今回の小話は、アル友さんが書かれたお話の設定をお借りして書いたお話です(^^)
春ノ巻のパンフに登場した忍者のお三方が、実際に忍者として真面目に仕事をしたら…なストーリーを書かれていまして、とっても良いお話なんです!!
読み終わった途端にこの話が浮かび、設定されていない部分は作らせていただいて書かせていただきました~(*^^*)

なので、まずはぜひアル友さんのお話を読んでくださいませ!!
助丸くんが少々痛いことになってますが(>_<)、三人の絆も感じられる良いお話ですので、ぜひぜひ!!

Pixivの「みるく」さんの作品「~春の巻、忍者物語~」へ

そして読み終わりましたら、あとがき代わりに下の小話をどうぞ♪
単にわちゃわちゃしている小話ですので、ご安心ください~。

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「~春の巻、忍者物語 ある日の休日~」


トントントントントン…


聞き慣れた軽やかな律動。
それとともに寝床の中までやってくる朝飯の匂い。
毎日、こんな朝を迎えられるなんて、何て幸せなんだろう。

助丸は幸せな気持ちでゆっくりと目を開けて、ウンと伸びをした。
これで弐分(約六ミリ)くらい背が伸びたらいいのに、なんて思う。

差し込む日差しで、今日は晴天なんだと知る。洗濯日和、お出掛け日和だ。
「ふあぁぁぁ…」と欠伸をして、よいしょと起き上がる。
隣ではまだ爆睡している男がいるが、これも毎朝のこと。きっと昨夜も遅くまで起きていたんだろう。
朝から仕事がある時はここで起こすのだが、今日は久しぶりの休み。
このまま寝かせてやるとしよう。

起こさないようにそっと部屋を出て裏の井戸に行くと、桶に水を入れてバシャバシャッと顔を洗う。
「く~!冷てぇ!」
冷たい井戸水は気持ちよくて、どんなに眠くてもシャキッとする。おかげでしっかり目が覚めた。
手ぬぐいで顔を拭きながら、これで目もちょっと大きくなったらいいのに、なんて思って、なるわけないっしょ!と自分にツッコミを入れる。

「あ、今日はこの前新調した着物を着よう」
助丸は部屋に戻り、箪笥から真新しい着物を取り出した。
知り合いの反物屋でポツンと片隅に置かれていた売れ残りの反物で作った着物だ。人から見ると、かなり奇抜な柄らしく、反物屋の主人も”誰も買わない”と言い切るようなものだが、助丸はそれが妙に気に入って、これは買わねばと即決。
かなり安く買えたが、元はなかなかの反物だから着心地もいい。これは気分よく出掛けられそうだと、一人にんまりした。

「おはよう」土間にある台所で美味い飯を毎日作ってくれる愛妻…もとい、桜丸の背中に声をかけると、髪も髭もしっかり整えた桜丸が振り返った。
「おはよ…あ、それ、この前新調した着物か」
「うん。どう?」ちょっとポーズをとってみる。
「…その柄を着こなせるのは助丸ぐらいだな」眉毛を八の字にして苦笑い。やはり人から見ると奇抜な柄らしい。
「そんなにすごい柄?」
「すごいっていうか…何て柄なのか、例えようがない柄、っていう感じ。斬新すぎる」
「でも、俊丸も着れるでしょ」
「俊丸…には丈が短すぎだろ。ちんちくりんになっちまう」
「丈の話じゃなくて柄!」
「はは、分かってるって。でも、その柄は俊丸には似合わないよ。そういう斬新な柄は助丸専用だ」
「そうかなぁ」
「あいつはまたちょっと違うタイプの柄が似合うよ。俺はどっちも似合わないけど」
「ははは」
「俊丸は?」
「まだ寝てる。久しぶりの休みだしと思って起こしてないよ」
「そうか。でも、あいつも今日は出掛けるって言ってたから、起こした方がいいんじゃないかな」
「あ、そうなの?」
「うん。昨夜、助丸が寝てからそう言ってた。早く起きなきゃって」
「じゃあ起こしてくるよ」
「頼む。もう飯もできたから」
「分かった。じゃあ布団は押し入れに―」
「あ、縁側に置いといてくれ。今日は天気がいいから干すよ」
「ありがと。じゃ、膳は出しとくね。…おーい!朝だよ!そろそろ起きて!」土間から部屋に上がっていった助丸。
しばらくして、「ほら!起きないと着物脱がしちゃうよ!」という助丸の声が聞こえてきて、「あ!こら!本当に脱がすなっ!バカッ!起きる!起きるからっ!やめろーっ!!」と慌てる俊丸の声が聞こえてきた。
「…よし、起きたな」出来立ての朝飯を盛るべく、桜丸は椀を手に取った。


