08年12月28日
ハイブリッドカーのランニングコストと将来性
エ
ンジンだけでなく、電気とモーターも利用して燃費を抑える。その技術は衝撃的だった。
「ハイブリッドカー」という言葉を耳にするようになってから、約10年の月日が流れた。
今や街中に出ると、1度はまず見かけるくらいで、タクシーや教習所、会社の営業車など、
法人単位でも導入されるようにまでなってきた。
このように、ハイブリッドカーの普及はこの10年で多少なりとも進んではきたわけだが、
普及率はというと、全体の3%に留まる(2008年10月24日 日経トレンディ)。
環境によい、地球に優しいというメリットをもつものの、その反面、車両価格の問題、
修理の時のコストの問題などを指摘する声もあり、これから先、今以上に普及するかと
いうと、先行きが見えてこないのが現状ではないかと考える。
確かに、ハイブリッドカーは低燃費で環境に優しいクルマだという認識はあるが、
今後、ハイブリッドカーは普及していくのかどうか。これを今回のコラムのテーマとした。
今回も、従来のコラムと同様に公開アンケートを実施、3点の質問項目を挙げた。
(今回の有効回答数は16名 ご協力いただいた皆様に感謝します。)
まずは、ハイブリッドカーが高いかどうかを質問項目としたところ、およそ8割の回答が
高いという回答だった。現状では手を出すことも難しく、将来もっと安くなることを
期待する声もあった。
また、バッテリーなどといったハイブリッド固有部品の修理、保証の問題を指摘する
声も少なくなかった。
現に、購入してから5年も経たないうちにバッテリー交換が必要となり、走行距離で保証
対象から外れて有償修理となり、それだけで40万〜50万の出費になってしまったという
事例もあるようだ。
燃費はよく、環境にはエコではあるものの、庶民の財布にはちっともエコではないと
いう意見すらあった。現状からすると、バッテリーの寿命など、いわゆる技術的な面での
課題が残されていると考える。
一方、反対的な意見で、これだけの技術を搭載したクルマであれば、もっと高くても
おかしくはないという意見も少数派ながらあった。
このような現状で、ハイブリッドカーの購入を考えたことがあるか、アンケートにした
ところ、75%が「考えたことはない」との回答であった。
ない理由としては、やはりこちらでも車両価格の割高感、故障のリスクを指摘する
ものが大半であり、これらが改善されない限りは視野に入れることはないとの回答であった。
こういった意見が、普及になかなかつながらない要因となっているものと考える。
また、将来的には「乗らなければならない」日が来るのではないだろうかといった、
環境問題を懸念する意見もあった。
車両価格が同排気量クラスのガソリン車と比較すると割高であること、それに加えて
バッテリーの交換などを考えると、普通車以上に投資がかかってしまうハイブリッドカー
だが、ランニングコストだけで比較してどのような結果になるのか、果たして何年で初期
投資を回収できるのか、今回のコラムではこの比較計算も実施した。
(サイズが大きいため、こちらから別画面で開きながら本文を参照いただきたい。計算条件も一覧に示す。)
まず、ハイブリッドカーを5車種(クラウン、エスティマ、プリウス、シビック、ハリアー)
設定し、それぞれに5車種比較車種を設定した。
基本的に同じ排気量クラス、または価格帯が近いクラスで設定、カテゴリーもほぼ同じ
ものでの比較を実施した。
まず、1. クラウンハイブリッドの場合。
同じクラウンの3,500ccと比較しても、18.7年との結果であった。
即ち、クラウンハイブリッドでかかる初期投資を回収するのに、約19年かかることに
なり、現実的とは言い難い結果となった。
同じ排気量クラスの場合でこのような結果となったので、参考に輸入車で排気量を
1ランク下げて比較してみたところ、それでも約10年という結果につながった。
また、プレミアム性の高いクルマでも参考に挙げてみたところ、車両価格が近いものと
なったことから、こちらは約3年との結果であった。
次に、2. エスティマハイブリッドの場合。
同じ2,400cc同士の比較で、約15年、3,500ccで比較すると約4年と大きく差が開いた。
他メーカーの車種と比較しても、5年から10年はかかる結果となった。
3. プリウスの場合。
今やハイブリッドカーの代名詞的存在ともなったプリウスだが、多車種と比較してみると、
同じ1,500ccでは10年以上は確実で、場合によっては20年かかる結果にもなった。ランクを
上げてみて1,800ccクラスでも大して変わることなく、2,000ccクラスでやっと10年を
