No.008
ささやかな楽しみ
2001.01.23

 

普段、とったの居場所は家の後ろ側にあるインナーガレージの中だ。南北に吹き抜けていて、たいそう風通しが良い。

そこにオットの入魂の作の犬小屋が置いてある。白い外壁に赤い屋根の木造平屋建てだ。

ちゃんとみずいろで『とった』と表札も付けてある。

ただ、扉が付いてないため、冬はあまりにも吹きっさらしで寒気でかわいそうなので、玄関の中に入れている。

玄関の中にわんこ用の・・・・あれは何ていう代物なのだろう?

・・・・とにかく、お船のような形の”巣”の中に、とぐろを巻いてカレはいる。

そして、ごくごくたまに、部屋の中に入れてもらえるのを、カレはそれはそれは楽しみにしている。

それは、まるぼー又はオット母の気まぐれによる。オットがカレを連れてくるのは、冷戦中のときだったりする。

そのとき、とったはあこがれの”座敷わんこ”になれる。そして、”座敷わらし”のようにはしゃぎまわる。

昨日もその日だった。とこっとこっとこっ・・・玄関を駆け上ってくる気配。また、オット母が綱を離したようだ。

とったは必ず階段の中程の踊り場に来ると、一度立ち止まって振り返るらしい。「行ってもいいの?」と。

オット母の許しを得て、カレは嬉々として残りの階段を駆け上ってきた。

「トッタ?来たの〜?」とまだ戸を開けずに声をかけると、なにやら訴えている。

部屋の戸を開けてあげると、飛び込んできた。もう、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーんである。

 

 

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