「ん、んー、ん?」

窓から入ってくる日の光に気付いてゆっくりと眼を開けるとそこは……俺の部屋だ。
制服に何故かかばんを背負って靴を履いたまま寝ていたらしい。
あれ〜?何かすんごい事起きた気がするんだけど。
とりあえず靴を脱いでベットに腰かけ首を傾げて見る。

「結構ピンチな事だったと思うんだよねー。夢か?」

グルグルと考えていると下の階から勢いよく階段を上がってくる音がしてきた。

「グッモーニーン!!聖司!朝…だ」

部屋のドアを開けた5つ年上の兄貴、光司が目を大きくしてる。
え、な、何?

「聖司が…起きているなんて、今日は何かが起こる!」

失礼な。
確かに目覚めは超が付くほど良くないけどさ。

「どーしたの?光兄。あー!聖兄が起きてる〜!」

兄貴の後ろから現れたのは最近俺の身長を追い越しやがった1つ年下の弟、栄司が兄貴同様 驚いていた。
ちょっとムッとしながら2人を追いやって俺は顔を洗いに行った。
あくびをしながら鏡を見……。

「ぎゃーーーーーっ!!」

足に力が入らずそのまま床に座り込んでしまった。
ななな、夢じゃないのか?
霧が晴れたごとく鮮明に記憶が蘇る。
思わず右の首を手で覆った。
正確には右の首に付いている2つの小さな刺し傷を。
混乱してる俺の耳にリビングから目覚めようお姉さんが俺の星座の占い結果を言うのが聞こえる。

『拾いものと美形には十分注意が必要よ☆』

遅えよ!!

朝食もあまり手がつかず、家族中に気味悪がられてしまうし光兄と栄司には学校を休めと言われるし。
とりあえず気を紛らわすために学校へ行くことにした。
一応警戒しながら昨日の道をじりじり歩いていると

「あれは!」

道の隅っこに転がっている俺の携帯を発見した。
あぁ無事で良かったー。
壊れていない事を確認しながら昨日広哉と勇貴と別れた自販機の所へ行くとすでに2人ともいる。

「はよー…」

俺が声掛けると少し様子がおかしい事に2人共気づいたみたいだ。

「おいおいどうしたよ?元気ねーな」

ニカッと笑ったのは沢村勇貴。
幼馴染の一人で短髪黒髪の爽やか少年だ。
本人は否定するがそこそこかっこいい部類に入ると思われる。

「そういえば昨日救急車の番号聞いて来たけど…聖司?」

怪しむこいつは黒木広哉。
こいつも幼馴染の一人で天然茶髪の羨ましい奴だ。
広哉はかっこいいというか、かっこかわいい系か?
2人共面倒見がいいからついつい頼っちゃうんだよなぁ。

俺はぎこちない笑顔を2人に向けた。

「お二方、ささ学校に参ろうじゃナイカ!」

そうだ、忘れよう!それが一番だ!

広哉が目を少し細めて俺を見る。

「なあ、聖司昨日何かあっただろ…?」
「へ!?なななな何で??」
「聖司の回り…いや、聖司自身か?うまく言えないけど」

そうだ広哉は霊とか不思議な現象が見えたりするのだ。

「聖司に何かとり憑いたのか!?」

顔を真っ青にして勇貴が叫んだ。
ああ、勇貴はオカルト系が大の苦手だったな。

「いや多分もっと複雑…」

広哉はウウムと唸った。
え?忘れようと思った矢先にそう言うの止めて下さい。
勇貴なんてガタガタ震えてるぞ。

学校着いたら顔色の悪さをクラスメイト達に心配されてしまい
さらに担任には保健室行きの切符を渡されてしまった。
広哉の話しで気分が悪くなってしまった勇貴も一緒にな。
















保健室の先生は職員室に用事があるとかで勇貴と俺は衝立に仕切られたそれぞれのベットで 大人しく2人だけで寝ていた。
後一歩で夢の世界へ飛び込むという時身体に不快感を纏った。
動かそうとしても何かに全身を押さえつけられているような感覚がして目を無理矢理こじ開ける。

「!!?」

何じゃこりゃー!!
腕ぐらいの太さの長くてうねっている黒い物体が何本も俺に絡み付いていた。
恐怖で身体が固まる。
ちょっ…マジでシャレにならんって!
パニックに陥っている間にさっきよりも強く締め上げてきやがった。

「ぐっ…」

相当な力で胸を圧迫されて息が吸えないし叫ぶことも出来ない。
昨日といい何で俺がこんな目に遭うんだ。
勇貴寝てないで助けろ〜!
誰かー!

