08年8月15日
クリーンディーゼルエンジンの乗用車への展開について
大
型トラックやバスなど、いわゆる商用車での使用が多いのがディーゼルエンジンである。
使用する燃料はガソリンではなくて軽油であり、CO2の排出が少ない、燃料費が安い、熱効率が
よいなどといった点から、商用車の世界ではもはやディーゼルエンジンで圧倒的多数を占めている。
ディーゼルエンジンは、圧縮比が大きく取れる、スロットルがなく、大気圧の空気をシリンダー
内に直接吸込むので、ポンプ損失が少なく熱効率が高いというメリットを持つ。
確かに、熱効率がよく、ランニングコストもガソリンと比べればかからないディーゼルでは
あるが、黒煙を多く排出するなど、環境面でマイナスとなってしまう点もあり、首都圏や
中京圏、関西圏などで、これに規制がかけられた。
数年前までは、乗用車でも多くの車種がディーゼルエンジン搭載車を設定していたが、
規制が厳しくなった背景もあって、ここ最近は乗用車からのディーゼルエンジンの
ラインナップは少なくなってきている。
規制に通らないクルマは車検が受けられないといった理由から、また、ガソリン同クラス車
ではとても維持費が成り立たないとの理由から、ディーゼルエンジン搭載のRV車から、
ガソリンエンジン搭載の小型セダンに買い替えたというケースも多々あるという。
ヨーロッパでは、乗用車でのディーゼルエンジン搭載車は主流となっている。燃費がよい、
長距離走っても丈夫ということから、ディーゼルにマニュアルトランスミッションという
組合せが多くの割合を占めるという。
日本人にとっては、あまりよいイメージを持たれない存在となってしまったディーゼル
エンジンだが、排ガス浄化技術が進化し、日本でもディーゼルエンジン搭載乗用車の「
復活」が最近話題になっている。
日本ではディーゼル乗用車の割合が非常に少ないことから、TPHでは公開アンケートを
実施した(有効回答者数は16名、協力いただいた皆様に感謝します)。
まずは、今後、ディーゼル乗用車が欲しいと思うかどうか。
これには、前向きに検討したいという回答も含めると、欲しいと思うという回答62%を占め、
クリーンディーゼルへの関心はそこそこあるものと見えた。
耐久性に優れる、維持費が削減できるなど、経済的な理由での回答が多く見られたが、国の
政策があまりディーゼル車に対しいいイメージがなく、政策が優遇されればという意見もあった。
割合としては、欲しいと思うという意見が半分以上となったものの、反対的な意見も
38%であった。主な反対理由として、ランニングコストはよいものの、振動、騒音を指摘
する意見や、耐久性に優れるつくりをしている以上、車両価格が必然と高くなってしまう
点を指摘する意見が多く、さらにこれをランニングコストで回収することは、街乗り
メインではとても無理だという意見もあった。
次に、今後乗用車に展開するならどのカテゴリーに強化するべきか。
複数回答可とし、選択肢を5つ設けたが、その結果、これといった偏りがなく、様々な
意見があった。
その中でも、最も多い票数がミニバンだったので、ミニバンでの意見を挙げてみると、
セダンよりも重い車種が多く、その分燃費が悪いクルマが多いので、ここから強化すべき、
最近のクルマの売れ筋となってきているのがミニバンであり、そこからディーゼルを拡大
すればよいなどといった意見である。
重量車への展開をという意見とは対照的に、経済的な観点に特化していることから、サイズ、
排気量は必要最小限であるべき、セダンやミニバンに展開しても、そこまでのメリットは
ないだろうという理由から、コンパクトクラスへ強化をするべきという意見もあった。
他に、少数派意見であったが、商用車のみで乗用車への展開は不要、新世代ディーゼル
ターボを採用したスポーツカーにも乗ってみたいという意見もあり。
これより、どのカテゴリーに強化するべきかを特定することは難しいものとなった。
次に、日本でディーゼル乗用車があまり注目されなかったのはなぜか。
こちらも複数回答を可としたが、やはり黒煙を排出するイメージが強い傾向が見られた。
東京都知事がペットボトルに入っていた煤を会見の場でバラ撒いたことは記憶に新しいが、
ターボによる吸入空気量の増大(吸入量が少ないと黒煙が出やすい)、高圧できめ細かな
燃料噴射コモンレールシステムの採用、DPRなどといった後処理装置など、排ガス対策技術は
進んでいるが、更なる排ガスの浄化性能が課題と考える意見が多いようだ。
次に、ガソリン車と比較してパワー不足を感じる、耐久性に優れるが、その分車両価格が
高価になってしまう、エンジンの重量、車両重量が増え、税金などの面でメリットを感じ
ないという意見も少なくなかった。
その他の意見では、燃料の品質を問題視する意見が見られた。硫黄分が多く、これが黒煙
排出に起因することを指摘するものであり、今後のディーゼル普及の課題の1つともいえるだろう。
このように、多くの意見をいただいたが、クリーンディーゼルエンジンの乗用車への展開は、
メリットはあるものの、今後の課題もまだ多く残されているものと考える。
排ガスの浄化技術、出力向上、燃料の品質などが主に挙げられるが、何より重要なのは
信頼性といかにこれまでの同クラスのガソリン車に近い価格で発売できるか、ユーザーに
とって身近な存在になれるかであると考える。
また、ディーゼルというと黒煙を排出するというイメージも強いことから、ディーゼル
エンジンのイメージアップも必須と考える。
ディーゼル乗用車が発売されたら欲しいかというと何ともいえず、今後、ヨーロッパの
ように普及するかというと、現段階では難しいのではないかと考えるが、クリーンディーゼルと
いう発想は否定せず、どれだけユーザーにとって身近な存在になっていくか、今後の展開に
注目していきたいところだ。
参考図書
・新 ディーゼル自動車の本(杉本和俊著 山海堂)
・内燃機関工学入門(竹花有也著 理工学社)