クルマの「安全性」について、もっと身近な観点から考える
最近、「安全性向上」などとうたったクルマが多く出ているが、ここでいう安全性向上とは
何か。エアバッグやABSが当然と化してきた今、衝突安全性というところに目を向け始めて
きている。衝突実験をしているところをテレビや雑誌などといったメディアで見たことが
あるだろうか。ものすごい勢いで実験車両が大破していく。このことから、「万が一衝突
した時でも乗員を保護します」といい、安全性を向上させたと宣伝できるわけだ。
だが、この衝突実験を見たからって、「あ、安全性が向上したな」と乗る側が感じるのは
難しいと思うのである。
確かに安全ボディーで安全性はアップしているかもしれない。だが、衝突実験を見たとこ
ろで、どうアップしているのかなんてパッとこないだろう。
衝突安全ボディーにせよ、エアバッグやABS、トラクションコントロール、スタビリティー
コントロールにせよ、これらはあくまでも「万が一」の時に乗員を守るためのものである。
確かにこれも重要だが、その「万が一」を起こさないための配慮も必要なのではないかと思われる。
それでは、もう少し身近な観点に切り替えよう。最近のセダンなど、いわゆる3BOX型の乗用
車は前や後が見づらいと感じたことはないだろうか。最近のこの類のクルマはデザインを
重視しているせいか、前後方視界が今ひとつということがけっこう多い。フロントフェンダー
がやや斜めになっていたり、曲面化していたりして前が見えない。(写真1)
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写真1 最近のクルマは赤線の部分が見えないことが多い
リアに関してはハイデッキ化して後方視界が悪くなったりといったことが多く見受け
られるのである。(写真2)
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写真2 後方視界については、赤線部分より下が見えないことが多い。
これらの原因はいずれもデザインにあると思う。今は確かにいろいろなデザインのクルマが
あり、個性的だと感じるものもある。昔みたいに角張ったクルマはさすがに見られない。
だが、昔のクルマは前がちゃんと見える。フロントのフェンダーラインもちゃんと見えるし、
まだドアミラー社会ではない頃はフェンダーミラーだったから、これも目印にできたといえる。
今のクルマでも、営業マンは「前が非常に見やすくなっています」と話すことがあるが、
何度か「デタラメなセールストークをするな!」内心思ったことがある。
確かに前は見える。但し、フロントフェンダーが見えないことには話にならない。
フロントフェンダーが見えないということは、車幅など、そのクルマの感覚がつかめないと
いうことになる。だから、乗ってて不安を覚えてしまうのである。
この、前が見えないということから1BOXを買うといった傾向だって見られるのである。
昔は、車幅感覚がつかめるようにするため、フェンダーマーカー(写真3)といったものが
標準装備でついていたりした。だが、今のクルマでこれがついていることはほとんどない。
カー用品店などに行けばフェンダーマーカーは売っているが、今のクルマはこれをつけても
何も変わらない、これでも前が見えないということだってある。
フロントバンパーにポールをたてているクルマがあるが、このような状況になってはポール
が必要不可欠になってくる。
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写真3 フェンダーマーカー
車幅感覚がつかめなくなっているのは、いずれもデザインが原因だと先に書いたが、車幅
感覚がつかめること、前後方視界がよいことも、身近な「安全性」ではないかと私は思う。
個性的なデザインも重要だが、今書いた身近な安全性を考慮したデザインもしてほしい。
「万が一」以前の問題と見てほしいと思う筆者であった。