エンターテインメント論

「論文の書きかた」と題して
5回の連載を書きました
そのしめくくりとして
芸術科学会におけるエンターテインメントの研究について
という試論を書いておこうと思います

定義・目標

エンターテインメントという単語は
ずいぶん曖昧で、さまざまな意味に
使われております

簡単にいえば
「娯楽」
「楽しませるもの」
を指すのでしょうが
娯楽というと古い感じがするのに対し
「今の時代にウケているもの」
「新鮮で面白いもの」 に重点があり
「日経エンタテインメント」
の内容はそういうものだと思います

「エンターテイナー」とは
面白いことをやって
人々を楽しませる芸人のことで
マイケルジャクソンは
その好例とされています

インターネットでエンターテインメントを検索すると
エンターテインメントをビジネスのチャンスとみなし
「成功するためにはどうすればよいか」
が論じられています
しかし、それは
当学会の研究目標と
少し違いますね

情報処理学会の SIGEC
(エンターテインメント・コンピューティング研究会)
のサイト
http://www.entcomp.org/sig/2012/
では研究会の目標を次のように説明しています

新しいエンタテインメントを創造するため
エンタテインメント技術の研究
「面白さ」の基本要素を解明したり
評価法を確立するエンタテイメント性の研究
教育・エクササイズ・福祉などの
様々な分野での応用を探る
エンタテインメント化の研究を進めます

要するに、いちばん大事なキーワードは
「面白さ」 「気楽に楽しめる」 「新鮮な感動を与える」 なのですね

・・・ここまでが「普通の解釈」です・・・
ここから私のオリジナルな解説が始まります

 

縦の分類、横の分類

伝統的な大学の工学部の学科構成は、たいてい
電気 機械 工業化学 ・・
となっていて、その電気の中には
強電 弱電
があり、弱電の中には
素子 回路 通信 ・・
などがありました
このような分類を「縦わり」と呼ぶことにします

教育をするには、これが最も明快です
理論と実験の両面から基礎をしっかり教え
それをもとに複雑なものを教えていきます

しかし、近年は、技術がきわめて高度化し
電気だけ、機械だけ、というような教え方
ができなくなりました
機械工学科ではロボットの研究をします
ロボットを作るには
手足を動かすための電気仕掛
目を実現するための電子技術
知的な行動をするための計算機技術
などをはじめ、広範囲の技術が必要です
これら全ての学問を基礎からきちんと
勉強している時間はありません

それは、教育だけの問題ではありません
以前は、○○電気、○○機械、○○化学
のような分野別の会社が中心でしたが
今は、アマゾンとか、イーオンとか
ソフトバンクといった総合的な会社
が伸びる時代になりました

それと同様に、学会の活動においても
「横わり」
いいかえれば
「目的別」
の目線が重要になってきました

その「大分類」(いちばん上の分類)としては
衣 食 住
素材の生産
輸送 販売
などが、まず、考えられます
教育 医療 防災
も大分類の項目でしょう
エンタテインメント
は、そのような「大分類の項目の一つ」である
と考えられます

大項目「エンタテインメント」の中に
中項目として、たとえば
遊び 踊り
などが入ります

「盆踊り」を入れていいかもしれません
そうなると「祭り」「囃子」も入るから
「歌」を入れていいかもしれません
だから、拡大解釈すると「音楽」も
「エンタテインメント」に入るでしょう

Wikipedia の「主なエンターテインメント」の欄には
映画 音楽 演劇 演芸 舞踏 アニメ ゲーム
などが挙げられており、更に
スポーツ 遊園地 テレビのバラエティ番組
まで含まれています

「横わり」の分類には「重複を許す」ことにします

たとえば、衣、食、住を大分類に掲げましたが
面白い衣装 面白いスイーツ などは
エンターテインメントにも入れていいでしょう

 

悲劇と喜劇

どういうわけか、Wikipedia の
「主なエンターテインメント」には
文学と美術が含まれていないません
それは多分、書き忘れでしょう
気楽に読める物語や「笑い話」もあり
漫画も広い意味での美術ですから

もしかすると、文学には
シリアスな作品が多いから
はずしたのかもしれません

考えてみると
映画や演劇にも
悲劇があります
暗いか、明るいか
気楽に楽しめるか
で区別するのは 無理なのです

宝塚の演目には悲劇もあります
観客は泣いて涙を流し
満足して帰っていきます

劇場の音響設備や照明は
喜劇にも悲劇にも
同じように使えます

CGも、ネットワークも
「面白さの技術」ではありません
にもかかわるず、CGを
エンターテインメントと
呼ぼうとするのは
ゲームのようなものを
含めたいからなのでしょう

そこで、以下では
「明るいか暗いか」にこだわらず
「エンターテインメント」を
広く解釈することにしましょう
 

横わりの中の縦わり

以前 日大 芸術学部 映画学科の
お手伝いをしたことがあります
映画を作るには
監督 シナリオライタ
撮影 録音 編集
俳優 衣装 セットなど
さまざまなスタッフが必要で
映画学科には、それぞれの
育成のためのコースがあり
学生はその専門教育を受け
専門家として卒業していきます