ここはとある城下町の外れにある一軒の町屋。
助丸、桜丸、俊丸、三人で暮らしている。
町人にしか見えない三人だが、これは仮の姿だ。
本来の仕事は忍。主から命を受け、秘密裡に任務をこなす。

「もう!」スパーンッと襖が開いて、頬を膨らませた俊丸が現われた。
「脱がされたのか?」くくく、と笑って桜丸が尋ねる。
「起きるって言ってんのに脱がすんだよ!?ひどくない!?しかも手慣れてて素早いし!」
「あちこちで脱がしまくってるからな」
「ちょっと、誤解されるようなこと言わないでくれる?」
「じゃあ、脱がしてないの?あんなに手慣れてるのに?」
「……脱がしてないわけじゃないけど、そんな脱がしまくっては…」
『脱がしまくってるね。』
「だから違うって!」
「この町に、助丸の毒牙にかかった娘は一体何人いるのやら」
「何人じゃないだろ、何十人、いや何百」
「そんなにいるか!!バカなこと言ってないで飯!」
『ほーい。』

助丸が準備した膳に桜丸が椀や皿を置いていく。
「あれ、このおかず初めて見るね。桜丸作ったの?」
「いや、いつも野菜とかくれる梅さんにもらった」
「ああ、梅さん。確か料理上手だったよね」
「そう、くれた野菜もいつも調理法を教えてくれ」
「美味い!!」
「俊丸早っ!」
「だって美味そうだったんだもん。梅さん、すごいな~!」
「ん!本当だ、美味しい。桜丸も食べてみてよ」
「どれ……んん、美味いな!さすが梅さん、店で出せる美味さだ」
「ねぇねぇ!また食べたいから梅さんに作り方聞いてきてよ。桜丸が作ったらもっと美味いかもしれないし!」
俊丸が桜丸の袖を引っ張る。少年のような顔でお願いしてきているが、これでも桜丸より先に生まれている。
「分かったよ、聞いとく」
「やった!」パッと笑顔になる俊丸。
(何でこうも可愛いんだろうな、こいつは。)
俊丸の笑顔にいつも騙される桜丸なのであった。

