「反省会という名のわちゃわちゃ」


「…で、今日は何やるの?」
小首を傾げた小悪魔、もとい坂崎が目の前に座る高見沢に問う。
坂崎の隣には、椅子の背もたれをフル活用して、だらんと桜井が座っている。
高見沢に事務所へ来るようにと言われてやってきたのだが、二人には呼ばれた理由が分からなかった。あのことか、このことか…と一瞬考えを巡らしたが、予想の斜め上の回答がくることが多いので、考えるだけ無駄だったりする。
それに、三人で集まることは苦ではないし、むしろうれしいと思うとにかく仲の良い三人組だ。
高見沢からの呼び出しだ~と喜んで来たことにしておいても、罰は当たらないだろう。
「25日の配信の内容については、ほとんど決めたよね?」
「そうそう。エロ之助の言う通り、もう新たに決めることってないと思うんだけど」
「ちょっと桜井。エロ之助はやめてよ」
「いまだかつてない、ぴったりな名前じゃん」
「ぴったりって言わないでよ」
「確かにぴったりだな」
高見沢も同意してくるので、坂崎は口をつぐむ。民主主義により多数決で”ぴったりな名前”として位置づけられてしまったが、そもそもそう呼ばれるのは配信で毎回のように坂崎が言う下ネタのせいだ。
うれしそうに下ネタを言い、涙を流して笑う高見沢を見て楽しんでいる姿は、どこからどう見ても自発的行動である。
下ネタといえば坂崎、坂崎といえば下ネタ。もはや呼ばなくてはならない名前と言っていいだろう。
ちなみに名字は”エロ崎”、フルネームで”エロ崎エロ之助”。
素晴らしいアコギの名手とは思えない名前である。
「…で、今日は?」
諦めたエロ之助が再度聞く。
「これまでの配信の反省会に決まってるだろ」
そう答えた高見沢も、”王子”そして”騎士”という称号も持っているが、実はこちらも名が一つ増えている。”アクリル板芸の達人”である。もはや右に出る者はいない。
「はぁ?反省会?」
桜井が面倒くさそうに聞き返すと、そう!と高見沢が頷いた。
「反省会なんているか?」
「桜井、何言ってんの!いるでしょ!25日には生誕祭があるんだぞ。ダメだったところは反省して次に生かさなきゃ!」
「高見沢は変なとこで真面目だよね。で、どこを反省するわけ?」
坂崎が問いかける。お風呂とトイレ以外は離さないギターをつま弾きながら、なので、BGM付きだ。
「もちろん、ネタのとこに決まってるだろ。テンポよく行かなきゃいけないところをセリフ噛んだりしたじゃん!台本通りテンポよく頼むよ!」
「先生は厳しいなぁ」
「厳しいねぇ」
「自分のことは棚に上げてなぁ」
「そうだねぇ」
「…お、俺も頑張るし!」
「頑張ってもミスるけどね」
「こいつの場合はそれでいいんだって。ファンも喜ぶし、俺らも爆笑する。一石二鳥!」
「桜井!俺がミスるのを喜ぶなよ!」
「しょうがないよ。面白すぎるんだから」
「そうそう。高見沢はそれでいいんだよ。で、俺と桜井は台本通りにテンポよくやるのね?」
「そう!笑いが半減しちゃうことだってあるんだから」
『はいはい、分かりましたー』
二人の声がきれいにハモる。
「で、あとは?」
「…へ?あと?」
高見沢がきょとんとするので、二人が顔を見合わせる。
あるだろう、他にも、と。
「たくさんあった撮り下ろし曲とか」と坂崎が返すと、
「え?撮り下ろしで反省するところなんてあった?」と返ってきた。
そう言われてみれば、演奏は事前に録ったものだからミスはない。アレンジもよかったと思う。
「あと、特に台本がなかった部分は?みんなの投稿を読む時とかに言い間違いとかして、俺さんざん言われたけど、あれはいいのかよ」と桜井が返すと、
「え?面白かったからいいじゃん」と返された。
確かに視聴者に笑われ、スタッフにも二人にも笑われ、盛り上がっていた。
恥ずかしくて穴があったら入りたかったが、ネタをやってサーッと潮が引いていくよりは数倍いい。
「で、他に反省するところ、あった?」
高見沢に聞かれ、桜井と坂崎はまたハモる。
『ないね』
「でしょ?面白かったところはいいんだよ」
「確かに面白かったよね。桜井の言い間違い。ボオンとか」
「ブフッ!」
高見沢が吹き出した。
「おい!蒸し返すな!!それと高見沢は笑うな!」
「…だ、だって…!」
「高見沢だって毎回色んなボケかましてんだからな!人のこと言えないはずだぞ!」
