弁護士佃克彦の事件ファイル

政務調査費返還請求事件(その1・飲み食い編)

PARTW

勝訴!

 2006年4月14日が来ました。判決の言渡期日です。

 結果は、こちらの完全勝利でした!

 東京地裁民事第2部(大門匡裁判長、関口剛弘・菊地章裁判官)は、こちらの請求通り、被告に対し、自民党区議団へ769万円の支払請求をするよう命じたのです。
 細かいことを言うと、上記769万円に遅延損害金が上乗せされますので、判決は実質的には1000万円を超える支払請求を命じるものでした。


立証責任は被告に

 判決は、オンブズマンの皆さんが作成した調査報告書などを根拠にして、
「このような公的施設外の飲食店舗等における飲食は、それ自体では外形上、日常私的に行われる飲食と区別することが困難であるから、その費用の支出については、…当該飲食時の活動が、区政に関連する調査研究又は会議として社会通念上必要なものであると認めるに足りる特段の事情が存しない限り、目的外支出に当たると認めるのが相当である」
と述べ、こういった飲食店での支出は原則として目的外だと断じました。
 つまり、「目的の範囲内だ」ということを被告の方で積極的に立証をしない限り裁判所は「目的外だ」と判断するということです。

 政務調査費のあるべき使われ方をふまえ、かつ、それとはほど遠い飲食による濫費の実態をふまえた極めて妥当な判断方法といえるでしょう。

 そして裁判所は以上のような基本的スタンスに基づき、
・ バー、クラブ、スナック、パブ
・ 居酒屋、ビアガーデン
・ 割烹、懐石料理、うなぎ、しゃぶしゃぶ、すし、ふぐ、かに、そば、うどん、お好み焼きその他の和食の店
・ 天ぷら、とんかつ、中華料理、韓国料理、焼肉店
・ 洋食レストラン
のそれぞれについて順に検討をし、そのいずれについても「目的外支出にあたる」と判断しました。

 しかし今こうやって飲食店の種類を列挙してみると、壮観ですね。こんなにおいしそうで楽しそうな政務調査活動なんて普通あり得ないですよね。

被告の控訴・区議団が訴訟に参加

 こちら側の全面勝訴判決に対して、区の機関は控訴をしてきました。
(一審では私たちが原告、区の機関が被告となっていましたが、控訴審では、区の機関が控訴人、私たちが被控訴人となります。)

 控訴審は2006年7月に始まりました。

 さすがに自民党区議団も傍観していられなくなったと見え、この控訴審の審理に「参加」をしてきました。
 この「参加」というのは民事訴訟法の定める制度です。
 自民党区議団は、このままでは、自分が関わっていない訴訟で「自民党区議団は1000万円以上のお金を返すべきだ」ということが決まってしまいそうな状況にあります。そのように、自分が原告や被告になっていない訴訟で自分に不利な結論が出そうな人に対して民事訴訟法は、「参加」という形でその訴訟に入って関与することを認めているのです。

 かくして自民党区議団は、控訴人である区の機関を補助する「補助参加人」として参加をしてきました。

区議団がようやく中身の話を始めた


  さて、自民党区議団が「補助参加人」となった控訴審では、自民党区議団所属の区議が「陳述書」という書面を出し、その中で1つ1つの支出について説明を始めました。

 その陳述書は100ページを超える労作でした。しかし、肝心なことが書かれていませんでした。

 どういうことかと言うと、たしかにその陳述書は、1件1件の支出について一応説明はしていました。しかしその説明は、
「この日は〜〜の政策課題について理解を深めるために〜〜のお店で勉強会をしました。」
「この日は、区民の陳情を聞くために〜〜のお店で意見交換をしました。」
というようなものばかりで、
・ どうして勉強会をその飲食店でしなければならなかったのか?
・ どうしてその意見交換をその飲食店でする必要があったのか?
という肝心の点についての説明が欠落しているものでした。

 このように肝心な点についての説明がなく、しかも登場人物は、区議以外はみな匿名でした。このため、「本当は遊びの飲食なのにそれを“調査だった”とウソをついているのではないか?」という疑いが常に残り、中身は信用できないものばかりでした。

こちらからの反撃

 とはいえ、自民党区議団が具体的な中身の話に入ってきたのは前進であるといえます。
 第1次訴訟を起こしたのは2002年8月。そこから数えてまる4年後の2006年夏、自民党区議団は、第2次訴訟の控訴審でようやく具体的な論争に入ってきたわけです。

 区議団が具体的な論争を始めてくれたのですから、こちらも全力でこれに応えなければなりません。
 私たちは、区議の陳述書の1つ1つの説明について詳細に反論をしていきました。
 区議の陳述書はツッコミどころ満載なので、この反論の準備は一旦やり始めると非常におもしろく、1件1件について反論をしているうちに書面はどんどん膨大になっていってしまいました。
 そうこうしているうちに裁判所への書面の提出期限が迫り…しかし反論したいことははまだ山ほどあり…という状態で毎日夜遅くまで仕事をしているうちに、とうとう千葉弁護士が体調を崩して寝込んでしまうというハプニングまで起きました。

詳しく見てみましょう

 私たちが作った反論の書面は2通で合計266ページにまでなってしまいました。
 せっかくですから、区議団の政務調査費の使用の実態を少しご紹介しましょう。

○ 「西安餃子」で1人あたり5000円の飲食をしたレシート。しかもそのレシートには「樽生ビール」が注文された記載も。
 区議の陳述書によるとこれは「議会人事の打合せ」をしたのだそうな。ビールを飲みながらの「人事」とは、次の宴会の幹事を決めたのでしょうか?

○ 区議の陳述書によると、「汐留地区開発関係者」との勉強会。
 しかしその「勉強会」をしたというレシートは日本そば屋「家族亭」のもの。しかもレシートには日本酒や生ビール中ジョッキの注文の記載も。

○ 区議の陳述書によると「他区の自民党関係者」との「会合」。
 しかしその「会合」の実態は、高級そば店で1人あたり1万2000円以上の食事をし、更にその後にワインバーで1人あたり3000円以上の注文。
 これってどんな「会合」だったのでしょうか?

○ 区議の陳述書では、「PTA連合会」との意見交換が午後2時まで延びたので、その後「遅い昼食」を摂りながら「意見交換を継続」したとのこと。
 添付されているのは「西安餃子」のレシートですが、そのレシートに打ち込まれた時刻は「19:21」。
 午後2時から「遅い昼食」を延々と5時間食べ続けたということでしょうか?
 本当はただ晩ご飯を食べただけじゃないの?

 ちなみにこの「西安餃子」のレシート・領収証は何回も登場していました。
 おそらく区議団お気に入りのお店だったのでしょう。
 中には、1人あたり8800円以上も使われた回がありました。
 “ぐるなび”を見ると「西安餃子」のお店の夜の平均予算は3500円とのこと。
 平均予算の2倍以上も飲み食いをしたというのは、区議の皆さんは相当に胃腸が丈夫だということですね。

○ 大井競馬場近くのステーキレストランの1100円余りの領収証。
 区議の陳述書によると、議員1名が大井競馬場を視察した後に厩務員さんと「意見交換」をしたとのこと。
 しかし領収書の日付の日を調べてみると、その日は大井競馬の開催日でした。
 誰かがただ競馬を見に行っただけでなければよいですが。

 …と書いているうちにもうこんなに長くなってしまいました。
 なにせ私たちの反論の書面は266ページですから、こういうおもしろい話はいくらでもあります。
 しかしいつまでもこんなことをしていると話が進みませんので、各論はほどほどにして先に行きましょう。

つづく

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