「俊丸も今日は出掛けるんだって?」もぐもぐしながら、助丸が尋ねた。
「ん!ほれははちほはほほほほ」
「食ってから話せ!」
「ん!……俺は町のよろず屋に行って、それから書物屋に寄って、鍛冶屋で壊れた武器を直してもらってくる。二人のも、もし壊れてるのがあったら一緒に直してもらうよ」
「あちこち忙しいな。俺の道具は今のところ大丈夫だ」
「助丸は?」
「俺のも大丈夫。俊丸ほど、使ってないから」そう言って助丸が笑った。
「分かった。で、助丸は今日はどこに行くんだよ?」
「俺?俺は…」
『逢い引きだろ?』
「…分かってるなら聞かないでよ」
「今日は誰と?」
「怪我の治療でしばらくいなかったから約束がいっぱいでさ。一日予定ぎっしりだよ」
順々に指を折る助丸に二人が呆れ顔になる。
「助丸、そういうのは一人にしとけよ。面倒なことになるぞ?」
一番年下の桜丸がまるで年長者のように言う。
「桜丸の言う通りだ。複数の女に手を出すとあとが恐いぞ。揉めても知らないぞ?」大きく頷いて俊丸も言う。やけに実感がこもっているから経験済みなのかもしれない。
「え、大丈夫だよ。みんな分かってるし」
『へ?』
「逢い引きするのは君一人じゃないよって言ってあるから」
「え…」
「それでもいいから逢いたいんだって。俺だってたまには一人と一日中逢い引きしたいなと思うけど、みんながさせてくれないんだもん。仕方ないでしょ?」
「…ねぇ、桜丸。恋愛でそんなことってある?」
「…助丸だけだろ、そんな殿様みたいなことができるのは。俊丸はこんな風になるなよ?…つーか、まさかおまえも助丸みたいな逢い引きしてるんじゃ…」父親みたいな顔で桜丸が俊丸を見つめる。その言葉に俊丸が慌てた。
「助丸と一緒にするなよ!俺がそんな器用なことできないの知ってるだろ!逢い引きは一日一人だ!」
「頼むから、揉め事だけはやめてくれよ。俺たちは本来は闇に生きている忍なんだからな」
「…大丈夫だよ、俺の場合はすでに町では真っ昼間からフラフラしている遊び人だと思われてるから、何してても怪しまれないって」
「まぁ、俊丸は常に町で情報収集してもらってるからな。そういう軽めな印象の方がいいかもしれないが…助丸は昼の仕事に支障ないようにしてくれよ」
「修繕屋だって逢い引きはするって」
「そ、そうだけど、逢い引きのしかたがなぁ…」
「大丈夫だよ、揉め事が起きないように気をつけてるから。桜丸も逢い引きぐらいすればいいじゃん。紹介するよ?」
「しなくていい。俺は仕事と家のことと二人の世話で手一杯だ」
「絵師のくせにつまんない男だなぁ。女の子と遊ばないといい女の絵は描けないよ」
「そんな絵はそもそも描けん。俺は俺で今の生活で満足してるんだから、いいんだよ。…って、いいのか?時間」
「ん、俺そろそろ行かなきゃ」助丸が椀を重ねて立ち上がった。
「洗っといてやるから行っていいよ」
「ありがとう。じゃあ、行ってくるよ」
「あんまり遅くなるなよ」
「分かってるよ、父さん」
「父さんじゃねぇ!!」
「行ってきまーす」軽い足取りで助丸が出掛けていった。
「…まったく、一番年上があんなんで大丈夫なのか…」
「そういうところは桜丸がしっかりしてるからいいんだよ。三人で補えばいいんだって」
「いや、三人で一つみたいなことじゃなくてだなぁ…」
「ごちそうさまでした!俺も出掛けてくる!行ってきます!」
「あ、ちょ、ちょっと待て!」俊丸の着物の裾を掴む。
「えっ!わっ!」
桜丸は、しまったと思ったが、時すでに遅し。

バターンッ
案の定、バランスを崩して前に倒れた。
「いってー!」
「ご、ごめん…」
「何だよぉ!急に裾を掴むなよ!」振り返った俊丸の高い鼻がちょっと赤い。
「だから、ごめんって。だって、顔のあちこちに飯が…」
「えっ!どこ!?」ペタペタ顔を触るが、どこも見当違いのところばかりだ。
「そこじゃないよ、もっと下。ああ、もっと右」
「あぁっもう!分かんないよ!取ってよ!」
見つからなくて俊丸が顔を寄せてくる。
本当に俺より早く生まれたのだろうか、と疑問に思いながらも、桜丸は顔のあちこちについている物を丁寧に取ってあげた。
「ほら、取れた。もういいぞ」
「ありがとう!母さん!」
「母さんじゃねぇ!」
「やってることほぼ母さんじゃん」
「う…」それは否定できない。
「はは!じゃあ、行ってくる!」
「あんまり―」
「早めに帰ってくるって。行ってきます!母さん!」
「だから母さんじゃねぇっ!!」
「はははーっ!」楽しそうに笑いながら、俊丸も出掛けていった。

「…まったく…」
やれやれとため息をついて、桜丸は三人分の椀と皿を片付ける。
二人は夕飯までには帰るのだろうか、そんなことを考えながら。

部屋の中をホウキで掃き、布団を縁側に広げた。
休みの日は色々とやることがある。次から次へと片付けていかなくてはならない。一人分ならまだしも、三人分だ。
ゆっくりしている暇はない。
パンパンと布団を軽く叩く。あとは太陽に任せよう。
「これでよし、と。次は洗濯だな」
そう呟いて、フッと吹き出した。
「確かにやってることは母さんだな、俺」


