| 2025年11月のQ&A |
| 【Q】 |
| 昨今流行りのスポットワークを活用する企業側の留意点について教えて下 |
| さい。 |
| 【A】 |
| スポットワークやスキマバイトと呼ばれる短期・単発の雇用形態が広がり |
| を見せている。こうした雇用は、労働者にとって空き時間を活用して収入 |
| を得られる利点があり、企業にとっても繁忙期や人員不足の局面に柔軟に |
| 人材を確保できる点で有用である。たが一方で、短期・単発だからといっ |
| て法律上の扱いが軽くなるわけでなはない。通常の雇用契約と同様に労働 |
| 関係法令は適用され、使用者責任も免れない。 |
| 1.雇用契約の締結と使用者責任 |
| 短期・単発であっても雇用契約を結ぶ以上、労働契約法15条に基づき労働 |
| 条件を明示する義務がある。賃金、労働時間、業務内容、就業場所、契約 |
| 期間などを、書面または電子手段で提示しなければならず、1日だけの雇 |
| 用であっても例外はない。口頭の合意にとどめれば法違反となり得る。ま |
| た、業務中に労働者が第三者に損害を与えた場合、民法715条の使用者責任 |
| は企業に及ぶ。短期契約だから責任が軽減されることはなく、むしろ雇用 |
| 形態の特殊性ゆえに責任の所在が不明確になりやすいため、企業は一層の |
| 慎重な対応を求められる。 |
| 2.労働時間の管理と休日・残業 |
| 短期雇用労働者にも労働時間は当然に適用される。1日8時間、週40時間を |
| 超えれば割増賃金が必要であり、6時間を超え場合は45、8時間を超える場 |
| 合は1時間の休憩を与える義務がある。繁忙期に延長勤務を命じる場合は、 |
| 36協定の締結が前提となる。短時間労働者は複数の勤務を含めた通算管理 |
| は困難であるが、少なくとも自社における勤怠を客観的に記録し、基準を |
| 超えた労働を命じない体制が不可欠である。 |
| 3.賃金支払いと社会保険・労働保険 |
| 労基法24条は、「通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上・一定期 |
| 日払い」の原則を定めており、短期雇用にも適用される。日払いや週払い |
| は「毎月1回以上」の要件を満たすため違法ではないが、就業規則や契約 |
| 書に支払方法を明記しなければ紛争の原因となる。なお、近年は銀行振込 |
| だけでなく資金移動業者を利用した「デジタル払い」も解禁されているが、 |
| 本人同意と労使協定の締結が必須であり、強制は許されない。 |
| 社会保険(健康保険と厚生年金)については、(2025年10月現在)従業員 |
| 51人以上の事業所の場合、原則2ヶ月以内の有期契約者は適用除外だが、 |
| 更新が明示されている場合や実態として継続して働いている場合は、当初 |
| から加入義務が生じる。 |
| 労働保険については、雇用保険は週所定労働時間が20時間以上かつ31日以 |
| 上の雇用の見込みがある場合に適用される。短期勤務者は対象外となる場 |
| 合が多いが、契約更新の累積や当初から更新予定が示されている場合は、 |
| 31日以上の雇用と判断され適用対象となる。 |
| 労災保険は、雇用期間にかかわらず1日だけの雇用でも適用されるため、企 |
| 業は常に労災リスクを抱えていることを意識する必要がある。 |
| 4.安全配慮義務と教育訓練 |
| 労働契約法第5条の安全配慮義務は、短期雇用でも免れない。現場では即 |
| 戦力として投入されることが多く、十分な教育を行わないまま作業を任せ |
| る例も多くみられるが、労災事故が起これば企業責任は免れない。短時間 |
| で実施できる教育体制を整えることが重要であり、チェックリストや簡易 |
| マニュアル、動画教材などを活用して研修を標準化する工夫が望ましい。 |
| また、教育実施の記録を残すことも、後紛争になった場合の重要な防衛手 |
| 段になる。 |
| 5.均等待遇と差別禁止 |
| 短期雇用を理由として不合理な待遇差は認められない。パート・労働契約 |
| 法に基づき「同一労働同一賃金」が適用され、職務内容や責任が正社員と |
| 同じであれば、基本給や手当について合理的な説明が求められる。加えて、 |
| 年齢や性別、国籍を理由とする採用・就業上の差別は、当然禁止される。 |
| 短時間労働者が企業文化に馴染みにくく、情報管理や守秘義務が薄い場合 |
| もあるが、それを理由として不当な扱いは許されず、むしろ教育や制度面 |
