「負けず嫌い」


「お疲れ様でした!」
「お疲れ!」
「桜井さん、おめでとうございます!お疲れ様でした!」
「うん、ありがとう。お疲れ~」
「お疲れ様です!」
「お疲れさん~」
頭を下げつつ労ってくれるスタッフたちに声をかけながら、三人で楽屋に向かう。

たった今、桜井のバースデーである1月20日の配信が終了したところだ。
今日も大いに笑い、リアルタイムチャットが大量に流れまくり、きっとファンのみんなも楽しんでくれただろうと俺は確信していた。
後ろをついてくる桜井は、みんなから祝福されて気恥ずかしそうに苦笑いを浮かべているが、それでもうれしそうだ。
こんな状況だからこそできた二年連続のバースデー当日配信。そういう部分はいささか引っ掛かりはするが、桜井あってのTHE ALFEE。桜井のバースデーを当日みんなで祝えたことは喜ばしいことだ。

「さっきのバースデーケーキ、面白かったなぁ」
「ふふ。ケーキじゃないけどね」
そう返してきた坂崎は、何やらスマホの画面を凝視している。きっとさっきの配信で撮影した写真をインスタにアップしようとしているんだろう。
「でも、ちゃんとケーキっぽく飾っててすごいよな。まさかチャーハンと揚げ物がバースデーケーキとして登場するなんてなぁ」
「確かにすごかったけど、面倒くさいこと頼んじゃって申し訳なかったよ。別に普通のケーキでよかったのに」
桜井が言葉通り、申し訳なさそうに言う。
「たまにはいいんじゃない?変わったケーキでもさ」
「まぁね」
「あ、ちゃんと分けたやつをくれるらしいから、あとで食べようぜ。さっきはちょっとしか食べられなかったし」
「クーッと酒を飲みながらね。いいねぇ!さっさとシャワー浴びてこよう!」
「おう、行ってこい」
桜井が軽やかなステップを踏みながら、俺を追い抜きシャワールームへと向かった。
配信ではノンアルコールのシャンパンやビールしか飲めていないから、桜井にとってはここからがようやく待ちに待ったお楽しみの時間になる。
バースデーだからといって飲み過ぎないといいのだが、はたして…。

坂崎と二人、楽屋に入ってとりあえず椅子に腰掛けた。
ふーっと息を吐いて、仕事が終わったことを実感する。
ライブほどの疲れはないが、一応進行役だ。
もはや坂崎のポケットから出てくる生暖かいパンにも慣れたが、桜井のくだらないボケをあしらい、坂崎の下ネタに吹き出さないように気をつけて進めなければならないので、それなりに疲れるのだ。

ふと見ると、坂崎はまだスマホとにらめっこをしていた。
いつもはパパッと書いてパッとアップするのに、やたらと時間がかかっている。
長文なのだろうか。珍しい。
俺もスマホをタップして急ぎの連絡がないか確認する。
特にこれといった連絡は来ていない。
今日はこれで仕事終わりになりそうだと、ホッとして椅子に深く腰掛けた。

「失礼します。先ほどの…えっと、ケーキ?取り分けましたので持ってきました」
スタッフが皿に分けたチャーハン&揚げ物ケーキを持ってきた。
テーブルに置かれた皿の上は、何だかお子様ランチのようである。
国旗の旗が立っていたら、完璧それだ。
67歳用のケーキには見えない。
「ありがと」
「桜井さんがシャワーを出る頃、飲み物も持ってきますね」
「うん」
一旦、スタッフが退室する。
桜井が戻ってきたら、もう一度ちゃんと乾杯して食べるとしよう。
取り分けられたお皿も記念にと、スマホのカメラでパチリ。
ケーキと言いがたい見た目だが、印象深くて思い出に残るケーキであることは間違いない。

