ディアボロ奇譚~三人の悪魔~
 クリスマスの邂逅(かいこう)
  作:幸乃さん


「あ~あ、せっかく見つけたのにな」
「かわいい子だったのにね、もったいないなぁ」
寒空の下……いや寒空の上、雲の端に座って足をブラブラさせた少年は心底残念そうな顔で地上を見下ろしている。
視線の先には天使の力に守られた女性が気持ち良さそうに眠っている。
先程まで3人の天使と酒盛りをしていた人間の女性。
ひょんな事から人外のモノが見えるようになってしまった、という非常に優良な獲物。
少年の後ろに立って同じように地上を見下ろしている他の人間には着こなしが難しいと思われるような派手な服を着た男が上空の強い風に煽られて絡む長い髪を必死で押さえる。
だったら縛れ、と突っ込む者は今はいない。
「腹減ってたから今度こそ、と思ったんだけど」
派手な男が未練がましく女性を見ている。
人間を助ける存在のアイツらは地上では天使と呼ばれる者。それとは正反対の自分たちは人間の純粋な魂を食べて闇に落とす存在。
人が言うところの"悪魔"というものだ。
「仕方ないよ。アイツに気づかれちゃったみたいだしね。本当に"有能"なんだから」
「あと2人はポンコツだけどな」
「お前らもな」
確かにと笑いあう2人の後ろに黒いスーツをビシッと着こなした黒髪オールバックの口髭を見事に蓄えた男が突然現れて周りを氷点下にするのではないかという程の冷たい声で呟く。
「あ、見つかっちゃった~」
それをものともせず少年がコロコロと笑って迎える。
「いつまで見てても状況が変わるわけでもないし帰るぞ」
今夜は久しぶりに地上に狩りに来ていた。
悪魔が見える人間は心に闇を抱えている。その闇を育てて弱った純粋な魂を食べる。
地上に来て本来の標的を探している最中にたまたま人外が見えるようになってしまった自分たち好みのかわいい女性を見つけたというのに。
それに気づいたらしいアイツが女性を守護していた、いや全てが終わった後も自分の羽根を置いていくなんてするから今後も手出しができなくなってしまったではないか。
好みのタイプだったのに、と多少天使に恨みをぶつけつつ上司という名の教育係の言葉にしたがって今回は自分たちの世界に帰る事にする。
「は~い」
少年がぴょん、と飛び上がって雲の上に立つ。
「ほ~い」
派手な男も一応返事をすると少年の後に続く。
それを見てスーツの男は2人の前を歩きながら告げる。
「途中で勝手に居なくなった事、そのせいで本来の標的を逃がしたこと。減点しておくからな」
そして何もない空間に消えて行ってしまった。
「え~!そしたら俺もう点数残ってないよ!!」
「ふふっ。ボクはまだ大丈夫だもんね」
「待ってよ!!一緒に動いてるのに何で俺ひとりだけ!?」
「そこは日頃の行い、でしょ」
少年は黒い微笑みで派手な男にじゃあ頑張ってね、と言うと楽しそうに駆けて消えていった。
残された派手な男は頭を抱えてうずくまる。
このままだと帰ったら講習という名の鬼のしごきが待っている。
帰りたくない。
何度も罰を受けている身としては恐怖しかない。
上司は見た目によらず普段はこちらの押しに負ける事もあるくらい気の優しい悪魔だが本気を出されると敵わない。なぜなら自分は下っ端だから。
自分が出世すればいいだけの話だが減点評価ばかりではそれもままならない。
ちなみに要領と愛想の良いチビは自分よりも階級は多少上だ。
もうひとつついでにいえば結構な強さを誇る上司が出世できない理由は出来損ない2人を部下に持つせいだった。
『もたもたしてると特別講習追加するぞ』
誰もいない空間に声だけが聞こえる。
派手な男は今帰るから、と叫びながら全力で駆け出すとそのまま姿を消した。
辺りはようやく平穏が戻ってきた。



―おわり―


*****賢狂コメント*********
幸乃さんのスピンオフ小話でした!
なんと、1話目のあの時の気配はこの悪魔たちだったんですねぇ。
あのシーンの裏で、そして部屋に戻ったお姉さんにこんな出来事があったなんて面白い!
悪魔さんたちの今後が気になります~とお伝えしたら、その後も小話を書いてくださいまして、そこから三天使と悪魔さんたちを絡ませたくなり、正式スピンオフにさせてくださいとお願いしてOKをいただきました♪
幸乃さん、ご了承いただきまして、ありがとうございます!
今後の三天使側のお話で、この悪魔さんたちが登場しますので、どうぞお楽しみに!(^^)

2020.11.04

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