| での補完が必要となる。 |
| 6.典型的トラブル事例と防止策 |
| 短期・単発雇用で頻発するトラブルは賃金をめぐる問題である。割増を考 |
| 慮せず「日給」として支払ったり、日払いを約束しておきながら翌月にま |
| とめて払う例がある。こうした事態を防ぐには、契約段階で賃金形態や支 |
| 払日、割増算定方法を明確に示し、勤怠と給与計算をシステム連動させて |
| 処理することが効果的である。 |
| 次に労働時間の記録不備も多い。紙や口頭での管理では残業代請求や是正 |
| 勧告につながりやすく、タイムカードやアプリを利用した客観的な管理が |
| 望ましい。 |
| また、社会保険の適用逃れも典型的な例である。短期契約を繰り返して実 |
| 態として長期雇用になっているにもかかわらず、加入を怠れば行政から指 |
| 導を受ける。定期的な雇用実態を点検し、社労士と協力して適用要否を確 |
| 認する体制が重要である。さらに、労災事故対応の遅れも深刻である。 |
| 単発アルバイトが負傷したにもかかわらず報告が遅れ、「労災隠し」とし |
| て指導を受けた事例がある。事故発生時には即時に報告できる体制を整え、 |
| 従業員に周知徹底することが不可欠である。 |
| 突発的な欠勤や無断退職も現場を悩ませる。前日夜に欠勤の連絡を受けた |
| り、当日出勤しないケースも珍しくない。契約に連絡方法を明記するとと |
| もに、登録制で代替要員を確保することが有効である。ただし、ペナルテ |
| ィを設ける際には過度な制約にならないよう注意が必要である。 |
| 最後に、情報漏えいやコンプライス違反のリスクも無視できない。短期雇 |
| 用者が顧客情報をSNSに投稿した事例もあり、契約時に守秘義務条項を |
| 盛り込むことは必須である。加えて、取り扱う情報を最小限にとどめ、簡 |
| 単な研修を通じて基本的なルールを共有することがリスク回避につながる。 |
| 補足資料 松山労働基準監督署説明(2025年10月10日) |
| 労働保険 労災 休業補償の給付基礎日額の計算 |
| 休業補償の給付基礎日額は、労災事故発生前の3か月の平均賃金を算出し |
| ますが、スポットのワーカーは日払いや単発のため、平均賃金の計算が難 |
| しい。 |
| 【ポイント】 |
| ※平均賃金の算定の場合:労働基準監督署に相談してほしい。 |
| ※平均賃金の算定に、日雇い労働者の算出方法を使う。 |
| 平均賃金の算定事由発生日以前1ヵ月間の賃金総額を労働日数で除した金 |
| 額の100分の73を平均賃金とします。 |
| また、実績がない場合は、同一事業場での同一業務: 平均賃金の算定事由 |
| 発生日以前1ヵ月間に同一事業場で同一業務に従事した日雇労働者を対象 |
| として、同様に計算した額を用います。 |
| 丸1日の休業または、仕事の早上がりをさせる |
| 労働契約成立後に事業主の都合で、丸1日の休業または仕事の早上がりを |
| させることになった場合は、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき |
| 休業」となるので、スポットワーカーに対し、所定支払日までに休業手当 |
| を支払う必要があります。 |
| 【ポイント】 |
| ※休業手当の代わりに、その日に約束した賃金を全額支払ことで差し支え |
| ありません。 |
| ※休業手当を支払う場合であっても、事業主自身の故意、過失等により労 |
| 働者を休業させることになった場合は、賃金を全額(休業手当を既に支払 |
| っている場合は該当手当を控除した額)を支払う必要があります。 |
| ※休業手当を支払う場合に、平均賃金の算定をする場合、労働基準監督署 |
| に相談してほしい。 |
| ※平均賃金の算定に、日雇い労働者の算出方法を使う |
| (上記休業補償を参照) |
| まとめ |
| 雇用契約の適正化、労働時間と賃金の厳格な管理、社会保険・労働保険の |
| 未加入、労災事故対応の遅延、欠勤・退職トラブル、情報漏えいといった |
| トラブルは、事前に仕組みを整えれば十分に防止できる。また、契約、勤 |
| 怠、保険、教育、安全の各分野でチェックリストを活用することが大切で |
| ある。 |
| ※次月、厚生労働省が法的留意事項を周知(リーフレット公表等) |
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