6 「これ、さっきの女の子から出て来たやつ?」 「ああ」 「持ってて大丈夫なの?」 心配そうな翔馬に魅月は慈愛の眼を向ける。 「これを翔馬が浄化するのだ」 「は?俺?」 目を丸くしていると宝玉を差し出してきた。 恐る恐る受け取る。 すると嘘のように黒い靄が無くなった。 一瞬すぎて翔馬自身も何が起きたか把握しきれていない。 魅月は幸せそうな顔で輝く透明な宝玉を見ている。 「ああ、わしの花嫁」 「ちょっ、これ返す!」 うっとりとしている魅月に慌てて宝玉を返そうとしたが、まるでシャボン玉が消えるように手からなくなってしまった。 驚いた翔馬は焦りながら周囲を探す。 「え?なんでなくなったの?」 「それは役目を終えたからだ」 「は?」 意味が分からず魅月を見上げると、一瞬の内に再び抱き上げられてしまった。 そして、そのままどこかへ連れて行かれてしまう。 焦った翔馬はジタバタ暴れながら叫んだ。 「ちょっと!どこに行くんだよ!俺は家に帰るんだ!」 興奮していると宥めるように背を撫でられて、魅月が笑う。 「ああ、そうだ。帰るのだ。我が家にな」 「ち、違うっ!魅月の家じゃなくて……っ」 「翔馬よ、わしが嫌いか?」 とても悲しそうな顔で見られて翔馬は戸惑った。 別に魅月の事は嫌いではない。 嫌いではないが自分が花嫁だという現実が受け入れられないだけだ。 だから、そう伝えた。 「嫌いじゃないけど……」 「そうか、嫌いではないか」 「でも……」 「でも?」 「花嫁はやだ。他の誰かじゃダメなの?さっきの女の子とか……」 途中で翔馬は口を噤んだ。 魅月から怒気を感じたからだ。 「わしは翔馬以外花嫁にする気はない。翔馬以外を愛する事もない」 「魅月……」 「さっき、分家の者に向かって公言してくれたではないか」 「え?」 「わしの花嫁は翔馬だと」 「ええ?」 「ちゃんと聞いていたぞ」 確かに姉の明美を花嫁だと勘違いした美少女に己が魅月の花嫁だと叫んだ。 なぜそれを魅月が知っているのか。 動揺する翔馬に魅月が言ってのける。 「結界が張ってあったから、精神だけを飛ばして中から破ろうと翔馬の姉の身体を借りた。 実際、動くには多少の時間が掛かるが、聴覚視覚は先に馴染んだ故、翔馬の声が聞こえたのだ」 「えっと、それはさっ」 「嬉しかったぞ。とても嬉しかった」 本当に嬉しそうな顔でほほ笑む魅月に対して、これ以上花嫁じゃないと突っぱねるのは良心が痛む。 だが、受け入れるのは自分が納得出来ない。 なので、提案をしてみた。 「あのさ、期間を決めようよ」 「期間?」 「その、花嫁になる努力はする。だけど、やっぱり俺がダメだと思ったら諦めて欲しいんだ」 魅月は無言で翔馬を見つめる。 そして頷いた。 翔馬はホッと胸を撫で下ろした。 「二週間後の三珠祭まででどう?」 「いいだろう」 花嫁になる努力をすると言った日から、翔馬は魅月の屋敷で暮らし始めた。 翔馬は魅月に寄り添われているだけで特にあれをしろ、これをしろ等、無理強いされる事もなかった。 そして自分が条件を出した三珠祭の日まで、学校に行かせてもらえないのかと思っていたのだが、 聞いてみるとすんなり良いと言われた。 「今日の学校はどうだった?」 翔馬は夜、同じ褥にいる魅月に聞かれた。 魅月と一緒に寝る事に対して抵抗があったがこれは花嫁になる努力内だ。 身を固くしていると魅月が抱き寄せてくる。 「えっと、今日は……そうだ、俺のクラスに転校生が来たよ」 「転校生?」 「そう。男だったんだけど、クラスにはいないタイプだったな。不良っぽいっていうか…… 喧嘩慣れしてそうな感じだった」 「大丈夫なのか?」 魅月は心配そうに翔馬を見る。 翔馬は笑った。 「平気だよ。話してみたら、結構いいやつだった。話しも合うし」 「そうか」 魅月も笑ったがジッと翔馬を見つめた。 そして忠告する。 「いい寄ってきたらわしに言うのだぞ」 「え?いい寄る?」 「翔馬はわしの花嫁なのだからな」 「お、俺にそんな事を言うのは魅月だけだって」 俯いていると、顔を上げさせられた。 魅月の真剣な眼差しが目の前にあった。 「翔馬」 「……んっ」 唇が重ねられて翔馬は目をぎゅっと瞑った。 何度も角度を変えては合わさって来る。 舌がするりと翔馬の咥内へ侵入した。 今までは、ただ触れるだけだったキスが、翔馬の口を溶かすような激しいものに変化し始めた。 これもまだ努力内だと思って抵抗せずに受ける。 そして息がうまく出来ない翔馬はいつもぐったりとしてしまうのだ。 それに歯列や口蓋を舌先でなぞられたり、舌を吸われると毎回、身体に変な反応が現れて困惑した。 「ま、……って、魅月、待って」 「どうした、翔馬」 今日も息を切らしている翔馬は、やっとの事で魅月を押しやって見上げた。 魅月はいつも余裕のある顔をしていて、それが翔馬をムッとさせる。 「もう、これくらいでいいだろ」 不機嫌だと分かる声をつい出してしまった翔馬に魅月は理由を聞く。 黙って俯いている翔馬はなかなか答えない。 「翔馬、わしの口付けは良くなかったか?」 「……」 「黙っていては分からぬぞ」 良くないはずがない。 魅月から遠ざけている腰が何よりの証拠だ。 アソコがずくずくと疼いて、触らなくても分かる程に、まずい事になっている。 そんな身体の変化に戸惑っているのに、己をこんな目に遭わした魅月が平然とした顔でいる事に 腹が立っているのだ。 「魅月と、キスするの……やだ」 ポツリと翔馬が呟けば、途端に魅月の顔が悲しみに満ちる。 「どうしてだ?何がいけなかった?教えてくれ、翔馬」 本当は答えたくはなかったが、あまりにも必死な魅月に根負けして、小さな声で答えた。 「だって、身体が……変になるんだ。おかしいじゃん……。俺だけさ、魅月は……普通なのに」 「おかしいとは、こういう事か?」 硬いものが翔馬の脚に触れた。 思わず顔を上げる。 魅月の金色の瞳が翔馬を真っ直ぐ見ていた。 「み、魅月……」 「翔馬に触れているのにどうして普通でいられようか」 ぐいぐいと脚を押して来る魅月の高ぶっているモノに翔馬の顔が真っ赤になった。 main |