おまけ





「よっ、宮森!」

大学の構内でベンチに座っていた壱は坂上に声を掛けられた。
壱はぐったりしながら元気なく返事を返す。
それに坂上は顎に手を当てふふーんと壱を観察してニヤッと笑う。

「お疲れさん」
「な、何がだよ」
「別にー。ん?何持ってんの?」

壱の手にプレゼント用に包装されている箱があった。
見ている方が驚くほど壱の身体がビクリと跳ね上がり、 坂上にその箱が押し付けられる。

「やる」
「は?」
「やる!!」

必死な形相の壱に訝しんだ坂上は理由を聞いた。
しかし壱はだんまりだ。

「開けるぞ」

坂上が包装を取ると綺麗な箱が出てくる。
それを開けると手のひらサイズの青のグラデーションになっている雫状の香水瓶が現れた。
まるで宝石のような美しさに見惚れてしまう。

「これどうしたんだ?」
「……」

黙秘を続ける壱に坂上は推理を始めた。

「東条に貰ったのか?」
「……」

違うなと思った坂上は次に壱に好意を寄せている者を頭に思い描いた。
まずはあの東条の傍にいて許されている貴重な人物、海堂要。
海堂自身も世界的に有名な自動車メーカーのKAIDOの子息だ。
壱がそんな海堂からかわいいとか俺と付き合おうよーとか言われていた事を知っている。

「じゃあ、海堂さん?」
「……」

違うのかと坂上は次の人物を探し出す。
記憶を巡らすとつい最近、坂上を牽制してきた者がいた。
それは東条のイトコである花巻薫だ。

「んーじゃあ、花巻さん」
「……っ!!?」

明らかに動揺した壱を見て坂上はビンゴと指を鳴らした。
だがなぜそんなに挙動不審な事をするのかが分からない。

「へー、花巻さんに貰ったんだ。すげーじゃん。本当に要らないのか?」
「うん…」

壱はコクリと頷いた。
お互いが告白した後、東条に抱かれた壱はいつまで経っても衰える事のない東条の精力にもう止めてと 懇願した。
しかし花巻とは会わないという約束を破った壱に対して東条はお仕置きだと言って抱き続けた。
快楽に我を忘れて途中から記憶が飛んでいる。
そして大学に行った途端、壱が出会ったのは会ってはいけない花巻だった。
講義が始まるからと逃げるように走り去ろうとした壱は花達に阻止されその間に花巻にある物を手渡される。
それが先程の箱だった。
もしもこの事がバレた日には…壱はサッと青褪めた。

「なんで香水なわけ?」
「……薫さんが使っているものと同じなんだって」
「ほー、自分と同じ香りを纏わせようとしてるんだ。どんな匂いか興味あるな」

坂上は香水の蓋を開けようとしたがなかなか開ける事が出来ない。

「なんだこれ。どうやって開けるんだ?宮森分かる?」
「え?」
「蓋を開けるだけだよ。そんなにビビるなって」

壱は香水を受け取ると蓋を弄り始めた。
引っ張っても回しても開ける事が出来ない。

「開かない」
「だろ?」

だんだん熱中しているとある拍子にポロっと蓋が取れた。
そして力を入れて弄っていたせいかそのままスプレーノズルを押してしまう。
あっと思った時には遅かった。
勢いよく坂上の顔に向かって香水を吹き掛けてしまった。

「宮森っ!」
「わ、悪いっ」
「げほっげほっ!」

適量に付ければとてもいい香りなのだろうが直接掛けられた坂上は香りの濃さにむせている。
二人の周囲は香水の匂いが充満していた。
壱は謝りながら香水の蓋を拾って閉める。

「いっちゃーーーん!!」

ハッとして振り返ると少し離れた所から海堂が手を振っている。
その横には東条も。
壱は慌てて手に持っていた香水瓶を坂上に握らせ、その場を離れ二人に駆け寄った。

「な、何?どうしたんですか?」
「どうもないけど、いっちゃんの顔を見に来たのよ」
「俺の顔?」

首を傾げる壱に海堂は、かわいいー!と言ってギュッと抱擁した。
壱はうわわわっと声を上げる。
もちろん海堂は東条に引き剥がされた。

「壱に触れるな」
「なんだよっ、帝人は毎晩毎晩いっちゃんの神聖な所に触れられるんだからちょっとぐらい良いじゃん」
「お前が触れると壱が汚れる」
「俺をばい菌みたく言うなよっ!」
「壱行くぞ」

グイッと引っ張られたが東条の動きがピタッと止まった。

「帝人?」

壱が声を掛けるとみるみる東条の顔が険しくなっていくのが分かりうろたえてしまった。

「壱…」
「な、に?」
「またアイツに会ったのか」
「え?」

困惑している壱の首筋に顔を寄せて来た海堂がすんすんと匂いを嗅ぎ眉を寄せる。

「あーなんか匂いすると思ったら薫の匂いだ…ってまさかまた押し倒されたの!?」
「ちょっと、要さんっ!」

さっき誤って出してしまった香水の匂いが自分にも付いてしまっていたのかと慌てる壱の横から 冷気が漂って来た。
ブルっと震えながらその方へ振り向くと…。

「て、帝人…」
「押し倒されたとは何だ」
「お、押し倒されてなんかないって!!」

この間、ベンチから落ちた壱の上に花巻が圧し掛かってきたが押し倒されてはいないぞと心の中で言い訳をする。
東条が海堂に視線を移した。
海堂が自分に不利な事を言う前に壱は先手を打つ。

「要さんっ!抱きつかれていただけですよね!この事は帝人にも言っただろ!?」
「うーん、まあ抱きつかれていたといえばそうだけど…」
「ほらなっ!!」

必死に訴えた壱だったが明らかに疑いの目を向けている東条と視線が合いタラリと冷や汗が流れ 一歩後退した。

「ぅわぁっ!」

壱の身体が東条に担がれそのまま運ばれて行く。

「お仕置きだ」
「えっ!!?」

嫌だー!!っと叫び暴れる壱に海堂は手を大きく振った。

「いっちゃーーーん。また明日…じゃないな、早くて明後日か?でも帝人のあの様子だと3日後だな」

うんうんと頷いて壱に言い直す。

「また3日後なーー!!」

はたして海堂の予想通り3日後に解放されたのかは神のみぞ知る。







main