No.201

岡本太郎に乾杯

岡本敏子

2001.4.9掲載

岡本太郎の秘書として50年近くも彼のそばに
常に寄り添って来られた女性によって、書かれ
た本。

私はこの本を読んで、岡本太郎という人に恋を
したと言ってもいい。本当に無邪気で、純粋でま
っすぐで熱い。エネルギーの塊のような人。
でも、もちろん弱いデリケートな部分も持ってい
る。子供の心を持ってそのまま大人になった人。
読んでいる最中、気が付くといつのまにか自分
の顔がほころんでくるのが分かる。
なんて素敵な人だろう。亡くなってしまってから
知るなんて・・・。でも、それでも本当の岡本太郎
という人に、たとえ活字を通してでも触れさせて
もらえて、よかったと思う。
敏子さんに感謝したい気持ちでいっぱいだ。私
は彼の話をすると、なぜだか涙が出そうになる。
それくらい、私にとっては愛おしい人になってし
まった。

中でも、特に印象に残っている話をあげよう。
ー彼は子供の絵が好きだったそうで、忙しい仕
事の最中でもなんとかスケジュールをやりくりし
てでも、児童画の審査ならどこへでも出かけて
行ったそうだ。「オレが行かないと、うまそうな、
チャッカリした絵ばかりが賞を貰って、本物は落
とされちゃうからなあ」と言ってー。

誰にでも絵を描く衝動があって、それは生命そ
のものの躍動なのだから、「上手い」とか「下手」
ではないのだそうだ。

目から鱗が落ちた。やっぱりそうなんだと思っ
た。描きたいと思ったら描けばいいんだ。たと
え、下手でも。言い訳みたいだけど、絵手紙は
「下手でいい、下手がいい」という歌い文句で
照れ隠しをして,、私は描いている。ただ、描きた
いから。ただ、それだけ。
先日、水族館で子供の絵が貼ってあったので、
思わず足が止まった。何というきれいな色づか
い。自由な発想。発想という言葉も何だかちょっ
と違うような気がする。もっと、もっと底にあるま
ったく何の作意もない、そのもの。まさしくー生
命の衝動ーなのだと思った。

どんな人も、この本を読んだら、彼のことを愛さ
ずにはいられなくなるだろう。大好きな彼のファ
ンが増えると、私はうれしい。
はじめにこの本を手にとった時、この敏子さんて
いう人は太郎さんの奥様か娘さんなのか、どち
らかなのだろうと思った。太郎さんの晩年には養
女になられているが、この敏子さんの暖かな眼
差しに見守られて、太郎さんはしあわせだったと
思う。


                          (ま)

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