前の砂だけ
あなたではない

…砂

あなたはまるで砂のよう
どんなにきつく握り締めても
さらさらとわたしの手の中から流れ落ちていく
どんなに想ってもどんなに抱きしめても
風が吹けば舞い
追いかけてもつかめはしない

それでもわたしはあなたを求めてしまう

わたしは砂に魅入られ朽ちた廃墟
心ちぎれるほど泣いても
涙は砂に消え
流した涙があなたに届くことはない
砂の大地に埋もれたまま
いつだって身動きすらできない
わたしの声はあなたに届かない
願いも祈りすらも届かない

砂はただ
流れるだけ

風に舞う砂はどこへ行くのか
わたしではない誰かのオアシスとなるため
旅を続けるのだろうか
わたしの想いなど
気づきもせずに

砂に消えたわたしの涙
せめてそれがあなたに繋がっていてほしい
わたしの悲しみを
わたしの想いを
風に乗ってあなたのもとへ

けれど
そんなささやかな願いすら叶わない
涙はどこへも行きはしない
ただ
流れては消える
何も残りはしない
あなたのように

わたしも流れていきたい
砂のように
苦しみも悲しみも
何もいらないから

ああ
砂に眠る精霊たち
わたしの願いを叶えてほしい

あなたを忘れたい
悲しみを忘れたい

そして

砂になりたい

・・・・・・・・・・・・・・

再び目覚めたわたし
見慣れた天井
そっとシーツに触れる
何もない
温かさも何も

あなたは消えた
砂のように

これは現実

夢ではない

わたしはここにいる

ああ

砂に

なりたい




**********あとがき******************
重い内容の詩ですみません…(^^;)
歌詞が歌詞ですから、重い内容になるのは分かりきっていたので最後くらいは…と思っていたのですが、曲を聴いていても悲しみを背負ったまま何も終わってないんですよね、雰囲気的に。できれば曲の雰囲気そのままに仕上げたかったので、結局気持ちの切り替えをしないままの最後になってしまいました。

これは恋人が去っていった後の気持ちを書いてみたのですが、主人公を不特定にしています。男性でも女性でも想像できるように一応仕上げました。が、だいたいの方は女性で想像したのではないでしょうか。”わたし”になってますし、主人公は泣いているので女性というイメージが強いかなと。
でも高見沢さんが歌っているということで、高見沢さんのイメージもやや入っているのも事実です。
みなさんのイメージはいかがでしょうか…。

2005.11.15

感想をいただけるとうれしいです(*^^*)
メール または 賢狂のブログの拍手コメントへ