「雨の肖像」



 幾筋もの流を描いて、凍えるような雨が降る。

 この心の中を、そのまま現したかのように。

 激しく落ちるその滴の群に、街並みも白く隠されて、ただひたすら立ち尽くす。

 来るはずのない、あなたを待ち侘びながら。


 一瞬、車のライトに照らされて、辺り一面に光の粒が踊った。

 瞬きをするほどの、ほんの小さな時間。

 その光景に、あなたの微笑みを見つけた気がして、

 通り過ぎた風を求めるように、視線を追わせる。

 けれどそこには、遠ざかるバックライトだけが霞んでいた。


 ふと、口先に自嘲が浮かぶ。

 こんな所に、あなたがいるはずもない、と。

 そしてそのまま、飽きることなく雨を降らせ続ける、低く沈んだ空を仰いだ。



 あなたに、逢いたい。

 声を聴いて、そのぬくもりを包み込んで。

 幸せに揺れる瞳を見つめて、優しく頬に口付けて。

 強く、強く抱き締めたい。

 切ない痛みに血を滲ませる心を、そっと癒していくように。



 しかし、それは・・・。

 どれだけ慟哭しようとも、叶うはずはないけれど。

 あなたの傍には、どんな時でもあいつの影が寄り添っている。

 その指にはめられた、証という呪縛で守られながら。

 それでも願わずにはいられない。

 伝えられない想いが消せない炎となって、この身を焦がし続けていても。

 声に出せない叫びが、鎖のように重く縛りつけて、ここから身動きもできないまま。

 刃に押し潰されるような激痛に、倒れることもできない。

 何もわからなくなるほどに狂ってしまえば、楽になれるのだろうか。

 独りよがりの妄想という深淵に、浸ってしまうことができるなら。

 どんな苦痛も、もう感じることはないのかもしれない。


 この身には、それすらも許されはしないけど。

 漆黒の闇の中、あなたのもとへと心が旅立つよう、

 この背中から一対の羽が生えていく感覚も、忘れ果ててしまったんだ。

 諦めすらも、もう、止めてしまったのだから。



 雨雲を見上げていた視線を、足元へと落とす。

 瞳の中に溜まっていた、雨が頬をつたって流れ出した。

 止めどなく、止めどなく。

 冷たい雨が溢れ続ける。

 鳴咽すら、雨音にかき消されて気付かないほどに。



 このまま雨が降り止まないのならば。

 どうか、この腕に与えてください。

 天使の涙などではなく。

 あなたの、愛という名の慈雨を。

 どうか、ほんの少しだけ・・・。



〜あとがき〜


ほんの少しでも・・・ただ想うことすら罪になってしまうような切なさと、冷たい雨とを感じていただくことが出来 たでしょうか。
短編とはいえ、小説というよりもまるでポエムのような短さですが、その分想いを凝縮したつもりです。
どんなに願っても、叶うことのない想いを込めて・・・。
曲のイメージの短編小説、というコンセプトで書いているので、どの話も曲を聴きながら読んでいただきたいと は思っているのですが、今回の「雨の肖像」は、特にその気持ちが強いです。
なので、もし宜しければ、是非一度CDをかけながら読んでみてくださいね。


・・・と、シリアスな話なのだから、あとがきも真面目に書けと相方に言われたので頑張ってみたわけですが、 ちょっと肩が凝ってまいりましたので素に戻ろうと思います。(ぉぃ)
この曲は本当に、出来るだけ歌詞のイメージ通りに書こうと決めていたので、かなり悲しい話になってしまいま した。
ただ、「瞳の中に溜まっていた、雨が〜」のくだりは、とあるライブ中高見沢さんが「顔を洗ってると、目の所に 水が溜まるんだよねー」と言っていらっしゃったもんですから、それをネタにした、というオチがあります。(台無し)