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2022年2月のQ&A
【Q】
労働者との合意による労働条件の変更についてのトラブル事例、ポイント等教え
てください。


【A】
労働条件変更のための代表的な手段としては、就業規則の変更や労働協約の新規
締結・改訂があり、それぞれ裁判例の積み重ねによって労働条件変更の有効性を
判断する枠組みが形成されています。また、新たな労働条件変更の手段として、
変更解約告知が注目されつつあります。しかし、労働条件の変更とは、法的にい
えば労働契約という契約の内容の変更であるので、契約内容は当事者間の合意に
よって決定・変更されるという契約法の原則からすれば、労働者と使用者の合意
が労働条件変更のもっとも基本的な手段ということになります。
労働条件を変更する合意が成立した場合、変更の適法性は基本的に肯定されます。
また、労働者が労働条件を引き下げる就業規則の変更に同意したといえる場合に
は、当該変更が労働契約法10条のいう合理性を有するか否かにかかわらず、当事
者間の合意に基づいて労働条件が変更されます。一方、労働条件変更の合意が成
立しない場合には、後述する場合(3)の「合意によらない労働条件の変更」に
該当しない限り、前述の契約法の原則により、労働条件変更は不適法・無効とな
ります。たとえ労働条件変更を必要とする合理的な理由が存在するとしても、こ
のことに変わりはありません。

【用語説明】 変更解約告知
会社が労働条件変更を目的として、現在の労働契約の解約(解雇)と、新契約の
申込を行うことを変更解約告知という。

判例【山梨県民信用組合事件 最高裁 平成28年2月19日】
A信用組合は経営破綻を避けるためにY信用組合に吸収合併されることになり、両
組合の理事が構成する合併協議会は、A組合の退職金規程(就業規則)を変更し
て支給基準を大幅に引き下げることを決定した。XらAの管理職員は、当該変更は
合併を実現するために必要である等との説明を受け、変更内容と新規程による支
給基準の概要を記載した同意書に署名押印した。なお、これに先立って開催され
た職員説明会では、Yの従前からの職員と同一水準の退職金額を保障する旨が記
載された同意書案が各職員に配布されていた。
上記合併により、A組合は解散してXらの雇用はY組合に承継され、新退職金規程
が施行された。その後、XらはY組合を退職したが、変更後の支給基準によると退
職金額はゼロ円となった。Xらは、A組合の旧退職金規程に基づく退職金の支払い
を求めて提訴した。
判決の内容 労働者側勝訴
労働契約の内容である労働条件は、労働者と使用者との個別の合意によって変更
することができ、このことは、就業規則に定められている労働条件を労働者の不
利益に変更する場合であっても、就業規則の変更が必要とされることを除き、異
なるものではない。
もっとも、労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変
更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、直ちに労働者の同意があった
ものとみるのは相当でない。このような場合における労働者の同意の有無は、当
該変更がもたらす不利益の内容及び程度、労働者が変更を受け入れた経緯及びそ
の態様、労働者への事前の情報提供や説明の内容等に照らして、労働者が自由な
意思に基づいて当該変更を受け入れたものと認めるに足りる合理的な理由が客観
的に存在するか否かという観点からも、慎重に判断すべきである。Xらが本件基
準変更への同意をするか否かについて自ら検討し判断するために必要十分な情報
を与えられていたというためには、自己都合退職の場合には退職金額が0円とな
る可能性が高くなることや、Yの従前からの職員に係る支給基準との関係でも同
意書案の記載と異なり著しく均衡を欠く結果となることなど、本件基準変更によ
り生ずる具体的な不利益の内容や程度について、情報提供や説明がされる必要が
あった。

2.労働者の同意の有無
実際上問題になることが多いのは、どのような場合に、労働条件の不利益変更に
対する労働者の同意を認定できるかです。この点に関し、多くの判例は、労働者
が使用者に対して弱い立場に置かれやすいこと等を考慮し、労働者が変更内容を
十分に理解したうえで自由な意思に基づいて同意したといえるかという観点から、
合意の認定を慎重かつ厳格に行っています。使用者が賃金などの労働条件を引き
下げたことに対して、労働者が特段の異議を述べずに就労を続けていた場合にも、
そのことから直ちに黙示の合意の成立は認められません。また、労働者が変更に
同意する旨の書面に署名押印している場合であっても、合意の成立が認められる
とは限らません。上記判例は、退職金支給額を大幅に引き下げる就業規則変更に
つき、労働者が同意書に署名押印していたとしても、変更後の制度では退職金が
ゼロとなる可能性が高いなど具体的な不利益内容の説明がなされていない以上、
直ちに合意があったとはいえないと判断しています。

3.合意によらない労働条件の変更
就業規則や労働協約※による労働条件変更については、それぞれ一定の要件の下
で、労働者の同意を得ることなく労働条件変更を行うことが認められています。
また、使用者が労働条件を変更する権限を有することが労働契約に定められてい
る場合には、その定めに基づいて使用者が労働者の同意を得ずに行う労働条件の
変更は、権利濫用等に該当しない限り許容されます。たとえば、成果主義的な人
事・賃金体系の下で低査定の労働者に対して資格の引き下げや賃金減額を行うも
のとする就業規則など労働契約上の定めが存在する場合、この定めに基づく資格
や賃金の引き下げは、合理的な根拠・手続に基づくものと認められる限り適法で
す。
【※解説】
■労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、既存の労働条件
を不利益に変更することは、原則的にできないが、ただし、使用者が、不利益に
変更した就業規則を、変更後に労働者に周知し、かつ、その就業規則の変更が「
合理的」と認められる場合には、当該就業規則の内容が個々の労働条件となり、
これに反対する労働者の労働条件も、変更後の内容となる。
■労働協約による労働条件の不利益変更は、特定の労働者または一部の組合員を
殊更に不利益に取り扱うことなどを目的とするなど、労働組合の目的を逸脱して
締結されたものと認められない限り、有効である。

4.ポイント
@使用者が労働条件変更を行おうとする場合、労働者が当該変更に同意していれ
ば、労働条件は両者の合意に基づいて適法に変更されます。ただし、当該合意は、
労基法などの強行法規に違反したり、就業規則・労働協約の定めよりも労働者に
不利な労働条件を定めたりするものであってはなりません。

A労働者が労働条件変更について明示的な同意の意思表示をしていない場合であ
っても、その言動などからみて黙示的に変更に同意していると認められる可能性
があります。しかし、判例は、このような黙示の同意の認定を厳格かつ慎重に行
う姿勢を示しています。

B労働者−使用者間の合意によらない労働条件変更が許容される場合としては、
就業規則又は労働協約によって労働条件を変更する場合と、使用者が労働条件を
変更する権限を有することが労働契約に定められている場合があり、それぞれ、
一定の要件の下で労働条件変更の効力が認められてます。

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