No.138

5−2−1=2

2004.1.24掲載

早太郎が死んでしまった。

11月からずっと、たぶん脱皮モードで、ガジュマルの根元のハイドロボールの中に
潜ったきりで、ガジュマルの木を傾かせて、丸々太っていた幹をしわしわにして。
それでもいいや、って思ってたのに。

実は、ワタシの初釜の日の11日、早太郎は一応無事で地上に姿を現してくれていた。

何故だか帯結びが上手く行かなくて、時間だけがどんどん迫ってきてて、四苦八苦し
て何とかかんとか無理やり仕上げていたら、茶の間にいたオットがその戸を開けたま
ま「あ!」って言ったっきり、うんともすんとも言わないで、戸を閉めた音も聴こえてこな
いからおかしいな・・・もしかしたら・・・って思って茶の間に行ってみたら、やっぱり、早
太郎が出てきていた。ただ、殻にも入らずハダカで。あらららら〜。

ワタシはほんとに時間がなかったので、口紅を塗りながら、これまでいろんなところで
見聞きしていた情報をぱきらに伝えて頼んだ。他のヤドたちからちょっかいを出されな
いように隔離することと、早太郎が入れそうな貝殻をありったけ入れてあげること。

すると、すぐにぱきらの声がした。「お、入ったぞ!」
早太郎は、貝を物色することもなく、すぐに貝殻に入ったらしかった。するするっと、サ
ザエの貝殻に。えっ、早太郎までサザエさん・・・。ちょっと窮屈そうだけどなぁ・・・。
3匹全員サザエさんか。でもまぁ貝殻に入ってくれたのなら、ひとまずは安心だった。
隔離の方は、ぱきらがお菓子の空き箱で仕切りを作ってくれた。簡易だけど、ないより
はいいだろう。

これで、しばらくここで誰にも邪魔されずにじっと養生して、そのうちまたもそもそと動き
出してくれるのだろう。そう思っていた。そうだといいなと思っていた。

だけど、それから1週間の命だった。

早太郎を隔離した明くる日から、早太郎の姿を確認して、他の2匹の所在確認を一日
に何度もするのが日課になった。他の2匹は薄めの厚紙を貝殻で押していくのか、い
つのまにか結構侵入しているからだった。「こらこらだめだめ〜!」とその度に隔離した。

だから、ぱきらが、早太郎をコーヒーカップの中のハイドロボールの上に移動させた。
そのときはまだ、早太郎の触覚は動き、普通に反応していた。ただ、そのハイドロボ
ールの上からは動こうとはしなかった。早太郎は、ぱきらがそうしてからずっとそこにい
たので、ごはんもそのハイドロボールの上に置いた。「早太郎、食べられ〜。」と富山
弁で声をかけた。

早太郎がそこから動かないのがずっと気になっていた。ワタシが近づいても反応も鈍い。
ぱきらが出張に行く前に早太郎を砂に下ろして行って欲しかったのだけど、そのまま行
ってしまった。だったら自分でそうしてあげればいいのに、もしも死んでたら・・・。もしも、
もう早太郎が死んでしまってて、カラダだけがぽろっと落ちたらどうしよう・・・。そう思うと
出来なかった。

後発隊として、ぱきらの研修が終わる日にワタシは京都に行くことになっていた。
一夜空けることになるので、気になるのは早太郎のこと。ワタシも現実から目を背けな
いでちゃんと向き合わなくては。今日こそは、と意を決して、早太郎に手を近づけてみ
る。だめだ・・・・。やっぱりもう死んでたんだ・・・。

っと、胸がきゅーんとなって沈み込んでいったとき、微かに、本当に微かに、ゆっくりと
触覚が動いた。まだ、生きてる。

ワタシは、最後の望みを託して、そっと貝殻ごと早太郎を砂の上に下ろした。
そして、いつも塩を入れているペットボトルのキャップにお水を入れて、発布スチロール
トレーを切り取った餌場に、新しい食パンとおつゆの煮干とワカメを入れて、早太郎の
傍に置いた。祈るような気持ちで。でも、帰ったら、早太郎はもう死んでるかもしれない。
そう覚悟して出かけた。

一泊の旅行を終え、家に帰って、すぐにヤド小屋を覗く。あれ?早太郎、動いた?
ワタシが下ろした所とは違う方向を向いている。軽い餌場もひっくり返っている。ごはん
食べたの?

でも、早太郎は動かなかった。次の日に見ても、足が昨日と同じ形で固まったまま動か
なかった。

じゃあ、なんで、早太郎の向きが変ってるの?

他の2匹の所在確認をしたらなぞは解けた。
2匹とも侵入してきていた。その侵入者が、もう息絶えて硬くなった早太郎を、単なる障
害物としてぶつかって、結果的に向きを変えてしまったのだろう。軽い餌場も同じ様に。

早太郎、ごめんね。ぱきらが一番初めに名前を付けたヤドカリだったのに。

隔離したことによって、水場がなかったからだろうか・・・。
それとも、ハイドロボールの上は冷たかったのだろうか・・・。
ああだったのだろうか、こうだったのだろうか・・・。いろいろ悔やまれてならない。

長い時間をかけてあの硬い殻を脱いで、脱皮から無事生還した姿を見ただけに残念だ
った。オカヤドカリの一生って難儀すぎる。



これでとうとう、サザエさんともんじろうの2匹だけになってしまった。さみしい。。。
みんなの分まで長生きしてね。




 

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