「続 緊急招集」

『高見沢!今度は何なんだよ!!』
ドアを開けるなり、桜井と坂崎は声を張り上げた。

しかし、部屋にいる高見沢は、そんな二人の声に大した反応もせず、いつも通りパソコンの画面に向かって何やら作業をしていた。
入ってきた二人に、笑顔で軽く手を挙げる。

「よっ」
「よっ!じゃねぇよ!何回休みの日に呼び出すんだよ!」
「そうだよ。こっちだって色々用事があるんだから、何度も呼び出さないでよ!」
「え~そんなに呼び出してないよ。二回目じゃん」
「四か月ですでに二回目なら多いよ!」
「そうだ!今のペースで一年呼び出されてみろ!あと四回は呼び出されるんだぞ!ただでさえ会う機会が増えてるっていうのに、何なんだ!」
「まぁまぁ、とにかく座れって」
「座る前に要件を言え、要件を!」
「そうだそうだ!」
桜井と坂崎は、今日はとことんご機嫌斜めのようだ。
普段は高見沢の言動にあまりブツブツ言わない坂崎も、珍しくプリプリしている。
普段あまり言わないのは、言ったところで何にも変わらないことが分かっているので、ただ諦めているだけ…なのだが。

「そんなこと言うなよぉ。せっかく来たんだから、座れよ」
そう高見沢は言うが、桜井は頑なに拒否する。
「やだね。座ると長くなる。絶対長くなる」
隣で坂崎もコクコク頷く。
「なんだよ、二人とも冷たいなぁ」
「冷たくて結構。要件を聞いて、この前みたいな話なら帰る」
「僕も。一時間ぐらいで戻るって言ってあるし、長居する気はないからね」
「戻る?坂崎は今日は何やってんの?」
「…骨董市」
「骨董かよ。おまえも好きだなぁ。ほんと、多趣味だよな」
「フィギュア集めて漫画読んで、肉食べてスイーツも食べて、プロテインも飲んでる筋肉バカに言われたくない」

多趣味なのはどっちもどっちだと思った桜井だったが、その言葉は心の中で呟くことにした。
坂崎は今、機嫌がよろしくない。
何か言って、その不機嫌な態度が自分に向いてもらっては困る。
どんな対策をしても、なかなか自分の求める形に物事が進まないのが桜井という男。
”自分への被害を最小限にする”ために桜井ができることと言ったら、こんなことぐらいしかないのだ。

「それで、今日の要件は何だよ?」
話題を元に戻すべく、桜井が高見沢に尋ねる。
「そりゃあ、二人を呼び出したんだから…アレだろ」
「やっぱり!!来るんじゃなかった!」
あああ…と桜井が頭を抱えた。
隣で坂崎もため息をついた。
「もぉ…やめてよ」
「何でだよ。まだ解決してないんだから、解決するまで何度でも集まってもらうからな」
『はぁ!?』
二人が力尽きたようにうな垂れた。
「何回集まっても解決しないって!」
「いや、そんなことはない!何度か集まって話していけば、きっと解決する!」
「一生解決しないってば。この前だって、結局誰にも聞けずにお開きになったじゃん」
「この前はこの前。今日はきっといい方法が見つかる!」
「見つからないって」
「いや、きっとある!」
「もぉ…」
「じゃあ聞くけど、高見沢が考えた案は何だよ?」
「案?それはこれから考えるんだよ」
『は?』
「だからぁ…どんな方法がいいか今日三人で話そう…こらー!帰ろうとするな!」
背を向けてドアノブに手をかけようとしている二人に慌てて駆け寄ると、高見沢がドアの前に立ちはだかった。
「帰っちゃダメ!」
『……』
「怖い顔しちゃヤダ!」
「おまえなぁ…また何にも考えてないじゃないか!」
「そうだよ、これじゃこの前と一緒じゃん!」
「俺が一人で考えて分かるなら、もう解決してるって!分かんないから集まってもらったんだろ!ほら!三人寄れば文殊の知恵って言うじゃん!協力してよ!」
「三人寄っても無理だって、この前で分かったじゃん!」
「そうだよ。あの日、結局誰も信用できなくて聞けないって終わっちまったじゃないか。そんな俺たちが集まったって無理に決まってるだろ。集まるだけムダムダ」
「そうそう」
「……」
高見沢が俯いてしょんぼりするが、桜井は首を振る。
「泣きそうな顔してもダメ」
「…桜井ぃ……」
「上目遣いしてもダメ!ちょ、ちょっと可愛いけどダメッ」
「桜井、ちょっと流されてどうするの。…って、高見沢も何照れてんの」
「だって…桜井が可愛いって言うから…っ」
「…ねぇ、二人はバカなの?」
「失礼な!桜井と一緒にするなよ!」
「高見沢!おまえのが失礼だ!!」
「だって古典の点数―」
「その話はもういいっ!!」
「だってぇ~」
「うるさい!」
「桜井の声の方がうるさいよ!」
「生まれつき声がでかいんだよ!しょうがないだろ!」
ギャアギャア言い合う二人を眺めながら、
「はあぁぁぁ…」
と、坂崎が重く深いため息をついた。

