05年6月11日
「霊柩車」を見る目が変わってきた日本社会


回は縁起のいい話ではないが、「霊柩車」の話。だが、現実を考えると人間いつかは
この世に別れを告げなければならない日が、自分の棺が霊柩車に載る日が必ず来る。
霊柩車といえば、東京では「黒い普通乗用車の後部分に黄金色に塗られたお宮をのせ
たクルマ」というのが一般的だと思うが、関西では塗装を一切しない白木のお宮で年に
一度くらい鉋でメンテナンスをする必要がある、名古屋ではお宮がまた違った形をして
いるなど、地域によっても多種多様のようだ。富山県では車体が赤の霊柩車があると
いう説もある。
そもそも、霊柩車の始まりは、昔は遺体を樽に入れ、それを御輿に納めて運んだ、
それが人力車へ変わり、それから霊柩車に至ったといわれている。「霊柩車」が
最初にできたのは大正時代といわれている。それが伝統として残り、現在に至っているようだ。

霊柩車は、大きく分けると4種類に区別できる。

@  宮型:乗用車の後部分にお宮を載せたタイプで最も一般的。
A  洋型:黒塗りのステーションワゴンなどをベースにし、革張りなどを施したタイプ
B バン型:病院で亡くなった人をまず自宅まで送る時などに使う。「寝台車」ともいう。
C バス型:マイクロバスをベースに棺室を設けたタイプ。

補足すると、Cのバス型は自分は見たことがない。北海道や東北地方などで葬儀式場
から火葬場までの距離が遠い地区、冬季の気象条件が厳しい地区で使われるようだ。
霊柩車の中で一般的なのはおそらく@の宮型と思われるが、最近傾向が変わってきて
いるようだ。Aの洋型を使用するケースが増えてきたのである。キリスト教の葬儀の
場合は宮型を使うことはまずないだろうが、仏式、神式の葬儀の場合でも洋型を使う
ことがここ最近多くなっているようだ。
もともと洋型とは、欧米で主流のタイプで、日本人にはあまりなじみがなかったのだが、
なぜ洋型かというと、宮型はどうしても目立ってしまう、火葬場付近の住民にとっては
嫌でも毎日目に入ってしまう、縁起が悪いなどといったことから、宮型が最近敬遠され
る傾向にあるのである。一部の市町村、自治体では火葬場に宮型霊柩車を乗り入れる
ことを禁止する条例までできてしまっているくらいである。
有名人、著名人の葬儀でも、テレビのニュースなどで見る限りほとんど洋型霊柩車を
使っている。
このように宮型霊柩車が敬遠される傾向から、今後宮型霊柩車はなくなってしまうのか
というと、そうでもないと思う。確かに市町村によっては禁止の条例までできているが、
中には伝統を重んじる考え方があるはずだ。
宮型霊柩車は日本独自のもので、外国人が初めて見た時には「これはキャンピングカーか?」
と言ったことがあったという。お宮の製造工程は皆職人技と言ってよい。ベース車両が
入り、リヤオーバーハングを延長するのでまず切断する。それからお宮を造り、仮載せ、
それから塗装や装飾品の取付け。車両搬入から完成まで実に半年近くはかかるという。
お宮の彫刻や竜などの装飾品は職人の手によってひとつひとつ造られるのである。
こういった職人技術はやはり今後も残したいという考え方があるはずであり、将来
宮型が完全になくなるかといったら、一概にそうとも言えないように思える。
なお、ベース車両は国産だとクラウンやセンチュリー、外車ではキャデラックや
マーキュリー、ベンツなど、Lクラスの高級車が主流。やはり人生の最後に使うクルマ
なのだから、高級なクルマを使うべきなのだろう。
宮型に外車を使うということに違和感はあるが、自分は基本的にこの考え には賛成である。
ちなみに霊柩車の総額は車種によっても異なるが、ベース車両、架装含めて最低1,000万円と
いわれる。日本の職人技がこれほど結集したクルマはおそらく他にないだろう。



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