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2021年7月のQ&A
【Q】
早期退職優遇制度のトラブル事例等教えてください


【A】
会社が労働条件変更を目的として、現在の労働契約の解約(解雇)と、新契約の
早期退職優遇制度は一時的な雇用調整措置なので、一定の応募資格を満たし、期
間内に応募するか自動的に適用されない限り適用されません。
実際、制度の適用対象年齢以前に退職した場合は適用されないとされた事例(ア
ラビア石油事件など)、内規の早期退職優遇制度が自動的に労働契約の内容にな
るわけではないとされた事例(日商岩井事件)があります。また、出向期間中に
出向元で実施された希望退職制度について出向者を対象外としても、出向者とそ
うでない者を同等に扱うとの就業規則等における明確な定めがない限り違法では
ないとされた事例(NTT西日本(出向者退職)事件 )もあります。なお、懲戒
処分事由がある場合は転身援助制度の優遇措置は適用されないとした事例(中外
爐工業事件)、競業会社に転職する場合は退職金特別加算金制度を適用しない旨
の条項を、直ちに公序良俗違反(民法90条)で無効とはできないとした事例(富
士通(退職金特別加算金)事件)があります。
ただし、本来適用のない年齢の者でも、他の年齢の者にも準用する場合があると
定められていれば、実際の退職金額と支払われるべき優遇退職金額との差額請求
が認められる場合もあります。また、ごく一般的に言って、制度の適用を認めな
いことが当事者間の信義に反する特別の事情がある場合、会社は制度利用申請の
承認を拒否できなません(ソニー(早期割増退職金)事件など。ただしこの事件
では、特別の事情はないとされました。)。
【用語説明】
民法90条 公序良俗違反
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
「公の秩序」:社会の一般的秩序 (例)人を殺す契約
「善良の風俗」:社会の一般的道徳観念 (例)両性の合意によらない結婚の契

判例【神奈川信用農業協同組合(割増退職金請求)事件 最高裁】
被告Y信用農業協同組合は、就業規則で60才定年制を定めていたが、併せて、労
働者の希望により定年年齢前に退職した場合は定年扱いとし、割増退職金を支給
する選択定年制を要項で定めていた。選択定年制の対象者は、退職時点に48歳以
上で、かつ、勤続15年以上の職員のうち、退職を希望する6ヵ月前までにYに申し
出て、が認めた者と定めていた。選択定年制が設けられた趣旨は、組織活性化や
従業員の転身支援、経費削減であったが、必要な人材の流出防止のため、Yの承
認が必要とされていた。
Yの従業員であったXら2名は、選択定年制による退職を希望し、その旨をYに申
し出た。その折、Yの経営状態が悪化し、事業譲渡及び解散は不可避と判断され
たが、事業譲渡前に退職者が増加することで事業運営が困難になることを防ぐ
ため、Yは選択定年制を廃止する方針を立て、選択定年制に応募する資格を有す
る従業員全員に対しその旨説明すると共に、理事会で選択定年制廃止を決定した
上、Xら選択定年制を申し出た従業員らに対して承認しない旨告げた。
Xら原告労働者は、選択定年制により退職したものとして取り扱われるべきであ
ると主張して、割増退職金債権を有することの確認を求めて提訴した。一審、二
審は共に、Xらの主張を容れたところ、Yが上告したのがこの事件である。
判決の内容 労働者側敗訴
選択定年制による退職は、従業員の申出をYが承認することにより、所定日限り
の雇用契約終了や割増退職金債権発生という効果が生じるとされており、Yが承
認するかどうかについて、就業規則及び要項で特段の制限は設けられていない。
もともと、選択定年制による退職に伴う割増退職金は、従業員の申出とYの承認
とを前提に、早期の退職の代償として特別の利益を付与するものであり、選択定
年制による退職申出が承認されなかったとしても、申し出た従業員は、特別の利
益を付与されないが、選択定年制によらない退職を申し出ることは何ら妨げられ
ておらず、退職の自由は制限されていない。したがって、選択定年制による退職
申出に対してYが承認しなければ、割増退職金債権の発生を伴う退職の効果が生
じる余地はない。

2.早期退職優遇制度による退職の条件−会社の承認
早期退職の募集により有能な人材が流出するのを阻止すべく、会社は引き留めを
行うことが多くみられます。その結果、制度が適用される者すべてが優遇措置を
受けて退職できるわけではありません。上記判例の会社が承認を定めていたのも
この理由からです。その他にも、会社に必要不可欠な者が退職すると業務に支障
が生じるので、早期退職に使用者の承認を要するとすることは不合理ではない、
また、承認しなければならない法的義務があるわけでもない等と判断した判例が
存在します。
なお、早期退職の募集は会社からの申込ではなく誘引であり、労働者の応募で退
職の効果が自動的に生じるものではありません。

3.早期退職優遇制度と割増退職金の請求の可否
それでは、支払われるべき額と実際の額の差額請求は認められるか。上記判例に
従えば、会社の承認がなければ退職の効果は生じず、併せて、割増退職金を得る
権利は発生しません。また、制度が適用されていた労働者の間で不平等が生じる
ことになっても、より優遇された退職金等の支払いを保証する内規などがなけれ
ば、差額請求は認めらません。
制度適用の時間的前後関係から見ても同様で、のちに会社がより有利な優遇制度
を設けたからといって会社に差額支払責任はなく(長崎屋事件)、早期退職制度
導入前に退職した場合でも、制度が適用されていれば得ていたはずの額と実際の
退職金額との差額請求は認められません(大阪府国民健康保険団体連合会事件)。
退職後により有利な退職金規程を定めた労働協約が締結された場合で、締結以前
に退職した場合も同じです(阪和銀行事件)。
なお、会社には、早期退職優遇制度が設置されることを退職者に知らせる義務(
イーストマン・コダック・アジア・パシフィック事件)や、希望退職募集に際し
再建策実施後の将来見通し等について説明すべき義務(東邦生命保険事件)はな
く、制度に応募でき(し)なかった者の損害賠償請求は認められません。

4.ポイント
@早期退職優遇制度に応募するには、一般に、応募の条件を満たす必要がありま
す。

A早期退職優遇制度によって退職する場合、会社側の承認を必要とすることは違
法ではありません。したがって、優遇措置である割増退職金の請求は、会社側の
承認があって初めて行うことができます。

B優遇された退職金の支給額について、制度の実施又は適用の時間的前後関係か
ら労働者の間で不平等が生じても、原則として会社は労働者を平等に取扱う義務
はありません。

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