「…う~ん…」
突然、坂崎が唸った。何か困っているようだ。
「なに、どうかした?投稿できないのか?」
「え?投稿?」
顔を上げてきょとんとする。
「え?インスタにさっき撮ってた写真をアップしてたんじゃないのか?」
「インスタ?ううん、違うよ」
「え、違うの?じゃあ、何をやってて困ってるんだよ?」
「調べてたんだけど、分かんなくて」
「…調べてた?何を?」
「さっきのこれ」
そう言って見せられたスマホの画面には、先ほど配信で登場した桜井の写真が表示されていた。
「桜井の写真?」
「うん。さっき答えられなかったのが3枚あったじゃん?気になってさ」
配信で登場したのは10枚の桜井の写真だ。
それを使って、”90年代の桜井はどれ?”とか、”どっちの桜井が若い?”、”何のシングルの写真?”なんていうクイズを出したのだ。
その時、桜井本人より坂崎の方が早く答えていたし、他の写真もいくつか言い当てていた。
”おまえ、桜井のことが好きだろ!"とからかったのだが、3枚の写真については残念ながら二人とも分からず、そのままコーナーは終了してしまった。
どうやら坂崎はそれがものすごく気になっていたようだ。
「…え、そんなに気になってたんだ」
「まぁね。桜井が好きなんだろって言われたぐらい正解したのに、分かんないのがあるっていうのが何か癪でさ」
まるで桜井のファンみたいな発言である。
「残った写真って結構最近のばっかりだったでしょ?若い頃の写真ってすごい記憶に残ってるけど、最近ってあんまり頭に残らないんだよね」
「確かに。昔のは苦い思い出とかあって、やたらと覚えてるんだよな」
「高見沢が嫌いな”Sunset Summer”のジャケットとかね」
「そうそう。で、分かったのか?」
「残った写真、左の上下は最新の”The 2nd Life”と”あなたに贈る愛の歌”だっていうのは分かったんだ」
「…あ、そうなんだ。最近のなのに記憶にないもんだな」
「ね。あ、ちなみに”The 2nd Life”は初回限定盤C、”あなたに贈る愛の歌”は通常盤だよ」
「あ、そう…」
初回限定盤やら通常盤やら、そこまでの情報はいらないけれど。
「でもさ。下の右から二番目のやつが分かんないんだよね」
「…え、そうなの?」
坂崎のスマホを覗き込む。
指差す先にある桜井の写真は、落ち着いたブラウンの衣装を着ていた。
ヒゲが白くなっているから、ここ数年のものだろう。
「うん。この衣装でのCDジャケットは見当たらなかったから、そういうのじゃなくて、おそらくアー写だと思う」
「これだけアー写なんだ」
「おそらくね。俺の見立てでは40周年の頃だと思ってるんだけど、同じものが見つからなくてさ。で、困ってたわけ」
「いや、そこまで分かったらもういいんじゃないの?十分でしょ」
「まぁね。40周年の頃のインタビュー映像があって、これと同じっぽい衣装を着てる桜井は見つけたし、見立ては間違ってないと思う。でも、同じショットが見つかってないのが何かなぁ」
「そ、そんなに気になるならスタッフに聞いたら?選んだやつに聞けばすぐ分かるだろ」
「そりゃ聞けば分かるだろうけど、それは避けたい」
「なんで?」
「だってさぁ…何か嫌じゃん。スタッフに負けたみたいになるもん」
「ええ…」
「分かんなかったんだ~と思われたくないし、自分で調べたいんだよね」
そう言って、坂崎はまたスマホとにらめっこを始めた。
桜井の友達代表で写真当てクイズをしてもらっただけなのに、この熱さ。
配信では”桜井が好きなんだろ”とからかったが、これはからかってはいけないレベルの愛がありそうだ。
もはや全国の桜井ファン、”まさらー”に匹敵するほどの愛にあふれている。
実はこいつはまさらーなんじゃないだろうか。
「…本当、桜井が好きなんだな。そこまで調べようとするなんて」
「何言ってんの。もし高見沢の写真でクイズして、同じように分かんないのがあったら同じことするよ」
「えっ」
スマホから顔を上げて、ふふっと笑って俺を見る。
「だって、バンドのメンバーってだけじゃなくて友達代表だよ?ファンにだって他の誰にだって負けたくはないじゃん」
他の誰にも負けたくないという言葉に内心うれしくなるが、照れくさくて素直に喜べない。
「…な、何だよ~。おまえ、俺と桜井がそんなに好きなの?」と照れ隠しにからかうが、速攻で反撃される。
「うん、二人のことは誰よりも好きだからね」
「…っ」
あまりに素直に言われて、何も返せない。
なに、こいつ。
なんなの、こいつ。
「あ、高見沢、照れてる~」
「ばっ!…照れてねーよ!」
「照れてるじゃん」
「ち、違う!照れてない!何言ってんだと思って!!」
「だって本当のことだもん。高見沢だって桜井のこと好きでしょ?もちろん、俺のことも」
「…そ、そそそりゃ、嫌いだったらこんなに長くバンドやってないし…」
「それ、好きってことでしょ」
「え、いや、まぁ、好きか嫌いかって言われたら、そりゃあ…まぁ…」
「好きだよね?」
「…う、あ……す、好きだけど……そ!そういや、桜井のやつ、シャワー長くないか!?俺、み、見てくる!」
俺は激しく照れくさくなり、慌てて楽屋を飛び出した。
小悪魔だ。
とんでもない小悪魔が楽屋にいる!
(桜井!桜井ーっ!)
俺は桜井に助けを求めるため、シャワールームへと向かうのだった。


一方、一人楽屋に残された坂崎は、黙々とスマホで調べもの。
インスタに配信の写真をアップするのも忘れて、ただひたすら調べ続ける。

他のことならいざしらず、桜井のことで分からないことがあるなんて悔しい。
みんなに言えないことも色々知っているし、50年近く傍で見ているのだ。
ファンにもスタッフにも負けたくない。

「分かるまで調べてやる」

桜井の友達代表は、誰よりも桜井が大好きで負けず嫌いなのであった。


おわり



***********あとがき*******************
読んでくださってありがとうございます(^^)
SBS(桜井さんバースデースペシャル)の配信を観て、浮んだので書いてみました。
あそこまで桜井さんの写真が分かったら、きっと全部知りたくなるだろうなとまさらーは思ったので、きっと桜井さん大好きな幸ちゃんもそう思ったんじゃないかなと!
ファンも負けていられない!そう思った配信回でした♪

2022.01.26


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