洗濯物を干し終わる頃、
「賢(まさる)ちゃん、いるかい?」と戸が開いた。
「はい?…あ、梅さん。おはようございます」お裾分けをもらった梅さんだ。
「おはようさん」
「昨日は美味しいお裾分けをありがとうございました。今朝、三人でいただきましたよ」
「そうかい、どうだった?」
「店で出てくるものみたいにすごく美味しかったですよ。今度作り方教えてください。俊(とし)も幸(こう)も気に入っていましたから」

「幸」「俊」「賢」
そう、これが昼間の三人の呼び名。
本当の名もこの名も、子供の頃から使っているので、今ではどちらも本当の名のようなものだ。
「そうかいそうかい!俊ちゃんも幸ちゃんも気に入ってくれたなんて、うれしいじゃないか。いつでも教えるよ。また家の方に来た時にでも寄っておくれ」
「はい、そうさせてもらいます。今日はどうしました?」
「ああ、そうそう。あたしはこれから畑に行くんだけど、さっき今日は八百屋で安売りがあるって聞いてね」
「え!そうなんですか!?」
「こりゃ賢ちゃんにも教えないとって思って寄ったんだよ」
「それはわざわざありがとうございます!あとで行ってみます!三人分必要なんで、安いのは本当有り難いです」
「いい物は早くなくなるから、早めに行っておいで。あたしは畑仕事があって行けないけどね」
「俺、これから行きますから必要な物があれば買いましょうか?買ったら家まで持っていきますよ。作り方も教えていただきたいし」
「いいのかい?じゃあ、お願いしようかな。大根でいいのがあったら一本頼むよ。畑で作ったけど、不作でねぇ…」
「分かりました、買ってきます」
「助かるよ。それじゃあ、あたしは畑に行ってくるよ」
「行ってらっしゃい!夕方、家に行きますね!」
「あいよ!」
梅さんを見送ると、早速出掛ける準備だ。
開店前から待っていないときっとなくなってしまう。
桜丸は財布を懐に入れて家を出た。

梅さんは城に近い町の中心に住んでいる人だ。畑が三人の家の近くにあり、よく家の前を歩いていくので、桜丸は見かける度に挨拶をしていたところ、すっかり気に入られ、今では世間話をしたり、おかずをもらったりする仲になった。
おかげで、町のちょっとした情報や噂話も教えてもらえるので、忍の仕事にも役に立っている。

「おや、賢、お出掛けかい?」
「ええ、ちょっと買い物に」
「あんたは仕事と家のことばっかりやりすぎだよ。俊と幸みたいにもうちょっと遊びなよ」
「あはは…」
近所の親父にまで言われてしまった。
やりたいことは人それぞれ、俺は好きでやってるんだけどな、桜丸は苦笑するしかなかった。

日常生活は桜丸がしっかりしていないと乱れまくるので、日々母か嫁のごとく甲斐甲斐しく二人の世話をしているが、忍の仕事となると少し立場が変わってくる。
指令がくると、俊丸が受け、策を立てる。二人はそれに従い行動するのだ。
仕事となると、二人は急に兄のようになる。
特に俊丸がそうだ。
きっとそれは、一番年下の自分のためなんだろうと桜丸は思っている。
弱音を吐いたりしたら、桜丸が不安になってしまう。
桜丸が安心して頼れる存在にならなければ、きっとそんな風に俊丸は思っているのだろう。
そして、そんな俊丸のことを陰で支えているのが助丸だ。
弱音を吐いたら慰め、暴走したら嗜める。
あんなにチャラチャラしているけれど、やっぱり生まれた順の通り、助丸が一番しっかりしているのである。

それぞれ適した役割を担い、苦手なところは他の二人が手助けし、息のあった連携で仕事をこなしていく。
他の忍たちも、これほどまでに息のあった連携はないと一目置く存在だ。

もちろん、危険な任務もある。
少し前、潜入していた助丸が拘束され、拷問を受けてひどい怪我を負ったのだ。
俊丸と桜丸によって助丸を奪還、桜丸も負傷してしまうほどの大変な任務だったが、お互いの大切さを今まで以上に感じ、三人の結束はより強くなった。

助丸と桜丸は怪我の治療のため、忍の仕事を休んで療養していたが、日常生活に支障のないところまで回復したため、先週ようやく家に戻ってきた。

やはり自分達の家が一番いい、三人は改めて実感している。
そして、三人でいること。
離ればなれになるなんて、考えられない。
何があっても一緒。
それはこの先も変わらない。

