「親を殺されているんだ……か」

自分の家のソファーでチャーハンを食べながら以前バニーの吐き出した言葉を考えた。
口にスプーンを咥えゆらゆらと揺らし目の先にある写真立てを見た。
そこに映っているのはかけがえのない俺の家族。
生前の友恵と幼い楓が笑っている。
ふうっと溜息を吐いた後、楓の声が聞きたくなって電話を掛けると…。

『え、何?』
「何って、楓が今、どぉ〜してるのかなぁ〜って」

電話のモニターに映る最愛の娘はつれない態度を取る。
声も若干低い。
ご機嫌を取ろうとするが俺の言い方が気に食わないのかその言い方は止めて!と怒られた。

『あ、テレビ始まっちゃう!じゃあねお父さん!』
「か、楓ぇ〜っ!!」

画面から楓が消えて代わるように母ちゃんが現れた。
苦笑いをしながら楓の様子を伝えてくる。
バニーが出演しているテレビに目を輝かせて見ているらしい。
俺に対してはそんな目を向けて来ないのに……。
楓はあいつに助けられてから今やバニーの熱烈なファンになっている。
くそっ。

『身体に気を付けるのよ』
「分かってるよ、じゃあな」

母ちゃんの小言が始まる前に電話を切った。
ふうっ。
…………。
当たり前のこの会話も相手が生きているからこそだ。
バニーは幼い時に両親を亡くしてから一人で孤独をずっと抱えていたのだろうか。
だから酔った時に本音がつい出てしまったのか。
だんだんバニーの様子が気になってきて俺は携帯で電話を掛けてみた。

『どうしたんですか?』
「いや、その……」

掛けてみたはいいが実際何を話せばいいか分からなくなって会話が止まってしまう。
黙った俺にバニーが不審に思ったのか呼び掛けてくる。

『おじさん?』
「お、おお。そうだ、お前ちゃんと晩飯食べたのか?」
『……』

すると今度はバニーが黙ってしまった。
どうしたんだ?
電話越しに呆れたような溜息をはぁっとバニーが吐き出した。

『おせっかいもいい加減にして下さい。しつこいですよ』
「あのなぁ、相棒が心配しているのにおせっかいはないだろ」
『………。あなたは…食べたんですか?』
「え?俺?おお、食べたぜ!俺特製のチャーハン!そうだ、今度食わせてやるよ」
『結構です』
「あ?なんでだよ。うますぎて涙が出ちゃうぞ!」

相変わらずの態度だがこの後もくだらない話しをずっとしていた。
ま、こんな事でも自分は一人じゃないってちょっとだけでも感じてくれればいいんだがな。

『もう、切りますよ』
「もうこんな時間か。お、そうだ」

言おうと思って言い忘れた事があったんだ。

「お前さ、酒飲み過ぎんなよ」
『お酒?』
「そ、ほどほどにしとけ」
『ああ、会社に遅刻してしまった事ですか?』
「それもあるが……」

俺の脳裏にバニーのマンションでの出来事が蘇り顔を顰めた。
あの日の朝……といっても昼に近かったが、目覚めると案の定、バニーの記憶は途中から なくなっていたようだ。
まあ、シラフであんな事されちゃったらおじさん困っちゃうけどな!
バニーが俺にキスして来たなんて言ったらあいつの事だ、信じないと思うし絶対に気持ち悪い事を 言わないで下さいとか何とか言っちゃうのは目に見えている。
それに完全に寝坊した俺達は慌てて会社へと急いだからその事をバニーに言う機会もなかった。

『他に何か?』
「いや、別に。お前が酒飲み過ぎて寝るといびきと歯ぎしりが酷いって事だ」
『そんな事あるわけないでしょう。馬鹿らしい』

バニーはブツッと通話を切った。
まぁ、あれは兎に噛まれたって事にしよう。
うんうん、と頷いて俺は寝る準備をした。
よい夢をバニー。





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