こういう二人を見ていると、四十年以上バンドが続いてきた理由がよく分からなくなる。
でも、これはきっと自分が不機嫌で冷静でないからだ、と坂崎は思う。
冷静になれば、たくさん理由が出てくるはずだ。
きっと二人の良いところも浮かぶ…はず。

「ねぇ、話戻すよ」
『え?話?』

…今は悪いところしか浮かばないけれど。

「幸之助ちゃん、顔がコワイ」
「目が死んでる」
「そうさせたのは誰だよ。あのさ、いくらファンの子が要望してるからって、埒のあかない話し合いしても意味がないよ。解決したいと思うなら、ちゃんと意味を誰かに聞かなきゃダメだって。まずはそこからでしょ」
「でも、聞ける人がいないじゃん」
「視点を変えて、もっと違う人に聞いてみるとかさ」
「もっと違う人?例えば?」
桜井が尋ねると、坂崎がう~んと考え込む。

「…例えば……ナオコさんとか」
「”あんたたちってさ、ほんっとバカだよねぇ”って笑われるだけだよ」
高見沢の言葉に桜井が頷く。
「じゃあ、ムッシューとか…」
ダメダメと、桜井が首を振る。
「”君たち…どうしたの?三人とも夏風邪?”って心配されちまうよ」
「良い病院紹介されて、連れて行かれそう」
頷いて高見沢が苦笑する。
「…じゃあ…加山さんとか」
『加山さんになんて恐れ多くて聞けねぇよ!』
桜井と高見沢がブルブル首を振る。
「じゃあ所は?」
「”ダメだね、君たち完全な熱中症!●S-1飲みな?安くしとくよ!”ってうれしそうに言うよ。なぁ、もっと他の人にしろよ。高見沢も誰か心当たりないのかよ?」
「う~ん……あ、こうせつさんは?」
「”たかみー、相変わらず派手だねぇ”って返ってくるだけだよ」
「はははっ!それ、春ツアーのネタじゃん!」
「しかも相変わらず似てるし」
ケラケラと二人が笑う。
「どうしてもモノマネしちゃうの。もうクセになっちゃったんだよ」
「長年やってるとな、身体にしみついちゃんだよな」
「そうそう。一時期はオネエだったし。あ、オネエは今、桜井じゃん」
最新オネエの話題に変わり、桜井が嫌な顔をする。

