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2021年10月のQ&A
【Q】
退職取下げ等に関するトラブル(判例等)を教えてください。


【A】
労働者が会社との合意により退職する合意解約は、通常、労働者の会社を辞める
という意思表明と、権限ある者の承諾により成立します。しかし例えば、職員の
常務理事就任(大阪工大摂南大学事件)、出向先の経営権が譲渡されるのを知り
つつ出向元に復帰せず出向先で就労したこと(アイ・ビイ・アイ事件)、元の会
社の経営者が派遣会社を設立し、今後はその派遣会社と雇用契約を結んで働くの
を合意したこと(日建設計事件)でも合意解約の成立が認められます。
反対に、配転を拒否するなら退職するしかない旨の会社側職制の発言に対する「
グッド・アイデアだ」との返答は退職の合意ではありません(株式会社朋栄事件)。
また、退職を前提に転職活動をしつつ業務の引き継ぎをしていても、退職に係る
正式な書面が交わされていないなどの状況では、退職の合意は成立しているとは
いえません(フリービット事件)。

判例【大隈鐵工所事件 最高裁 昭和62年9月18日】 
第一審原告の労働者Xは、同期入社のAと共に、鉄工業を営む被告Y社内で民青活動
(共産党関連活動)を行っていた。Xは、Aが失踪したため、上司BらからAの失踪
について事情聴取された。BらはAの部屋から発見した民青関連資料をもとに、Xに
対してAの失踪について知らないか問いただしたところ、XはAの失踪と関係ないと
述べ自ら退職を申し出た。人事管理の最高責任者である人事部長Cは退職する必要
はないと引き留めたが、Xが聞き入れなかったため退職届をXに渡した。するとXは、
その場で退職届に記入・署名・捺印したうえ、Cに提出した。しかし、提出の翌日、
Xは退職届を撤回すると人事課長Dに申し出たが拒否された。そこでXは、退職届の
提出は違法な解雇に当たるか、無効な退職合意であるなどと主張して、従業員とし
ての地位があることの確認を求めて訴えを起こした。一審では退職の意思の表明を
無効としたが、二審は労働者の撤回により退職の意思の表明は法的効力を失ったと
してXの請求を認めた。それでYが上告したのがこの事件である。
判決の内容 労働者側敗訴
CがXの退職届を受理したことで即時に会社が退職を承諾したことになり、退職は
有効である。労働者の退職届に対する承認について、入社に際して行われる筆記試
験や役員面接試験とは異なり、採用後の労働者の能力・人物・実績などについて掌
握しうる立場にある人事部長に退職の承認についての判断をさせ、単独でこれを決
定する権限を与えることは何ら不合理ではない。人事部長に退職届に対する承認の
決定権限があるならば、人事部長が労働者の退職届を受理したことで、労働契約の
解約(退職)申込みに対する会社の即時の承認の意思が示されたというべきである
。そして、これによって、労働契約の解約の合意が成立した。

2.退職届の取下げ
退職意思の撤回はどの時点・職制段階までなら許されるか。一般的には、退職を
承認する権限のある者が承諾するまでなら退職意思を撤回できます(上記判例等、
理事長:学校法人白頭学院事件、工場長:ネスレ日本(合意退職)事件、理事長:
学校法人大谷学園(中学校教諭・懲戒解雇)事件)。特別優遇制度による合意解
約は、募集受付方法欄記載の合意書が作成されるまでは成立せず、労働者の応募
の撤回が認められます(ピー・アンド・ジー明石工場事件)。なお、一旦提出し
た退職届を撤回することは、相手方に不測の損害を与える場合、信義則(民法1条
2項)に反し許されません(佐土原町土地改良区事件)。
【用語説明】
民法1条2項 信義則
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3.虚偽・誤解・脅しによる退職意思の表明
労働者が会社を辞めるとの意思表明は、真意でなければならなりません。法律的
には、民法における心裡留保、錯誤、強迫の問題として扱われます。
心裡留保とは、例えば、会社を辞める意思がないのに労働者が退職届を提出した
りするなどの場合で、会社側が、労働者は実は会社を辞める意思がないことを知
っている場合です(昭和女子大学事件)。このような意思表明は無効です(民法
93条ただし書)。錯誤とは、例えば、退職届の提出は自分が解雇されると誤って
思い込みこれを避けるためだったが、実は解雇の可能性はなかった場合です(昭
和電線電纜事件など)。この意思表示は無効となります(民法95条)。体調不良
が私傷病によるものであると誤信して退職願を提出した助手(有期雇用契約で採
用)による地位確認等請求に関して、実際には同助手の勤務場所に存在していた
揮発性有機化合物等の化学物質により化学物質過敏状態が発症し、それに伴い自
律神経機能障害等が生じたと推認でき、体調不良を起こしていたことから、同助
手の退職の意思表示には要素の錯誤があり、その意思表示は無効であると判断さ
れた(慶應義塾(シックハウス)事件;ただし、雇用契約期間の終了のため同助
手の地位確認請求は棄却されている)。
強迫とは、例えば、懲戒処分や不利益取扱いをほのめかして退職を申し込ませる
場合です(ニシムラ事件)。このような意思表明は取り消せます(民法96条)。
なお、懲戒解雇該当行為に関しては、該当行為がない場合は強迫として取消しが
認められるが(上記ニシムラ事件)、該当行為がある場合に懲戒解雇の可能性が
あることを述べても強迫ではありません(ソニー(早期割増退職金)事件)。
【用語説明】
民法93条 (心裡留保)
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、その
ためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意
でないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することがで
きない。
民法95条(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意
者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができ
ない。
民法96条(詐欺又は強迫)
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相
手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り
消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない
第三者に対抗することができない。

4.退職予告期間延長と退職許可
会社が民法627条の定める2週間を超えて予告期間を延長することは、労基法の諸
規定(例えば5条)に反し、また、退職の許可制も、労働者の退職の自由を制限す
るので法的効力を持ちません(高野メリヤス事件)。
【用語説明】
民法627条(退職の自由)
労働者には「退職の自由」がある。そのため、退職を希望する労働者は自由に退
職することができ、退職の意思表示から2週間が経過すると雇用関係が終了する。
労働基準法第5条
使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段に
よって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

5.退職による損害賠償責任
退職は相手方に対する損害賠償責任を生じさせることがあります。例えば、労働
者の突然の退職(入社後4日)により被った損害(ケイズインターナショナル事件
:賠償額70万円)、会社の労働者負担分の社会保険料の立替金(すずらん介護サ
ービス(森田ケアーズ)事件:賠償額31万円)などがこれに当たります。
逆に労働者については、会社の退職に係る諸手続遅延により生じた、転職先で支
払われるはずの給与と実際の給与との差額分(東京ゼネラル事件)、会社都合退
職とすべきところを自己都合と処理したことによる、退職金などに係る会社都合
と自己都合との差額分(ゴムノイナキ(損害賠償等)事件)が、賠償すべき損害
とされています。

6.ポイント
@退職の意思の表明は、権限ある役職者が承諾するまでなら撤回できます。

A退職は、当事者の意思から合理的に推測される場合や客観的状況などから、法
的に有効なものであるか否かが判断されます。

B退職の意思の表明が本心ではない(心裡留保)か勘違い(錯誤)に当たる場合
は無効であり、脅し(強迫)に当たる場合は取り消せます。

C退職の予告期間を民法627条の定める2週間を超えて延長することや、退職を会
社の許可制とすることは、違法・無効です。

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