トラベリング・バンド

楽屋に一つしかないシャワールームに入った桜井は
準備していたはずのMyシャンプーがない事に気づいた。
「おかしいなあ。まだ半分は入ってたのに・・・。」
いつも数種類準備しているので他のを使えばいいのだが、
その日の気分によってのこだわりがあった。
今日はこれ!と決めていたはずのものがないことが桜井にとっては
結構ショックだった。
「でも・・・ないものは仕方ない。他のを使うとするか」
気を取り直し、代わりのものを準備する。
「ん?」
足元のゴミ箱に目をやると見覚えのあるシャンプーのパッケージが無造作に
捨てられていた。
桜井は思わず叫んだ。
「誰だよー!俺のを使ったのはっ!!」

「あ、わりぃ。俺」
まだかなり濡れた髪を不器用にガシガシ吹きながら、高見沢は悪びれもせず桜井に
言った。
「おまえ!」
(やっぱりおまえかよ(-_-;))
「使うならなんで一言いわねーんだよ。だいたい自分専用のがあるだろー」
「だってさー。忘れちゃったんだもん。そしたらちょうど目の前にあったから
借りたんだよ。おまえなかなかいいの使ってるなあ」
「忘れた・・・。まあ・・・それなら仕方な・・・かねーよ。なんで全部つかっちまう
んだよ」
「なーんかさあ、出しづらくてあっちこっち押さえてたら、ドバッとでちゃってさ。」
「あ・・・そう」
「黙ってたのは悪かったよ。すまん。でもさあーそんな小さいこといちいち気に
すんなよ。さーくちゃん」
ポンっと肩を叩かれた桜井は長年の付き合いで相手のことはよく理解してるとは
いえ腹の虫がおさまらない。
「小さいこと??おめーには小さいことだろうけど俺には大切なことなんだよ。」
「なんだよ!俺が悪かったって言ってんのに・・・」
戦々恐々とした雰囲気にマネージャーやスタッフはハラハラしていた。
この2人ならつかみ合いのケンカになってもおかしくはない。
そんな2人の状況を気にする風もなくニコニコしながらギターを弾いている坂崎に、
マネージャーが小声で
「さかさん。なんとかしてくださいよ」
「お前何年マネやってんのよ。大丈夫だって。」
「そうは言っても・・・今からステージあるんですから」
「すぐにおさまるよ。ほっときゃいいの」
"ケンカするほど仲がいいってね"
坂崎は再びギターを弾き始める。

「思えば・・・」
桜井がタバコをフーッとふかす。
「人生の半分以上、旅してきてるんだよな」
「ってことは人生の半分以上ALFEEでいるってことだね」
ギターを弾く手を止め、坂崎がずれたメガネを人差し指でなおす。
「じゃあ、俺たち人生の半分以上を一緒に過ごしてるのかー」
テーブルの上に頬杖をついて、しみじみと高見沢が言う。
そう、家族より、恋人より・・・3人でいる時間は長い。
充実した、何よりもかけがえのない、時間。
「ずいぶん走ってきたよなー。」
「そうだね」
「でもまだまだ走り続けなくちゃな」

さっきまで腹が立っていたはずだったのに・・・なんだったっけ?
「桜井。さっきは本当にごめんなー。」
「いいよ。もう」
「お詫びにステージ衣装、どれでも好きなの着ていいよー」
"これなんかどう?"
という感じで高見沢がすかさず自分の衣装を持ってくる。
「これ?」
「着てみてよ」
まあ、奴の衣装を着てみるのは嫌いじゃないんだけど、あらためて着ろと
いわれると着辛いもんだと桜井は思った。
坂崎はこれぞシャッターチャンス!とばかりにカメラを構える。
「おー!似合うじゃん」
「次のとき、おそろいで着てみる?」
坂崎はシャッターを切りながら、煽ってくる。
「それは・・・やめとこうぜ。楽屋でこうして着るのが楽しいんじゃん」
本番前の和やかなひととき・・・。
やっぱりこの3人でなくちゃ。
「スタンバイお願いしまーす」
スタッフの声で3人はステージの袖に向かった。



終演後・・・

「今日のMC決まったなあ。桜井」
「ああ、あれだろ?」
「そうそう。」
「本番前に楽屋で話してて、使えるって思ったからさ」

「考えてみると、人生の半分以上旅してきてるんですね。ということは人生の半分
以上がALFEEで、この3人で、過ごしているということなんです。
僕たちは人生そのものがトラベリングバンド。そう考えると我ながらずいぶん走って
きたなぁと感じます。もちろん、まだまだこれからも走り続けて行きたいと思ってます・・・」

「あれは胸にじーんと来たね」
「やっぱ、桜井良いこというよ」
「お前らにそこまで褒められるのもうれしいような・・・気持ちが悪いような」
ま、でも何があってもこの3人でなくちゃ。



ツアーも順調に進み、終盤に差し掛かる。
相変わらず3人の旅は続く。

本番前、楽屋ではいつもの光景。

「なんだよー。ここの楽屋もシャワールームが一つしかないの?」
桜井がちょっと不満げにシャワールームへ入っていく。
えらく周囲がビチャビチャで、そこら中に泡が飛び散ってて・・・。
こういう使い方する奴は・・・。
イヤな予感がした桜井は事前に用意していたMyシャンプーを急いで確認した。
「ない!今日使うつもりだったのが・・・」
もしや・・・。
隅っこにあるゴミ箱を覗いた桜井はバスタオルを体に巻きつけるとシャワールーム
から飛び出す。
「おまえー!」
そこには先にシャワーを終わらせた高見沢が気分よさそうに鼻歌を歌いながら
ガシガシ髪を拭いていた。
「ん?なんだ。桜井か」
「お、おまえ。また俺のシャンプー使っただろー」
「ああ。でもさ今日はちゃーんと使ったから無駄遣いはしてないぞ」
「え?じゃ・・・なんてからっぽなんだよ!」
「あーんまり使い心地いいんでさ、坂崎に貸したんだ」
「坂崎に?」
「だってさー。そのシャンプーあんまり残りがなかったしさ。坂崎もいいなあーって気に
入ってたみたいだぜ」
"そういう問題か?"
「こないだも言ったろ?一言断ってくれって。なんでまたこうなっちゃうのかなあ」
「悪かったよー。そんなに怒るなよ。俺たちの仲じゃないかー」
「それとこれとは違うだろ!」
「じゃあ、今度俺の貸したげる」
「ああ・・・・。ってそういうことじゃないって!!」
俺のこだわりとか、そういう繊細な部分・・・こいつわかってんか?ホントに。
「もういい・・・よ。」
「許してくれたんだ」
「もう・・・・いい加減にしてくれー」

3人の旅はまだまだ続く・・・・・・。

                       The End


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ひめ様のサイト「ハッピーわーるど」にて賢狂がキリ番65000のニアピンをゲットしまして、小説を書いていただきました♪(*^^*)
「ツアー中のひとコマ、仲良しな三人」なお話をお願いしましたら、桜井さんが高見沢さんに振り回されている〜!な楽しいお話を書いてくださいました♪
きっと現実同じようなことが日々起きているんじゃないかと思います(笑)
桜井さんのプリプリした顔とか眉毛が下がっちゃった顔とか、高見沢さんのにこーって笑う顔とか坂崎さんのニコニコしながらギター弾いてる顔とか、全部想像できちゃいますよね!
可愛らしいお話、ありがとうございました〜!(*^∇^*)

なお、こちらは頂いた作品ですので、お持ち帰りなどされないようよろしくお願い致します。



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 「伝えたい言葉たち」管理人