「よしよし、いいのがたくさん買えたぞ」
無事に野菜を買ってホクホク顔の桜丸は、ご機嫌で帰ってきた。
途中、書物屋で熱心に本を見ている俊丸の姿を見かけ、茶屋の店先では娘をとろけさせているにっこり笑顔の助丸を見かけたが、邪魔しちゃいけないと声も掛けずに通り過ぎた。
二人も久しぶりの休みを満喫しているようだ。

買い物も終わったので、ようやくゆっくりできる。
縁側によいしょと腰を下ろし、茶をすする。
ボーッとするなんて、どのくらいぶりだろう。
怪我をした時はしばらく安静にしろと言われていたから、ボーッとはしていたのだが、家でボーッとするとは意味が違う。
やはり家は心から安らぐ。

「ニャア」どこからともなく猫がやってきた。助丸が可愛がっている野良猫だ。
「助丸はいないぞ」
「ニャア」
知ってる、そう言うかのように鳴いて、縁側に飛び乗ってきた。
「何だよ、だから助丸はいないってー」
「ニャア」
桜丸を見上げてもう一回鳴くと、桜丸の膝の上に乗って、ストンと腰を下ろした。
「え…」
あっけにとられていると、猫は毛繕いを始め、大きなあくびをしてそのまま丸くなってしまった。
一度や二度は撫でたことはあったが、こんな風に膝の上に乗せたことなんて一度もないのに。
いつも助丸と一緒にいるからか、いつの間にか桜丸にも警戒心がなくなったのか。
「おい、誰も膝の上に乗っていいなんて言ってないぞ」
「ニャア」目をつむったまま鳴く。
「重いんだけど!」
「ニャア」
「降りろって言ってんの」
猫の頭を軽く叩こうと手を近付けたら、猫が目を開けた。
(しまった、噛まれる…!)
が、桜丸の予想は大外れだった。
猫はその桜丸の手に鼻をつけると、”撫でて”とでも言うように、頭をすりつけてきた。
「え…」
「ニャア…」クリクリした真ん丸の目で甘えるように鳴く猫。
”お願い。…ね?”どこからともなく、そんな言葉が聞こえてきた。
誰かに似ている、桜丸は思った。
「…もう、何だよこいつは…」
どけるのを諦めて猫を撫でてやると、気持ちがいいのかうれしそうな顔をした。
猫の可愛さに負けて桜丸はちょっと悔しかったが、思いのほか猫の体温が心地よかったので、しばらくこのままでいさせてあげることにした。
「誰だよ、野良猫に甘える方法を教えたのは…」

そんなの一人しかいない。

「…ん……あ、あれ…俺寝てたのか…」気がつくと、縁側に広げてあった布団の上にいた。眠くなって横になってしまったらしい。
猫はもういなくなっていた。

「おっと、もう昼か」太陽が真上だ。
一人分の簡単な飯を作って腹を満たすと、描きかけの絵を机に広げた。
絵筆を握れば、桜丸のもう一つの顔、絵師になる。
大した絵ではないと本人は言うが、贔屓にしてくれる人もいて町ではなかなかの評判だ。

「二人が…」独り言を呟こうとして、部屋を見渡した。うん、いない。まだ帰ってきていない。ホッとする。
「二人がいないと静かで集中できるな」
もし二人がいる時にうっかり口にでもしたら、まるで子供のように頬を膨らませて邪魔しにくるのだ。
そういうところは未だにお子ちゃまなのである。
いい年して…と思ってはいるが、「ちゃんとしろ」となかなか強くは言えない。
いや、言いたい気持ちもあるが、言わないのだ。
だって、可愛いから。
可愛いとついつい許してしまうのだ。
ああ、可愛いというのは何と恐ろしいことなのか。

きりのいいところで絵描きを終え、ポカポカになった布団を部屋に戻す。
今夜は気持ちよく眠れそうだ。

夕方、梅さんの家へ向かった。
大根を渡しつつ、もらったおかずの作り方も聞き、町の噂話や起きた出来事を聞かされて家へと戻ってきた。

また途中で二人を見かけたが、まだまだ帰る気配はなさそうだった。
「…あの様子じゃ、夕飯までには帰ってこなさそうだな」
ちょっと寂しいが仕方がない。

でも大丈夫。
二人の帰る場所はここだ。
何があっても、何をしていても、最後は必ずこの家に帰ってくる。
「ただいま!」と。
それが分かっているから、お互い好きなことができるのだ。