「ええ、俺ぇ?」
「そうだね。アクリル板を指で突いたり、アクリル板を指で突いたり、スイーツ落としたりこぼしたり」
「スリをリスって読んだり、自分じゃない映像に俺って言ったり」
「蒸し返すなよ!」
「とにかく、二人とも面白かったってことだよ」
ふふふ、と坂崎が笑うと、二人にジトッと睨まれる。
「何言ってんだ。おまえだって色々あるぞ。小学生みたいな下ネタ言うし、生暖かいパンを毎回持ってくるし」
「そうだそうだ!」
「ええ~。…あ、きんかん”たまたま”とか?」(宮崎県産の完熟きんかん「たまたま」のこと)
「ブフォッ!」
吹き出した高見沢がたまらずその場に伏せった。
ここぞとばかりに坂崎がうれしそうな顔をする。
「高見沢、きんかん”たまたま”を略すと?」
「…っ」
高見沢は肩を震わせている。
「あはは、高見沢がまたハマっちゃった」
「おまえが言うからだろ」
「高見沢ぁ~。きんかん―」
「…っ…っっ」
「エロ之助!高見沢が泣くほど笑ってるから、もう言うな!」
「あはは」
「なぁ、全然反省会になってねぇぞ」
「いいじゃん。ここがダメだったとか言い合うより、面白かったところとか、あれは良かったって褒め合った方が楽しいし」
「そりゃあ、まぁ、そうだけど」
「…はぁ~…も~…」
「ははは、笑い疲れてる」
「誰のせいだよ、誰の」
「エロ之助ね」
「だから、エロって言わないでよ」
「もう染みついちゃったから無理」
桜井が秒で返す。
「え~」
「とにかく!!」
バンッと机を叩いた高見沢を見る。
「次の25日の生誕祭配信もみんなに楽しんでもらうべく、気合いを入れて頑張ってほしい!」
『了解~』
「台本があるところはー」
『テンポよく』
「そう!で、言い間違いは-」
『適度に』
「適度って。あとはー」
「下ネタは二割増しで?」
んふふ、と坂崎が笑う。
『これ以上、増やすな!』
「え~。あ、高見沢のアクリル板芸は?」
「それは必須だな。俺、それが楽しみなんだから」
「桜井好きだもんねぇ」
「楽しみにするな!あれはやりたくてやってるわけじゃない!」
「大丈夫、やるもんかとおまえが思っててもやるから」
「そうだね、心配しなくてもやるよね」
「え!?やること前提なの!?」
『当然』
絶対やるもんかと密かに思っていた高見沢だが、きっとその決意は無駄である。
「でさ」
坂崎が改まって高見沢に問う。
「うん?」
「つまり、次はどうすればいいわけ?」
つまり、どうすればいいのか。
高見沢は一瞬考えたが、すぐに答えは出た。
グダグダのトークはそれはそれで面白いし、言い間違いも面白い。下ネタも何だかんだ言って笑いになるし、自分も泣くほど笑っている。撮り下ろし曲は長年の経験で聴かせる自信はあるし、ステージのライティングも最高だ。台本がどの程度面白いのかは自分では何とも言えないが、たぶんそれなりに面白いはずだ。
「……つまり…」
『つまり?』
「いつも通りで!」
高見沢の答えに二人がにんまりと笑った。
『了解!』

そう、いつも通りでいいのだ。
それが一番面白い。
そして、それが一番三人らしい。
きっと、みんなもそれを何より望んでいる。


アルフィーが生まれた日。
本当はみんなと同じ空間でお祝いしたかった。
みんなに会いたかった。
けれど、今はまだ無理だから。

でも、大丈夫。
きっと、たくさんの人たちが画面の向こうで祝ってくれる。
たくさんのチャットがお祝いのメッセージを届けてくれる。
離れていても、みんなと心は繋がっているから。

もうすぐ25日。
みんなに会える。

画面の向こうの、笑顔のみんなに。


おわり


***********あとがき*******************
読んでくださってありがとうございます(^^)
もうすぐ生誕祭!ということで、お祝いをかねて小話を。
本当、いつも通りでいいんですよ。
それが面白いので。
お三方とゆるいトークと、あとはきっとあるだろうお祝いケーキと。
そして、適度な下ネタと言い間違い、達人の天然ボケがあれば十分です。

47回目のバースデー、みんなでお祝いしましょうね♪

2021.08.22


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