「…スナック”ちくわの穴”のゴンザレスママなんて、もうやらないよ」
「面白かったなぁ、あれ。ほら、夏イベのグッズにもなったし、それだけ好評だったんだよ!なぁ、秋もさぁ…」
「ばっ…ばか!もうやらないって!」
「え、いいじゃない。ゴンザレスママ」
「さ、坂崎っ!そ、そんなこと言ったら―」
「秋ツアーもゴンザレスママでいいと思う人~」
手を高々と挙げながら言う高見沢に、
「はーい」
と坂崎がピッと手を挙げた。
「……」
またかよ…と、桜井はガクッとうな垂れた。
「だってほら、多数決」
「ね」
「俺らの多数決は意味ないんだからやんなよ!」
「でも、民主主義だし」
「そう、民主主義」
「俺にはちっとも民主主義じゃないし!」
「しょうがないじゃん?桜井がさ、あれこれやると楽しいんだもん」
「そうそう。客席のみんなも楽しそうに笑ってるじゃん。笑うのはいいことだよ?」
「そう言うなら、おまえらもやれよ。着物を着たオネエ!」
『ヤダ』
「……」
「桜井がやるからいいんだよ」
「そうそう」
「…本業も頑張ってるのに、何で余計なことも俺が一人で頑張らなきゃいけないんだよ…」
「それが桜井賢という人間なんだよ」
「生まれ持った運命だね」
「……」
「眉毛が果てしなく下がってるぞ。大丈夫!あそこまでやったんだ、もう何だってできるだろ?」
「今度は着物じゃなくて、誰かさんみたいにドレスでも着る?」
「き…着るかそんなもん!!高見沢と一緒にするな!」
「俺だって好きで着てるわけじゃねぇよ!」
『…違うの?』
二人が首を傾げる。
「違うわ!」
「ドレス着たり、生脚の女子高生にもなったのに?」
「ミニスカートがクセになって、来年もやるんじゃないの?」
「やらねぇよ!あんなスースーするもの履きたくないわ!」
「ははは、そんなにスースーするんだ?」
「落ち着かないぞ、あれ。おまえらも履いてみろよ、一回」
『やだよ。』
間髪入れずに拒否する。

「まぁ…桜井は……やめといた方がいいけどさ」
「俺がやったら警察に捕まる」
「うん、俺もそう思う。でも、坂崎なら大丈夫でしょ」
「ああ、坂崎は履けるだろ。履いてみたら?」
「やだよ!」
「長い髪のカツラつけてさぁ…」
「坂崎ならセーラー服?」
「そうだな、セーラーだな!」
「着ないって!」
「脚細いし、超ミニにしてもイケるんじゃないか?」
「ああ、イケるでしょ。やだぁ、おじさんドキドキしちゃう」
「ちょっと!」
『コウ子♪』
「やめてよっ」
「ねぇねぇ!秋ツアーはさぁ、ゴンザレスママとコウ子でいこうか」
『はぁ!?』
「ゴンザレスだけだと春と変わらないから、進化させてコウ子も登場させたら面白そうじゃない?」
「コウ子はいいけど、ゴンザレスはやだ!」
「ゴンザレスはいいけど、コウ子は絶対にやだ!」
「え~両方がいいよ。両方やろうよ」
「そんなに言うなら、俊子がやれ!」
「そうだそうだ!」
「はぁ!?俺はやらないし!」
「たまにはやれ!」
「そうだそうだ!」
「俺はバースデーライブだけで十分だ!」
「高見沢は一公演だけなんておかしいだろ!俺は何公演やってると思ってんだよ!」
「そうだそうだ!」
「ちょっと待て。おい、坂崎!」
「…ん?」
「おまえ、俺に同調している風だけど、自分に被害がなければ俺でも高見沢でもどっちでもいいと思ってるだろ!」
「…バレた?」
「やっぱりコウ子やれ!」
「やだよ!俊子かゴンザレスやればいいじゃん!」
「何言ってんだ、コウ子とゴンザレス両方に決まってるだろ!」
「バカ!ゴンザレスはもうやらないって言ってるだろ!コウ子か俊子でやればいいんだって!」
「コウ子はやんないっての!」
「俊子もやらないよ!」
「ゴンザレスもやらねぇよ!」

集まって話すべき内容が一向に始まっていないが、すでに三十分は過ぎている。
そもそも三人が知りたいという、”わちゃわちゃ”という言葉すら口に出していない。

今日も何の進展もないままお開きになるのだろうなと、陰で見守る棚瀬は思う。

「これがあと四回もあるのか。…ええと、次の休みは…」

早速、手帳をめくる棚瀬なのであった。


「コウ子か俊子!」

「ゴンザレスか俊子!」

「コウ子とゴンザレス!」



”わちゃわちゃ”の意味を知る日は果たしてくるのだろうか…


おわり


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相変わらず、”わちゃわちゃ”してますね~(^^)
コウ子ちゃんと俊子ちゃん、そしてゴンザレスさんが勢ぞろいする日が
楽しみです(ないない)

2015.8.10

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