「ディアボロ奇譚~三人の悪魔~ さん」
  作:幸乃さん


今日もトシは扱かれる。
「なんで俺ばっかり~!?」
「まだ叫ぶ余裕があるのか」
かれこれ1時間ほど逃げ逃げ回っているだけのトシに向けてマサは自分の力を固めて軽く飛ばす。
ぶつかれば命の危険を感じるほどの力の固まりをトシは全力で避ける。
「避けるな」
「避けなかったら危ないだろ!!」
膝に手をついてなんとか倒れ込まないようにしているがもう体力的には限界だ。
避けなかったら大ケガするほどの攻撃を本能で避けているだけなのにどこまでも非情な上司は手加減するどころか先ほどよりも強力な力を溜めている。
「避けないで力を使って反らせろ」
言いながら力を放つ。
下っ端悪魔の自分にランクがものすごく上の上司が放つ力を自分の力を使って反らせるなんて芸当ができるものか。
「無理言うなっ!…っぅわー!!」
今マサが放った力は避けたトシを追いかけてくる。
全力で走るが全く振りきれない。
ついに足を縺れさせて盛大に転んでしまった。間に合わない、と頭を抱えて丸まる。

トシを追跡していた力の塊は止まることなく突っ込んでいくがマサはピクリとも動かない。
力がトシにぶつかる寸前トシの周りに薄い膜が現れて塊を弾いた。
それを見てマサはまたか、とため息をつく。いつも最後は無意識に上司の力を弾いてしまう。
それだけの力があるくせに今までがうまくいかなかったせいで力がないと思い込んでいてうまく力を使えていないだけなのだ。

「…今日は終わりにしてやる」
勝手に帰ってこい、と言い残してマサは姿を消した。
減点のための講習を行うために作られた特別な空間から上司の気配が消えた事を確認してトシはそのまま大の字になった。
「あのやろう…」
全然息が整わない。
力の差があるのに全然手加減してくれない。本気で自分を消すくらいの勢いで来る上司に怒りしか出てこない。

それでもいつまでもこうしていられない、とゆっくり起き上がって姿を消した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

ドアを開けて倒れ込むといつものように上からタオルを掛けられた。
誰だろう、なんて顔を見なくても分かる。
同じように減点されているくせになぜか上司の扱きを免れているチビだ。
「なんかいつもより疲れてない?」
「今日はいつも以上にすごくて…」
何か思い当たる事があるのかコウは仕方ないなぁと言いながらクスクス笑っている。
「飲む?」
言われてチラッと視線を上げるとコウは液体の入ったコップを持っていた。
喉が乾いていたトシはノソノソと起き上がるとありがとうと受け取る。
一気に飲んでコップを返す。さっぱりとした液体が火照った体を一気に冷やしてくれて疲れが癒された気がする。
「今日もお風呂沸かしといたよ」
「うん、汗流してくる…」
コウはお風呂に向かう後ろ姿にいってらしゃいとのんきそうに手を振って見送る。

☆☆☆☆☆☆☆

「ずいぶん優しいじゃないか」
見送るコウの後ろに現れたマサは面白く無さそうに呟く。
「マサの分もあるよ?…トール」
「はい、マスター」
コウが誰も居ない空間に呼び掛けるとコウよりも少し小さい人影が現れた。
メガネをかけて髭を生やしコウに似ていなくもない人の形をしたそれはコウの使い魔だ。
「マサさんの分です」
どうぞ、と差し出されたコップを受け取って一口飲んだマサはコウの顔を見る。
「トシにも同じものを?」
「あ、気づいた?」
さすがだね、とコウは笑う。
さっぱりとした飲み物。飲み物自体はなんて事ないスポーツドリンクのような物だったがほんのりとコウの魔力の気配が混ざっている。
講習のために魔力切れを起こしかけていたトシのためにコウはこっそりと自分の魔力を分け与えていたのだ。
「大丈夫か?」
「何が?」
ニッコリ笑って首を傾げるチビにマサは顔をしかめる。
「仕方ないでしょ。上司が鬼なんだから。力尽きたら世話しなきゃいけなくなるでしょ」
そっちの方が大変だもん、とかわいく言うコウにマサの眉間のシワがさらに深くなる。
それを見たトールが事務的に告げる。
「わたしがヒトガタでいるのですからまだ心配は無用だと思われます」
それはマサだって分かってる。
コウの魔力で造り出された存在であるこの『トール』という使い魔の形態はコウの状態に左右される。コウの魔力が少なくなれば人の形を保っていられない。だから今のトールを見ていれば大丈夫なのは分かるけど。
「無茶するなよ」
「ボクはだぁいじょーぶ」
マサがポン、と頭に手を置くとコウはエヘヘと笑ってマサを見上げた。

☆☆☆☆☆☆☆

「あーっ!トシ、髪がびしょびしょのまま出てこないでよ!!」
お風呂から上がって来たトシが床を濡らしながら歩いてくるのを見つけてコウがタオルを持って駆け寄っていく。
先ほどまで隣にいたトールの姿はもう無い。
訳あってコウは使い魔を作ったがトシはそれを知らない。トシに知られないようにしているのだから当たり前なのだが。
「そこまでがんばることないのに…」
マサの呟きは誰にも聞かれることはない。

トシの世話をやくコウを見ながらマサは部屋に帰っていった。



―おわり―

*****賢狂コメント*********
新しいキャラが登場しましたね!
トール、その名はもしや!と思われた方、正解です!
Tマネさんも今後活躍してくれることでしょう♪

2021.01.07

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