とすん。

?何だ?
俺の胸に何かが乗った。
赤い…猫?
猫は俺の足元の方に向いて絡み付いているものを見ている。
黒い物体の締め付けが少し緩んだ気がした。
徐々に猫が発光し始める。

『身の程も知らぬ愚かなものよ』

ねねね猫がしゃべったーーー!?

『我が主の高貴なる血の芳香に誘われたか』

黒い物体がうねうねと動きが活発になって俺の身体を這っている。
ううっ気持ち悪ぅ〜。

「あ」

その内の一本が勢い良く猫に襲いかかった。
しかし猫は避けると同時に噛み付く。

ギギギィィーーー!!

黒い物体が声を上げて暴れ始めた。
そのおかげで拘束が解け身体が自由になった…が。

「うわっ」

暴れているせいであちこち黒い物体が見境なく振り落とされる。
そのせいで勇貴との仕切りの衝立が変な方向に曲がって倒れた。
倒れた音に気付いて勇貴が目を覚ます。
やべっ。

「勇貴っ逃げろ」
「は?何で。ってかこの衝立どうしたんだ?」

こっちを見た勇貴は瞬きしながら状況が分かってないみたいだった。
…おかしい。
この状態を見ればオカルト大嫌いな勇貴は何か反応を示すのに。
まさか見えてないのか? すっかり勇貴に意識がいっていたから俺に向かって振り落とされた事に気付くのが遅れた。

「ーーっ!」

防衛本能で目をつぶって顔を腕でガードするくらいしか出来ない。
しかし何も衝撃が来ないので恐る恐る目を開けると横から伸ばされた手が目の前で襲いかかろうと していたものを掴んでいるのが見えた。
そのまま手から腕に目線をたどっていくとかなり長身のこれまた美形の男が。
見た目20代後半くらいか。
少し癖のある赤い長い髪と金色の瞳で昨日の二人とはまた違う美貌だ。

「ナイレイトの名において排除する」

さっきの猫と同じ声で冷酷に告げた瞬間、腰の横に装備していたと思われる剣を反対の手で掴んだ。
俺のが見た、否…見えたのはそこまでだ。
瞬き一回分。
次に見たのは脆くも崩れ去る黒い物体だった。

口を開けたまま赤髪兄さんをマジマジ見てしまった。
すでに剣は鞘に納まっている。
何というか服装がゲームとか映画に出てくる戦士の格好みたいな感じである。
長いマントに膝下のブーツ、腰には武器を装備するためのベルトが二重に巻いてあり適度にごつくて かっこいい。
マントに隠れて見えないが剣の他にも武器があるのだろう。

「いや〜ん、えっちぃ。どこみてるのー?」

は?
お…オネエ言葉!?
しかも声は低い男のままである。

赤髪兄さんがそっと股間を隠した。
ちょっ、そんなトコ見てねぇよっ!!

「あんた変な事言うなよ!」

そう言った俺に妖艶にクスリと笑った。
女の様になよっているような事は決してなく外見もれっきとした男なのに不覚にもドキリとさせられる。

「あんた、かわいいわね」

なーーーーーっ!?

「なぁ聖司、その人誰?」

きょとんとした勇貴が俺を見る。
そうだよっ。

「お前は誰だ!?」

人に指差しちゃダメだぞ〜と光兄に言われているが犯人はお前だごとく指してやった。

「ふ〜ん助けてあげた恩人にそういう事言っちゃうのね」

うぐっ。

「さ、さっきはありがとうございましたっ!」

思いっきり頭を下げる。
誰だか知らないが助けてくれたしな。




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