下回るものとなった。
4. シビックハイブリッドの場合。
同じ1,300ccまたは1,500ccクラスで比較すると、車両価格の差が100万以上となるものも
珍しくなく、あまりにも非現実的な結果となった。
当初は軽自動車も比較対象にしようと考えたが、1,500ccクラスでも30年前後との結果
から、あまりにも非現実的な結果になってしまうことが見えてきたため、対象から外した。
5. ハリアーハイブリッドの場合。
カテゴリー、車種選定が一番難しかったが、最近発売されたパジェロのクリーン
ディーゼルでも比較してみた。およそ5年で回収できる結果にはなったが、庶民的な価格
とは言い難い。他SUVなどでも比較してみたが、車重があることから、燃費に関しては
条件が悪かったせいか、他の比較結果よりも少ない年数で回収できることがわかった。
但し、同じハリアー3,500ccで比較すると、10年以上かかる結果となった。
このように、年間のランニングコスト(燃料代)から、車両価格の差額に何年で追い
つけるか、何年で初期投資を回収できるのかを比較したが、どれも共通することは、
同じ排気量クラスのガソリン車では10年以上かかるものが多かったことである。
特に、コンパクトカークラスで比較すると20年以上かかってしまうものもあり、
ハイブリッドにメリットを感じなくなってしまうところも否めない。
ただし、中には、2年や3年で回収できる車種も発見された。特に車重の大きいSUVなど
ではその傾向が見られる。やはり大きいサイズのクルマになれば有利なのかと思いきや、
大型セダンではそのような傾向はなく、大きいクルマほど回収年数は早いと一概には
言い切れない。
また、これらはあくまでも参考であり、グレード違い、オプション装着などによっての
変動は当然起こると考えていただきたい。
このように比較計算をしてみたものの、ハイブリッドカーとしての車種は、乗用車でも
まだ数車種しかない程度であり、アンケートでは今後のハイブリッドカーのバリエー
ション拡大に期待するかどうかを質問したところ、期待する声がこちらも8割を占めた。
選択肢が増えることが普及にもつながるとの意見が大体ではあったが、バッテリーが
もっと安価になれば期待する、バッテリーが高額である限り期待はできないなど、
こちらもバッテリーなどの修理や保証の問題に左右される結果となった。
また、環境に優しくてかつスポーティーな走りをしてくれる、両立型のクルマを期待
する声も少なくなかった。
ハイブリッドカーは確かに画期的であり、環境に優しいクルマで知名度としても高い
ものとなった。
だが、これまでに述べたとおり、価格の問題、バッテリーなどといった技術的な問題、
バリエーションの拡大(選択肢が少ない)など、今後の課題はまだ残っているといえる。
少なくとも、初期投資が少なくならない限りは、手を出すことも難しいままとなり、
今以上の普及は期待できないと考えるのである。
ランニングコスト計算の結果、多くの車種が回収に10年以上を要することを考えると
現実的とは言い難く、現在の平均的な車両保有年数が、バブルの頃と比べて伸びている
傾向にあり、7年程度ということから、少なくとも5年以内で回収できるくらいになら
なければメリットは出てこないと思われる。
環境対策技術は何もハイブリッドだけでなく、小排気量エンジンを搭載したコンパクト
カーや、今注目されているクリーンディーゼル、更には小排気量エンジンに過給機を
組合わせて、熱効率を向上させたものなど、多岐にわたっており、ハイブリッド以外の
選択肢もあるということを認識するべきと考える。
個人的には、ハイブリッドを否定するつもりはない。経済的ではあるかもしれないが、
初期投資や故障のリスクを考えると、ランニングコストが逆にかかってしまうところも
否めず、現状では「ユーザーにとって」良い選択かというと、まだ疑問が残るのである。
「環境に優しい=ハイブリッド」「燃費がよい=ハイブリッド」なのかというとそう
ではなく、あくまでも手段のひとつと考え、ハイブリッドだけに固執しない選択をして
いきたいものだ。
5年、10年経って、ハイブリッド技術がどこまで進化しているのか、バリエーションが
今以上にどれだけ拡大されているのか、期待したいところだ。
参考図書
・ 胸をはってクルマに乗れますか?美しい自動車社会を求めて(館内端著 NAVI編集部)
・ 日本自動車史年表(GP企画センター編 グランプリ出版)
・ 自動車工学概論(竹花有也著 理工学社)
・ クルマはどう変わっていくのか(GP企画センター編 グランプリ出版)