芸術学部には放送学科もありました
テレビ番組の制作には、同様に
各種の専門家が必要であり
そのための教育をしており
「研究」もしておりました

映画やテレビは「横わり分類」
エンターテインメントの中で
大きな地位を占めていますが
詳しく見ると中にいくつもの
「縦わり要素」があるのです

ゲームも、それと似ていますね
大きく分けて
「企画」と「制作」
があります
制作のためには、映画と同様
さまざまな専門スタッフが必要で
そのための教育の場が必要であり
「研究の場」と研究者も必要で
そこは「縦わり」の構造になるのです

縦わりにすればスッキリします
そのかわりマンネリ化の危険もあります
難しいものですね

 

トンメンイテュデエ

教育にエンターテインメントを取入れ
受講者に興味を持たせ脳を活性化して
落ちこぼれを減らし
教育効果をねらう
「エデュテインメント」
という手法がありますが
今ここでは反対に
エンターテインメント技術者の育成
という問題を考えてみます。それは
エデュテインメント
の逆なので
トンメンイテュデエ
と呼ぶことにします

たとえば
エンターテインメント学科
を作るとしたらどのような
カリキュラムにするか
考えてみてください

参考までに
ドレメ(ドレスメーカー女学院)
とか
文化服装学院
を想起すると良いかもしれません

服装、ファッションは広い意味での
エンターテインメントの一種であり
その専門教育の成功例として
お手本になりそうです

入学すると、まず洋裁を習います
その技術は、卒業後
自分の洋服を作るのに役立ち
他人の洋服を作ってあげるのにも役立つから
内職ができる、手に職がつく、就職にも有利です

更に、デザインを習います
それは楽しく創造的な仕事
そこで才能を開花できれば
一流デザイナになれるかも
という夢もあります

別の例としては、伝統的な大学の
文学部が参考になるかもしれません
国文科、英文科、仏文科、独文科、露文科
そこで教わるのは、基本的には学問です
歴史、作家研究、作品研究、文学論、等々
しかし、そこには有名な作家が居るので
作家志望の学生が集まります
「小説の書きかた」などという
授業はありませんが
文学の雰囲気に満ちた教室に通い
級友と話をするだけでも満足です

卒業して、すぐ作家になれる人は
ほとんどゼロですが
語学の教員になれる
翻訳者や外国文書担当者になれる
という「就職の道」はあります

このような例を参考にして
エンターテインメント 学科
(または学科の中のコース)
の教育計画を考えてみましょう

まずエンターテインメントの
全般的な展望と常識を教える
基礎科目を置くでしょう

それから、コンピュータや
ネットワークなどの基礎技術を
かなり時間かけて教えなければ
ならないでしょう

問題はそのあとです
窓口が広すぎたら
専門教育ができませんから
目標を絞って、そのための
特殊科目を置いていきます

ゲームに関する基礎技術は
何をやるにも必要でしょう

ロボット関係も、センサと
アクチュエータ関係の技術
特にGPSや加速度計など
よく使われるものを中心に
教えておきましょう

このような技術は学生が
先々、どこに就職しても
役に立つでしょう

それから、研究目標を立てます
全員で考えるのもよく
指導教員の得意分野の周辺
でもいいのですが
ターゲットを決めて
最新の動向を調査し
研究体制を作り出発進行

こうして研究をスタートさせてから
それに必要な技術を勉強していきます

普通の教育は たいてい そうしますが
エンターテインメントを教える場合も
それでいいのかしらん?

それは、学生時代に
何を勉強すればよいのか
という根本的な問題です

技術は就職してからでも学べます
会社に入ってからの方が切実なので
本気でカリガリ勉強するから
概して能率がいいようです
それなら、学校にいる時に
「あとになったら勉強できない事」
を勉強しておく方が賢明
かもしれません

しかし、一方、それにも反論があります
「修学旅行に行っても無駄である」
という意見がありますね
毎日ゲームセンタに通って
ゲームの名人になっても
実務に全く役立たないかもしれません

よく考えてみると
人それぞれ得意、不得意があります
会社の組織や学生のサークルの
リーダーに適した人
女房役に適した人
技術力に秀でた人
メンバーとして貢献する人
不慮の出来事のとき真価を発揮する人
など、いろいろあって
それでうまくいくのです

多くの企業では、近年
働き蜂は高専と専門学校に期待し
研究的業務には大学院修了者を使い
残りを大学卒にしています

一方、学校側から見た場合
就職率を上げるため
予備校を同じように
会社向けの人材育成
に専念するのが有利
という選択肢もあり
入学者を増やすため
楽しさいっぱいです
という道もあります

卒業生の中からスターが出れば
その学校が有名になりますから
タレント育成に賭けるのもよし

エンターテインメント学部
ゲーム学科
パズル学科
グルメ学科
コミック学科
フェスタ学科

のような
「ジャンル別の構成」
が1案ですが
別案としては
会社でいえば電通のような
「何でもやります」
にする方がいいかもしれません

その青写真は?

考えてみたら面白そうです

 
 

・・・・・一応これで終わりますが・・・・・
・・・・内容的にはまだ不完全なので・・・・
・・今後も 随時 加筆していくつもりです・・

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