松山市余戸西3丁目12-25
電話受付:089-989-0178
平日       9:00〜17:30
HOME>>質問広場>>2021>>9月

2021年9月のQ&A
【Q】
賃金支払いについての判例等教えてください。


【A】
労基法上の「賃金」とは、「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべての
もの」(11条)であり、一般に、就業規則等において、支給条件が明確に規定さ
れて、使用者がその支給を約束しているときには、その支給金は「労働の対償」
であり、賃金と理解されています。したがって、基本給や所定外賃金だけでなく、
例えば、家族手当や退職金・一時金も、上記要件を満たす限り賃金と解されます。
これに対して、明確な支給条件が規定されてない、慶弔金などの任意的・恩恵的
な性格をもつものは賃金ではなく、法的な性格は、贈与(民法549条)に当たる
と解されます。
用語解説
民法549条 贈与(平成29年改正)
贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手
方が受諾することによって、その効力を生じる。

【判例 日新製鋼事件 最高裁 平成2年11月26日】
Z(参加人・被上告人)は、Y(被告・控訴人・被上告人)に在職中、同社の住宅
財形融資規程に則り、元利均等分割償還、退職した場合には残金一括償還の約定
で、同社から87万円を、A銀行から263万円をそれぞれ借り入れた。各借入金のう
ち、Yへの返済については、住宅財形融資規程およびYとZとの間の住宅資金貸付
に関する契約証書の定めに基づき、YがZの毎月の給与及び年2回の賞与から所定
の元利均等分割返済額を天引きするという方法で処理することとされ、Zが退職
するときには、退職金その他より融資残金の全額を直ちに返済する旨約されてい
た。Zは、交際費等の出費に充てるため借財を重ね、破産申立てをする他ない状
態になったことから、Yを退職することを決意し、Yに対して、退職の申し出とと
もに、上記各借入金の残債務について、退職金等による返済手続を依頼した。Y
は、Zの退職金と給与から各借入金を控除し、Zの口座に振り込んだ後、Yの担当
者が、Zに対して、事務処理上の必要から領収書等に署名捺印を求めたが、Zはこ
れに異議なく応じた。その後、Zの申立により、裁判所は破産宣告をし、X(原告
・被控訴人・被上告人)を破産管財人に選任したところ、Xは、YがZの退職金に
つき、以上のような措置をとったことは、労基法24条に違反する相殺措置である
として、Yに対して退職金の支払いを請求した。
判決の内容 労働者側敗訴
労基法24条1項所定の「賃金全額払の原則」の趣旨とするところは、使用者が一
方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領さ
せ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするも
のというべきであるから、使用者が労働者に対して有する債権をもって労働者の
賃金債権と相殺することを禁止する趣旨をも包含するものであるが、労働者がそ
の自由な意思に基づき右相殺に同意した場合においては、右同意が労働者の自由
な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存
在するときは、右同意を得てした相殺は右規定に違反するものとはいえないもの
と解するのが相当である。もっとも、右全額払の原則の趣旨にかんがみると、右
同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に
行われなければならないことはいうまでもないところである。
本件事実関係によれば、Zは、Yの担当者に対し右各借入金の残債務を退職金等で
返済する手続きをとってくれるように自発的に依頼しており、本件委任状の作成、
提出の過程においても強要にわたるような事情は全くうかがえず、各清算処理手
続きが終了した後においてもYの担当者の求めに応じ、退職金計算書、給与等の
領収書に異議なく署名押印をしているのであり、また、Zにおいても、右各借入
金の性質及び退職するときには退職金等によりその残債務を一括返済する旨の前
記各約定を十分認識していたことがうかがえるのであって、本件相殺におけるZ
の同意は、同人の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理
的な理由が客観的に存在していたものというべきである。
【用語解説】
労働基準法第24条1項 賃金全額払いの原則
賃金は、通貨で、直接労働者に、その残額を支払わなければならない。
例外
@法令に別段の定めがある場合
A労働協約に別段の定めがある場合(通勤定期券、住宅供与などの利益)

2.通貨払いの原則
賃金は通貨で支払わなければなりません。現物支給による弊害を防止し、労働者
にとって最も安全で便利な支払方法を命じたものであり、外国通貨や小切手によ
る賃金の支払いは許されません。また、労働協約で別段の定めをするときには通
貨以外のもので支払うことが認められます。なお、会社が従業員に支給する自社
株式について、労働契約において賞与として支給することを確約した場合には具
体的な請求権として「労働の対償」と解することができますが、通貨払いの原則
に反するとする裁判例があります(ジャード事件)。

