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2022年11月のQ&A
【Q】
退職金についての注意点等教えてください。


【A】
退職金は、法令上で義務付けられている制度ではありません。そのため退職金制
度を設けるか否か、さらにその内容については会社の判断に委ねられています。
一方で社員からすると、退職後の生活を考えたときに退職金の存在が非常に重要
なものになります。そのため、退職金規程の定めが不十分で解釈や運用に疑義が
あれば、退職金について争いが生じてしまいます。そうならないためにも、社員
にとって分かりやすい、または会社にとっても判断に迷わず運用できるような規
程が求められるものです。
そこで労基法では、退職金の定めをする場合においては、「適用される労働者の
範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の決定、計算及び
支払いの方法並びに退職手当の支払い時期に関する事項」を就業規則に定め、届
出なければならないと規定されています。(労基法第89条3号の2)。就業規則
を定める場合には、「退職金に関しては、別に定める」と規定をしたうえで、詳
細について別途「対処金規程」を設ける方法が一般的です。

判例【小田急電鉄事件 東京高裁 平成15年12月1日】
鉄道会社であるY(被告・被控訴人)では、痴漢撲滅に取組んでいたところ、Yの
従業員である(原告・控訴人)Xは、休日に他社の鉄道の車内において、女子高
生のお尻を触る痴漢行為(迷惑防止条例違反)で逮捕された。身元引き受けのた
め、Yの社員が警察署でXに面会し、事情を聞いたところ、以前にも数回、同様の
事件で逮捕されていたことがわかり、その場で、Xは、「痴漢行為の事実を認め、
会社の処分に従う」旨の自認書にサインをした。その後、Yは、痴漢撲滅キャン
ペーンに取り組んでいた鉄道会社の職員としてあるまじき行為であることを理由
にXを懲戒解雇し、就業規則の規定(「懲戒解雇により退職するもの、または在
職中懲戒解雇に該当する行為があって、処分決定以前に退職するものには、原則
として、退職金は支給しない。」)に基づき、退職金(勤続約20年のXには約92
0万円の支給が予定されていた)を不支給とした。一審(東京地裁)は懲戒解雇お
よび退職金の不支給について、いずれも有効と判断したため、Xは控訴した。
判決の内容 労働者側勝訴(所定の退職金の3割分について請求認容)
本件懲戒解雇は有効であるが、このような賃金の後払い的要素の強い退職金につ
いて、その退職金全額を不支給とするには、それが当該労働者の永年の勤続の功
を抹消してしまうほどの重大な不信行為があることが必要である。ことに、それ
が、業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外
の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視し
えないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するよ
うな強度な背信性を有することが必要であると解される。このような事情がない
にもかかわらず、会社と直接関係のない非違行為を理由に、退職金の全額を不支
給とすることは、経済的にみて過酷な処分というべきであり、不利益処分一般に
要求される比例原則にも反すると考えられる。
そして、本件行為が、(業務上横領などに比べて)相当強度な背信性を持つ行為
であるとまではいえないと考えられるから、Yは、本件条項に基づき、その退職金
の全額について、支給を拒むことはできないというべきである。他方、上記のよ
うに、本件行為が職務外の行為であるとはいえ、会社及び従業員を挙げて痴漢撲
滅に取り組んでいるYにとって、相当の不信行為であることは否定できないから、
本件がその全額を支給すべき事案であるとは認め難い。そうすると、本件につい
ては、本来支給されるべき退職金のうち、一定割合での支給が認められるべきで
あり、その具体的割合については、本件行為の性格、内容や、本件懲戒解雇に至
った経緯、また、Xの過去の勤務態度等の諸事情に加え、とりわけ、過去のYにお
ける割合的な支給事例等をも考慮すれば、本来の退職金の支給額の3割である約2
80万円であるとするのが相当である。

2.懲戒解雇相当の背信行為
退職後同業他社に就職した場合や懲戒解雇に処せられた場合に、退職金の減額や
不支給とする取扱いをすることが多く、そのような就業規則の規定の合理性は、
一般的に認められるが、退職金の賃金後払い的性格や退職後の職業選択の自由と
の関係で問題を生じます。判例でも、懲戒解雇に相当するような在職中の背信行
為を不支給条項として定めている場合、懲戒解雇が有効なときは退職金請求権を
否定する裁判例は少なくありません(プリマハム事件など)。また、功労報償的
性格から、在職中に懲戒解雇に匹敵する重大な背信行為を行った者の退職金請求
が権利の濫用にあたるとしたもの(アイビ・プロテック事件)、退職年金受給者
に勤続中の功績を無にするほどの不祥事(覚醒剤取締法違反逮捕)があった場合
に、年金支給の停止が認められるとしたもの(朝日新聞社(会社年金)事件)が
あります。これに対して、懲戒解雇の場合に退職金を不支給とする規定があって
も、実際には、これを限定的に解釈し、「永年の勤続の功労を抹消させてしまう
ほどの背信行為がない限り、退職金の不支給は許されない」として、退職金の支
払いを認めたものがある(日本高圧瓦斯工業事件)。したがって、懲戒解雇の場
合であっても、直ちに退職金の不支給が許されるわけではなく、具体的事情を考
慮して、退職金の支給が認められる場合があります。

3.割合的支給を認める判例
さらに、懲戒解雇に伴う不支給のケースでも、非違行為の性格・内容、懲戒解雇
に至った経緯、労働者の過去の勤務態度等の個別的な諸事情を考慮して、退職金
のうち一定割合の支払いが認められる場合があります。上記裁判例では、賃金後
払い的性格を強調し、重大な不信行為がない限り不支給は認められないとしたう
えで、会社と直接関係のない非違行為を理由に、全額不支給とするのは、不利益
処分一般に要求される「比例原則」に反すること、過去に、懲戒解雇の場合であ
っても、減額された退職金を支給した例があったことなどから、3割分の支払い
を認めています。同様に、強制わいせつ致傷罪で有罪判決を受けて退職したケー
ス(NTT東日本(退職金請求)事件 )や酒気帯び運転・不申告罪で罰金刑を受
けて懲戒解雇されたケース(日本郵便株式会社事件)で、いずれも約3割相当額
の支払いが認められています。

4.退職金の不利益変更
就業規則としての退職金規程を不利益に変更する場合(労契法10条)、「高度の
必要性」に基づいた変更の合理性が要求されます(大曲市農協事件)。そして、
退職を控えた一部の労働者に対して、具体的な不利益が及ぶため、不利益の程度
やそれを緩和する代償措置の存否・内容が、変更の合理性判断において重視され、
経過措置・代償措置が不十分であることなどから、不利益変更の合理性を否定し
たみちのく銀行事件があります。
また、個別の同意(労契法8条)や就業規則の変更に対する同意(同法9条)を通
じて、賃金や退職金を変更する場合、変更を承諾する旨の労働者の行為があって
も、変更による不利益の内容及び程度、労働者の承諾行為に至った経緯及びその
態様、労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、承諾行為が労働者の自
由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在し
なければなりません(山梨県民信用組合事件)。

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