「ディアボロ奇譚~三人の悪魔~ に」
  作:幸乃さん


「あ~っ‼もう本当に信じられないっ」
「おつかれさま」
いつものように仕事で減点されたトシは上司の地獄のしごきから帰ってきて早々玄関先で倒れ込んだ。
それを予想していたコウはタオルを持って出迎えた。動けないでいるトシの顔の上にタオルをパサッとかける。トシはタオルをつかんでゴシゴシと汗を拭う。
「あのやろう、ここぞとばかりに…」
ぼやきを聞いてコウは楽しそうに笑っている。
なにかがおかしい。ほとんど行動をともにしているこの同僚はなぜ点数が残っているのか。
要領と愛想の良いチビに少しだけ殺意を覚える。
だがトシにはこんなチビにすら勝てる力はまだない。いつか上司もこいつもブッ飛ばす。
「楽しみにしてるね」
トシの心を読んだようにコウが応える。本当に楽しそうなのはまだまだトシではコウにすら敵わない事をちゃんとわかっているからだ。
見た目はチビだしトシの同僚なんて悪魔でも下の方の立場にいるコウだが悪魔歴はトシよりずっと長いらしく経験値から違う。
そして二人の上司という名の教育係はもっと上だ。自分たちの教育係なんてしていなければ畏れ多くて話すこともできないくらい上の階級になっていてもおかしくないほどの強さらしい。
ちなみに自分は本当の落ちこぼれだ。本来ならもう居場所がなくなって消されていてもおかしくはない。
「落ち着いたなら、着替えておいでよ」
悶々と考えているうちに荒かった呼吸が落ち着いていた。コウが言う通りに重い体をよいしょと起こして自分の部屋に向かう。
汗かいて気持ち悪い。
シャワーを先にしようか。
「お風呂用意しといたから浸かってきたら?」
またもや考えを読んだかのようにコウが言う。言う通りにするのも悔しかったがくたびれている体を休ませるのが先だ。
「行ってくる」
それだけ言って浴室に向かう。


「やり過ぎたんじゃないの?マサ」
ヨロヨロと歩く後ろを見送っていたコウは完全にトシの姿が見えなくなったのを確認して振り向きもせずに声をかける。
「トシならあれくらい大丈夫だろ」
いつの間にか現れていた上司はその声に答える。
ここは三人で住む部屋だ。
下っぱ悪魔はその力を暴走させやすい。暴走した時にすぐに対応できるようにチームを組んでいる力の強い悪魔と一緒に住むことになっている。
だからこの部屋にこの上司がいてもおかしくないのだが。
「お疲れさま」
コウは振り返るといつの間にか手にしていた新しいタオルを渡す。マサはありがとうと受け取り軽く汗を拭う。
トシはなんと言っても不器用だ。不器用すぎて持っている力を持て余す。
そんなトシをどんな上司もうまく扱えなくて邪魔者扱いしてきた。そのせいで本人も落ちこぼれなんだと思い込んでいる。
「マサも大変だよね~」
クスクス笑うコウにマサは引き締めていた表情を緩める。
「まあ、仕方ないさ。預かるって決めたのは自分だし」
フニャッっと困ったように笑うその顔を見たらいつもと違う上司にトシはきっと驚くに違いない。
「トシが上がってきたらマサもお風呂入っておいでよ」
「あいつの入った後、色々と大変なんだよな…」
「うん、だから掃除もよろしくね~」
え~っと嫌がるマサに楽しそうに笑うコウ。
「とりあえずそれまで休んできなよ。疲れてるでしょ」
あの体力底なしのトシの相手をしてきたのだ。それはそれは疲れているだろう。
そうする、といいながらマサは部屋に帰っていった。
「まったく”悪魔”でいるのも大変だよね」
この部屋で一番長生きの一番小さな姿をした悪魔は苦笑した。



―おわり―

*****賢狂コメント*********
トシが毎回のようにしごかれていて大変そうですね~。
そしてマサが上司というのが、我が家から見るととても新鮮です!
今後の展開も楽しみです~♪

2020.12.13

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