大 切

ぽん・・・と軽く肩を叩かれて振り向くと、そこに
サングラスを外した素顔の彼がいて、少し
困ったような顔で笑っていた。

「どうしたんですか?」
「なにが?」

普段、滅多に見せることのない意外に大きな目を
彼は更に大きく見開いている。

私は両手の人差し指で八の字をこしらえて
自分の眉に当てて、笑って見せた。

「笑顔が困ってました」
「あ・・そう?」

それでなくても苦笑いの彼の眉間に更にきゅっと皺が寄る。

「何かあったんでしょ?」
「うーん、なんでだろう。隠してるつもりなのに
すぐバレちゃうなぁ」
「うん、すっごく分かりやすいです」
「おぃ、ちったぁフォローしろよぉ」

彼の手が、ペチッと私の額を打ったので、私は俯いて
小さく舌を出した。

「実は、朝から・・・いや夕べからずっと落ち着かなくて
困ってる」
「なんでですか?」

答えを急かすように彼を見上げると、彼は、私と目が
合うのを避けるように、すっと下を向いてしまった。

「きみに・・・言いたいことがあって・・・」
「え?」

笑顔を消した彼に俯いたままそう言われ、胸がズキリと
痛んだ。
言いようのない不安な想いに、まるで冷気に襲われた
ようにぞくぞくして足がすくむ。

私は、黙ったまま彼の次の言葉を待つしかなかった。
どれくらい、そうして黙ったまま2人で突っ立っていたのだろう。

すっと、耳もとの空気が揺れる気配がしたかと思うと、
彼の手が私の眼鏡を外していた。
驚いた私が目を凝らすと、ぼんやりした視界の中で
それでも彼がじっと私を見詰めているのが分かった。

わけが分からずに、よく見えないまま彼を見つめ続けていると
不意に抱き寄せられた。

「えっ・・・」

思わず変な声を出してしまう。

「驚かせてごめん・・・」

私は、彼の胸の中でぶんぶんと首を横に振った。
くすっと笑い声を漏らして、彼は私を抱きしめてくれる。

「しかし、ほっそいなぁ・・・折れそうっていうか、刺さりそうだな」
「・・・そんなこと言うと、ホントに刺しますよ・・・」

そう言いながら、私が軽く身をよじると本当に腰骨が
当たってしまったらしく、彼が「うっ・・・」と小さくうめき声を
あげた。

「いてぇ・・・っていうか、意外に怖いね・・・」
「・・・嫌いですか?」

「いや・・・大切に想ってるよ。誰よりもね」

囁くように低い声でそう言って、そっと眼鏡を戻してくれる。

彼は、やっぱりちょっと困ったような笑顔を浮かべていて
でも、その笑顔はとても嬉しそうで・・・
もう一度私の細い身体をぎゅっと抱きしめてくれた。


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「Dream Again」のKazu様に書いていただいた小説です。
…ええと、桜井さんと賢狂をイメージして書いてくださったんですよ〜うっひゃー!(*>∇<*)
細いとか刺さる腰骨とか、まさに私です(笑)
某所(笑)で私が自分をモデルにした話は書けない、と呟いたところ、Kazuさんが「じゃあ私が…」と
おっしゃってくださって。まさか本当に書いてくださるとは思ってなかったです。

お話のタイトルにもある「大切」は、アルフィーモバイルの桜井さんのコーナー「心のことば」で
桜井さんが取り上げていた言葉です。
「愛してる」より「大切」の方が気持ちが伝わる、とそこで桜井さんがお話していたのです。
ちょっとセンチメンタルになっていた日だったので、その桜井さんの文を読んでうるっときまして
「いい言葉だなぁ…」とジーンとしていましたら、なんとその言葉を使ってくださってるわけです!
驚きましたね〜。私の心を読んだかのようなお話でございました。

普段自分で小説を書いてますが、誰かに小説を書いてもらうなんて相方以外初めてだったので
本当にとっても嬉しかったです。
Kazuさん、本当にありがとうございます!
この細〜い薄〜い、そして刺さる腰骨、大事にします(笑)



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 「伝えたい言葉たち」管理人