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2021年8月のQ&A
【Q】
従業員間での職場での暴行行為における会社責任等について教えてください。


【A】
従業員間の暴行に関しては、暴行行為の存在が認められればこれを行った労働者
の責任が問われることになるが、下記判例のように、労働者の行為が会社の事業
の執行行為を契機として、これと密接に関連を有するものと判断され、会社に使
用者責任としての損害賠償責任が課される場合があります。
下記判例と同様に使用者責任が認められた事件として、大阪市シルバー人材セン
ター事件があります。この事件は、労働者が上司に拳で右眼付近を殴打され失明
し、もともと左目を失明していたため、両眼失明に至った事例ですが、上司の行
為がセンターの事業の執行につきなされたと認定され、センターに使用者責任が
認められています。慰謝料の算定については労働者の被った損害の3割分が過失
相殺されたうえ、損害額として505万円及び弁護士費用50万円の支払いがセンタ
ーに命じられています。
これに対し、使用者責任が認められなかった事例として、ネッスル(専従者復帰
)事件があります。この事件において裁判所は、二つの労働組合が対立・抗争し、
一方の組合員が他方の多数の組合員に取り囲まれ、罵声を浴びせられ、暴行を受
けたとの主張に対し、偶発的な行為であったというべきであり、会社はその賠償
をする責任を負ういわれはないものと述べ、労働者の主張を棄却しています。
また、特殊な事例として、派遣労働者に対する暴行事件に関して、ヨドバシカメ
ラほか事件では、派遣元従業員による派遣労働者への暴行について、事件に直接
関与した個人およびこれらの者を直接雇用している各使用者にそれぞれ連帯して
損賠賠償の支払いが命じられました(暴行の程度により20万から100万余円)。
なお、派遣先企業の責任は否定されています。
【用語解説】使用者責任(民法715条)
ある事業のため他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に
加えた損害を賠償する責任を負う。
【用語解説】過失相殺
債務不履行や不法行為があった場合、債権者や被害者の方にも過失があるときは、
裁判所がその事情を斟酌(しんしゃく)して、損害賠償責任の有無や賠償金額を定
めること。

判例【エール・フランス事件 東京高裁 平成8年3月27日】
一審原告側労働者X(被控訴人)は、フランスに本社を置く航空会社である一審
被告側使用者Y1(被控訴人)の従業員である。Y2はY1代表者、Y3らはY1の労働
組合役員らでありXの同僚である。Y1では、労働組合との本社再建に関する労使
協議の結果、希望退職の募集が行われることになった。このY1の希望退職募集に
際し、Xは、Y3から希望退職届の提出を強く求められたが、これに応じなかった。
Y3らは、希望退職に応じようとしないXに対し、顔面への殴打、大腿部への足蹴
り、鉄製ファイル棚に後頭部を打ち付けるなどの暴行のほかにも、ゴミ入れを頭
に被せる、衣服にコーヒーをかける、Xの机の上にXを中傷する落書をする、机に
コーヒーで湿らした新聞紙を入れる、灰皿の灰を投げつける、罵声を浴びせる等
の行為を繰り返し、また、このほかにも仕事差別を行った。
そこで、Xは、このようなY3の行為に対し、Y1〜Y3に連帯して慰謝料の支払い
を求めた。
判決 労働者側勝訴
暴力行為等につき、Y1・Y3に連帯して慰謝料200万円および弁護士費用30万円の
支払いを命じ、仕事差別につき、Y1・Y2に連帯して慰謝料100万円の支払いを命
じた。Y3らは、暴力行為に関し、連帯して賠償責任を負うべきである。また、Y3
らによる暴力行為および仕事差別は、Y1の事業の執行につき従業員同士の間で行
われたものであり、Y1はXに対して使用者責任を負うべきである。さらに、Y2は、
少なくとも仕事差別を知り得たのであり、それにもかかわらず何らの対処もしな
かったものであるから、損害賠償責任を負うべきである。
しかし、Xは、協調性に乏しく、他の従業員から遊離した存在になっていたことな
どの事情があり、このようなXの態度が、控訴人らの暴力行為等を誘発する一因と
なったものと推認することができ、また、Xの受けた暴力行為等は、客観的に見て、
言葉で表現したところから受ける印象よりも軽度なものであったと推認される。
さらに、仕事差別の点について、Y1は、Xの勤務成績及び勤務態度が悪いなどの
評価の結果行ったとも考えられる。しかしながら、Xが反抗的な態度を示すように
なったことには、管理職等が勤務時間内外にわたり、Xに対して執拗に希望退職
届を提出するよう強く要請し続けたことにもその一因があり、Xのみを責めること
はできず、暴力行為等につき、Y1・Y3に連帯して慰謝料等の支払いを認め、仕事
差別につき、Y1・Y2に連帯して慰謝料の支払いを認める。