家に戻ると洗濯物を取り込んで、丁寧にたたむ。
「いい天気でよく乾いたな。さて…と、夕飯でも作るか」
どっこいしょと腰を上げた時、気配を感じた。
ハッとして見ると、一匹のネズミがこちらに走ってくる。
「…チュー助!」
助丸が飼っているネズミだ。助丸に何かあった時など、桜丸や俊丸への連絡役だ。噂によれば、桜丸より賢いらしい。
そんなチュー助が家に来た、ということは……
「助丸に何かあったのか!?」
桜丸が慌ててチュー助が運んできた手紙を外す。
ついさっきまで町の娘と楽しそうにしていたのに、一体どうしたのか。
「俊丸にも知らせなきゃ…!」
小さく畳まれた手紙を破りそうな勢いで開いていく。
捕まったのか?怪我をしたのか?
あの痛々しい助丸の姿が蘇ってくる。

もうあんな目には遭ってほしくない。
そういうのは全部自分が引き受ける、そう思っていたのに…!

助丸……っ!!

「……は?…え?」
手紙の内容は想像していたものと全然違った。
あまりに意外なことが書かれていて、ポカンとしてしまう。
「何、これ?…え、これが伝達してきた内容?な、なぁ、これ、助丸からの連絡…だよな?チュー助?」
「チュー」
「怪我したとか、捕まったとか…そういうんじゃない…んだよな?」
「チュー」
「な、何だよ!!てっきり何かあったのかと思ったじゃねぇか!!もう!!」
へなへなと座り込んで、安堵と呆れが入り交じったため息をついた。

よかった…本当によかった…

「チュー」
「…チュー助、おまえも大変だな。こんなことまで運ばされて」
「チュー」
チュー助にご褒美のエサをあげる。
「こんなことでチュー助を使うなってあとで言っとくよ」
「チュー」
「もう助丸のところへ戻っていいぞ」
そう声を掛けたが、チュー助は一向に桜丸から離れない。
何で…と思って気づいた。
「…あ、そうか。返事か」
「チュー」
「何でこんな手紙に返事を書かなきゃいけないんだよ」
ブツブツ言いながら、その手紙の裏にサラッと返事を書くと、チュー助に託した。
「じゃ、チュー助、助丸のところへ頼むな。野良猫には気をつけろよ」
「チュー!」

チュー助を見送ると、桜丸は台所へ向かった。
夕飯も簡単に済ませようと思っていたが、そうもいかなくなった。
ちょっと困り顔の桜丸だったが、何だかうれしそうにも見える。
手紙を届けるぐらい伝えたかったのか、そう思ったら、桜丸は怒る気にもなれなかった。
美味しそうに食べる二人の顔が浮かんできて、思わず笑みがこぼれる。

「よし、今日買ってきた立派な大根を使って作るか!」
袖をたすき掛けすると、桜丸は張り切って大根を手に取った。



”夜は家で食べるからね!酉の三刻には帰る! 長男より
俺も食べる! 次男より”


”俺は親じゃない!出来立てが食べたいなら早く帰ってこい!”


ここはとある城下町の外れにある一軒の町屋。
町一番の仲良し三人組が暮らしている。


桜丸からの返事を飼い主に届けようとしているチュー助は密かに思っていた。

仲が良いにもほどがある、と。


-終わり-


***********あとがき*******************
読んでくださってありがとうございます~(^^)
「みるく」さんの本編も読んでいただけましたか?
忍者になっても3人の絆はやはり素晴らしいですよねぇ!
読み終わった途端にこの話が頭に浮かんで、書きたい!!となったので、他のお話をほっぽり出して書いておりました(^^;)
本編はお仕事を頑張っていましたので、私は緩い日常を。
昼の名前は特に考えていないとのことでしたので、設定がない部分については、私が勝手に加えさせていただきました。

とっても楽しかったと「みるく」さんにも感想をいただけたので、ホッと一安心です(*^^*)
私も書いていてとっても楽しかったです!
これからも素敵なお話、楽しみにしています~♪

2018.08.08


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