「星空のRENDEZVOUS」



 君が僕の家に通い始めてから、今日でちょうど3ヶ月。
 最近ではもう、通っているというより一緒に暮らしているような感じ。
 昼間の間だけだけどね。
 初めて会った時、人見知りしない君は、すぐに僕の家に上がりこんだ。
 普通は警戒するよね、会ったばかりの男の部屋に来るって。
 そりゃいくらなんでも、いきなり襲ったりするような野獣な男じゃないけどさ。
 それでも紳士ばかりじゃないから、男ってやつは。
 まあ、その時何があったって訳じゃないんだけど。
 それどころか、未だに朝まで一緒にいたことがないのが現状なんだ。
 芸能人なんてものを職業にしている僕は、昼過ぎか、もしくは夕方から仕事に出ることが多いから、君は僕が帰ってくる前に居なくなってしまう。
 たまに、気が向いたように僕の帰りを待っていてくれる時はあるけどね。
 それでも、夜が更ける前には僕の家を出ていってしまうんだ。
 ずっと居てくれてもいいのに。
 いや、ずっと傍にいて欲しいのに。
 君は気のない素振りで、
 “他にいっぱい好きな子がいるんでしょ”
 なんて冷たい態度で。
 確かに僕は気が多い。
 それは認める。
 可愛い子にはすぐ目がいくし、手も早いって、仲間内には評判だし。
 あんまり威張れたことじゃないけどさ。
 そのくせ、僕が楽しそうに電話してたりなんかすると、寂しそうな瞳をしていたりするんだ。

 電話が終わると、すっと横に来て、僕に身体を寄りかからせたり。
 そんな、甘えたがりな所も、すっごく可愛くてしょうがないのに。
 君だけは特別なんだって、どれだけ伝えれば分かるんだろう。
 言葉なんかじゃ、君は信用してくれないよね。
 だから僕は君に見せてあげることにした。
 君への気持ちがどれほど大きくて広くて数えきれないかってことを。

 僕のありったけの、君への想いを。


 そんな訳で、久しぶりの休日がとれた今日、それを実行しようと計画していた。
 夕方までに何とか家の仕事を終わらせないといけないから、スケジュールはいっぱいいっぱい。
 君も朝から来ていたけれど、構ってあげられなくて、ほったらかしの状態。
 忙しそうに動きまわっている僕を横目に、君も勝手知ったる僕の部屋の中を、あれこれと物色しながら暇を潰していた。
 もしかすると、僕の邪魔をしないように気を使っていてくれたのかもしれない。
 きまぐれな君だけど、そんなさりげない優しさを持っていてくれるから。
 昼を少し過ぎた頃になると、さすがに退屈になったのか、僕のベッドの上に寝転がりながら、拗ねた様子を見せていた。
 ごめん、もう少しだけ待ってて。
 この後の時間は、君だけのものだから。
 あとちょっとだけ、待っていて。



 やっとなんとか全部の用事を片付けることができた。
 時計を見ると4時半ちょっと前。
 予定より早く終われて一安心だ。
 ふと、ベッドの上を見てみると、君はすっかり眠り込んでいた。
 ベッドサイドに腰掛けて、そっと君の頬を撫でてみる。
 くすぐったかったのか、小さく身じろいだけれど、目を覚ますようではなかった。
 いいよ、まだ時間はあるから、眠らせておいてあげるよ。
 薄く開けた唇から、君の吐息が聞こえる。
 どうして君を見ていると、こんなにも優しい気持ちになれるんだろうね。
 二人でいると、いつも、不思議なほど暖かい空気に包まれる。
 ねえ、君は今、夢を見ている?
 その夢の中に、僕は居るのかな。

 窓の外がだんだんと夜の気配を見せ始めてきた。
 そろそろ出かけた方がいいかな。
 まだ眠りの中にいた君を起こして、車の鍵を用意した。
 君は寝起きの顔で、きょとんとしていたけれど、出かけると言うと、素直についてきてれた。
 助手席に君を乗せて、エンジンをかける。
 そういえば、君と車で出かけたことって今までなかったね。
 近くの買い物なんかは、二人で歩いて行ったりはしていたけど。
 車で出かけるような場所へは行ったことがなかった。
 どうしてだろう。
 そうか、君はあまり外に出かけるのが好きじゃなかったんだ。
 強い日差しが苦手なんだよね。
 でも今日は特別。
 夜だから、日差しなんてないし。
 あたりまえだけど。
 そんなことを考えながら夜の街の光の中を通りすぎていく。
 君は窓のガラス越しに流れていく風景を、少しだけまぶしそうに眺めていた。
 人工的な光が、だんだん消えていき、かわりに自然な明かりが灯り始める。
 小川のせせらぎやカエルの声なんかが聞こえてきたりして、かなり田舎に来たように思えるけど、実はまだ都内。
 と言っても県境ぎりぎりなんだけどね。
 東京都だから、「都境」か?
 ま、いいや。
 車を路肩に寄せて、エンジンを止める。
 助手席から降ろすと、君はうっとりと空を見上げた。
 夜空に広がるのは、目一杯の星達。
 満天の星っていうのは、これだって言えるくらいの光景。
 東京に空はないって言われるけど、少し外れまでこれば、まだまだこんなに綺麗な夜空を見ることができるんだ。
 これが君に見せたかったもの。
 どんなものよりも真実な、僕の想いの大きさだよ。
 僕達のいるこの星をも包んで、広がり続ける宇宙のように。
 蕩けるように星達を見つめ続ける君の横に佇んで、僕は流れ星を探していた。
 願い事はただ一つ。

 「いつまでもずっと、君と共にあるように」

 二人で走り続けていたいから、この夜空のなかを・・・ 



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〜あとがきと言う名の悪あがき(涙)〜

星空のランデブーに出かける前から、ランデブーしているまでの話でございました。
かなり短かい時間でしたが(^^;)
また甘い話だったので、ところどころで恥ずかしくなり、おもわず笑いをいれてみたり・・・。
ちなみにこの話の中の「君」は、実は猫、という設定で書いておりました。
そう思って読むと、ちょっと坂崎さんが変わった人になってしまいますが。(^^;)
坂崎さんが「ネコロジー」で、捨て猫が世の中から居なくなったら、本当の意味でのペットとして一匹だけを愛してみたい、と書かれていたので、それを元にしてみました。
まあ、かなり曖昧な書き方をしたんで、読んだ人が「君」は私だ!と思ってもらっても、可かなと。(笑)

この話は、自分で勝手に『幸ちゃんと猫シリーズ』と呼んでおります。
シリーズということは続くのか?ってことになりますが、それはまた、追々。