2.暴行事件を原因とする精神疾患
暴行そのものの身体的傷害というより、暴行に起因する精神疾患が問題となる事
件も発生しています。例えば、川崎市水道局(いじめ自殺)事件では、上司らの
揶揄・嘲笑・侮蔑的発言により労働者が精神疾患に陥り、その後自殺したとして
川崎市に安全配慮義務違反があったことが認められ、本人の資質等の要因から7割
分が過失相殺され、労働者の逸失利益および慰謝料として両親それぞれに約1,17
0万円の損害賠償支払いが認められています。これに関連する事例として、アジ
ア航測事件は、同僚の男性従業員の殴打に起因する心因性の疾患により欠勤する
ようになった女性従業員が、無断欠勤による職務怠慢等を理由に解雇されたとい
う事例です。男性従業員及び会社に対し約194万円(過失相殺4割)及び慰謝料6
0万円の支払が命じられました(なお、解雇も無効)。
また、会社内の暴行および暴言を原因とする従業員の精神障害に関する事例とし
て、ファーストリテイリング(ユニクロ店舗)事件では、店長の暴行行為および
管理部部長の暴言について、会社に使用者責任が認められ、それによって被った
労働者の損害(妄想性障害)に対して、会社と店長が連帯して損害賠償責任を負
うとされ、さらに、休業損害1,904万余円および慰謝料500万円ほか合計2,416
万余円が認定されました(ただし過失相殺により60%が減額)。
さらに、代表取締役により日常的に暴言、暴行及び退職強要といったパワーハラ
スメントを受け、それが原因で急性ストレス反応を発症し自殺するに及んだケー
スにおいて、同代表取締役の不法行為責任を認め、同時に会社法350条に基づき
会社も連帯して損害賠償責任を負うことを認めたメイコウアドヴァンス事件があ
ります。損害額として被災者の妻に約2,707万円、被災者の子3名に各902万円が
認められています。また、長時間労働に加え、上司より社会通念上相当と認めら
れる限度を明らかに超える暴言、暴行、嫌がらせ、労働時間外での拘束、プライ
ベートへの干渉、業務と無関係の命令等のパワーハラスメントを2年半以上にわた
って恒常的に受けてきた飲食店店長の過労自殺につき、同上司の不法行為に基づ
く損害賠償責任を認め、また、会社については安全配慮義務違反に基づく損害賠
償責任及び不法行為の使用者責任、会社の代表取締役に対しては会社法429条1項
に基づく損害賠償責任を認めたサン・チャレンジほか事件があります。亡き飲食
店店長の逸失利益として約4,588万円、慰謝料として2,600万円が認められていま
す。
【用語解説】会社法350条 
株式会社は、代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に加え
た損害を賠償する責任を負う。
【用語解説】会社法429条1項 取締役の第三者に対する責任
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員
等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

3.暴行等の差止
西谷商事事件は、上司らによる暴言・暴行等の差止めを求めた珍しい事例である。
この事件において裁判所は、人格的利益が侵害された場合に、被害者は加害者に
対し侵害行為の差止めを求めることができるとしました。しかし、暴言等の行為
が人格的利益を侵害する場合に該当するには、身体や精神に何らかの傷害の発生
することが予想される場合でなければならないとし、本件では、人格的利益を侵
害するおそれがあるということもできないとして、労働者の申立てを却けていま
す。

4.ポイント
@暴行行為が従業員同士の行為であっても、就業時間中に就業場所で行われた場
合には、会社の事業の執行行為を契機として、これと密接に関連を有すると認め
られるため、会社は被害を受けた労働者に対し使用者責任としての損害賠償責任
を負うことがあります。

A従業員の暴行等に起因する精神疾患に関しても使用者は使用者責任を負うこと
があります。

B暴言をあびせ罵倒する等の行為が、恒常的に精神的苦痛を与え、人の生命・身
体という人格的利益を侵害し又は侵害するおそれがある場合には、差止めを求め
ることができます

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