3.直接払いの原則
賃金は、労働者に直接支払わなければならない。使用者が労働者の親権者その他
の法定代理人等に支払うことは本条違反になります(未成年者については、労基
法59条)。賃金債権は、社会保険の受給権と異なり、譲渡が許されないわけでは
ないですが、労働者が賃金の支払いを受ける前に債権を他に譲渡した場合でも、
使用者は直接労働者に対して賃金を支払わなければならず、譲受人が使用者に支
払いを求めることは許されません。
【用語説明】
労働基準法第59条 
未成年者は、独立して賃金を請求することができる。親権者又は後見人は、未成
年者の賃金を代わって受け取ってはならない。

4.全額払いの原則
使用者は当該計算期間の労働に対して約束した賃金の全額を支払わなければなら
ず、賃金からの控除は原則として許されません。例外として、法令により別段の
定めがある場合(給与等の源泉徴収、社会保険料の控除など)や事業場協定を締
結した場合(社宅や寮などの費用、労働組合費のチェック・オフなど)には賃金
の一部を控除して支払うことができます。全額払い原則の趣旨は、使用者が一方
的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、
労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図ろうとするところ
にあります。そして、判例によれば、この原則は、相殺禁止の趣旨も含んでおり、
労働者の債務不履行(職務の懈怠)を理由とする損害賠償債権との相殺(関西精
機事件)や労働者の不法行為(背任)を理由とする損害賠償債権との相殺の場合
であっても(日本勧業経済会事件)、使用者による一方的な相殺は全額払い原則
に違反します。
ただし、上記判例のように、使用者が労働者に対して有する債権と労働者の賃金
債権とを相殺することについて、労働者が自由な意思に基づいて同意した場合、
この同意に基づく相殺は全額払い原則に反するものではありません。これは、賃
金債権の放棄に関する合意についても同様です(シンガー・ソーイング・メシー
ン・カムパニー事件 )。もちろん、このような同意が労働者の自由な意思に基
づくものであるとの認定判断は、厳格かつ慎重に行われなければならない。例え
ば、署名のある念書や清算手続の書類などにより証明できる場合であり、黙示的
な同意は、容易には認められません。また、同様の考え方は、賃金減額の合意の
場合にも適用され、判例は、賃金減額に対する黙示の同意の成立には慎重です。
(更生会社三井埠頭事件)また、過払賃金を後に支払われる賃金から差し引く
「調整的相殺」については、過払いのあった時期と合理的に接着した時期におい
て賃金の清算調整が行われ、労働者の経済生活の安定を脅かさない場合(予告が
ある場合や少額である場合)に認められます(福島県教組事件)。
なお、ストック・オプションの付与は労基法上の賃金にはあたらないので、就業
規則等で定められた賃金の一部として扱うことはできないとされています(平9.
6.1基発412号)。したがって、給与の一部をストック・オプションの付与をもっ
て充てる措置はその分だけ賃金を支給していないことになり、本条違反となりま
す。

5.毎月1回以上・定期払いの原則
賃金は、毎月1回以上、特定した日に支払わなければなりません。年俸制の場合
でも毎月定期払いをする必要があります。ただし、賞与や1ヵ月を超える期間に
ついての手当等はその期間で支払うことができます。

6.ポイント
@賃金の支払方法については、労基法24条の定める通貨払い、直接払い、全額払
い、毎月1回以上・定期払いの原則が適用されます。

A労働者の賃金債権の放棄や合意による相殺は、労働者の自由な意思に基づくも
のであると認められる合理的な理由が客観的に存在していたといえる場合には許
されます。

お問い合わせ
(住所)
〒790-0046 
松山市余戸西3−12−25
友澤社会保険労務士事務所
(電話/FAX)
089-989-0178
(営業時間)
平日:9:00〜17:30
休日:土曜日・日曜日・祭日
『メール』でのお問い合わせは、ここをクリックしてください!
リンクサイト
愛媛県社会保険労務士会

プライバシーポリシー リンク・著作権 Copyright(c) 2013, All Rights Reserved.tomozawa-sr office