山形の紅葉見物。  18,11,03

   今年の紅葉見物はどこにしようかと思案してあれこれ候補を考えた。
  今までに印象に残っている紅葉の名所は、遠いところでは京都の嵐山や足助の香嵐渓、
  黒部、高山の神通峡、渡良瀬渓谷や奥入瀬渓流、近くは鎌倉の覚園寺、海蔵寺などの
  お寺、日光、箱根美術館の紅葉などが思い出される。

   クラブツーリズムのパンフレットを吟味した結果、結局今年は山形の紅葉を見に行くこ
  とにした。「山形蔵王、天童、山寺、羽黒山、最上川の舟下り、鳴子、秋保の紅葉見物
  ツアー」 と銘打った欲張りな2泊3日の旅である。

   今年は台風24号の塩害で、各地の紅葉はだいぶ被害を受けている。鎌倉の紅葉で有
  名なお寺も今年はダメなところが多い。段葛の街路樹などは塩害ですっかり桜の葉っぱ
  が落ちて枯れ枝のようになってしまった。山形の紅葉も過大な期待はかけられないが、
  10月末から11月初旬が紅葉のピークというのでこの短い旬を外さず早々に出かけること
  にした。

   初日(10月31日);新幹線福島着~山形蔵王~ロープウェイで鳥兜山~天童温泉(泊)
   2日目;天童温泉~山寺立石寺~羽黒山~最上川舟下り~瀬見温泉(泊)
   3日目;瀬見温泉~鳴子峡~秋保大滝~福島駅~新幹線東京。 の旅程である。

   バスガイドさんにあらかじめ聞いてはいたが、蔵王の山頂は台風24号の影響で紅葉は
  すでに終わり、ロープウェイ頂上の鳥兜駅周辺は風と小雨で景色は見えない。気温0度
  で寒い。宿のテレビでは山形蔵王の初冠雪を伝えていた。

   天童に行く途中米沢を通過。米沢は最上義光の甥で後の伊達藩主伊達政宗の生誕地
  であり、隣藩の出羽山形藩は最上義光の居城で、後に3代将軍家光の異母弟で、23万石
  初代会津藩主になる保科正之が、3万石の高遠藩主から一挙に20万石の山形藩主に移
  封された土地である。歴史好きには興味の尽きない米沢であり山形である。

   天童は将棋の駒で有名で、宿の玄関横には天童らしく大きな将棋盤と駒が陳列されて
  いた。天童温泉の泉質は循環型の弱アルカリ性。夕食の芋煮が食べ放題で2杯もお代
  わりをし、おまけに禁酒中の熱燗1合を飲む羽目になった。5か月ぶりのお酒ですぐに酔
  いが回った。

   翌朝、山寺立石寺に行く。山頂の奥の院まで急な石段が1015段ある。途中の450段付
  近の「せみ塚」で芭蕉の句碑を眺めたところであえなくリタイア。家内は元気に山頂の奥
  の院まで登っていった。「せみ塚」で家内の帰りを待つこと40分ほど、手持無沙汰で友人
  にメールをしたりして休憩し景色を堪能した。

        「閑けさや 岩にしみいる 蝉の声」


   

   下山して羽黒山に向かう。バスの車中からは月山、鳥海山が冠雪しているのが見える。
  新庄、尾花沢のこの辺りは豪雪地帯で、家々には雨樋がなく、屋根のてっぺんには積雪
  が滑り落ちるように「雪割り」と呼ばれる瓦が乗っている。信号機は豪雪地帯とあって横型
  ではなく縦型になっている。

   一面にサクランボ畑が広がっている。収穫期は房総のビワと同じ6月。高価で日持ちの
  しない果物なので、遠隔地には空輸で素早く送らねばならないから、赤字路線の山形空
  港を閉鎖するわけにはいかず、赤字分はサクランボの恩恵を受けている東根市が負担
  しているのだそうだ。バスガイドさんの説明にいちいち納得しながら羽黒山到着。

   出羽三山(羽黒山、月山、湯殿山)の三神を合祭した日本随一の大社殿「三神合祭殿」
  をお参りする。月山神社の厚さ2,1Mの茅葺き屋根が見事。羽黒山を後にして最上川の
  舟下りに行く。


    

   最上川は米沢市に源を発し酒田市で終わる、山形県内だけを流れる日本唯一の川。
  折からの雨で川水は清流とはいかず茶色に濁っていた。台風24号の爪痕があちこちに
  残っていた。

     「五月雨を 集めてはやし 最上川 」

   最上川の紅葉は今が見ごろ、黄色が主体で所々に赤があり、天然杉の緑が背景にな
  っているのが何とも絶妙。船頭の巧みな話術と舟唄を楽しみながらおよそ1時間、船旅
  を堪能した。

   船頭が観光客に声をかける。「キレイだべ!コッツ見ろ!ソッツでね!」 久し振りに
  聞く素朴な東北弁(山形弁)が懐かしく大笑いした船旅だった。風が吹くと紅葉が散る。
  今週末でピークが過ぎる、と船頭が言う。長年の経験が言わせる真実だろう。


     

   今宵の宿は新庄の奥座敷といわれる瀬見温泉。「瀬見」の由来についてはご多分に
  洩れずここにも義経・弁慶の伝説がある。宿の「観松館」は天皇皇后が宿泊されたとい
  う高級旅館。花笠音頭の踊りを見ながらの夕食で珍しい地元料理を満喫。

   3日目;山形から宮城に入り、鳴子峡へ行く。鳴子峡の紅葉も今が最盛期の見頃。地
  元の人たちも今週末で終わりだろうという。紅葉見物はタイミングが良ければ素晴らしい
  景色に出会えるが、この日がジャストタイミングだった。鳴子峡から秋保の大滝に行き、
  福島駅から新幹線で帰京し解散。

   今回の紅葉見物は、蔵王の紅葉こそ見れなかったが、冠雪した月山・鳥海山の眺望
  や、山寺や最上川、鳴子の紅葉、車窓から道々に見える紅葉も最盛期の景色で、時々
  小雨が降る天気で快晴とはいかなかったが、まずまずの紅葉見物だった。

   京都に代表される一面真っ赤な紅葉も壮観だが、黄金色に色づいた紅葉も捨てがた
  い。私はむしろこちらのほうに趣を感じるほうだ。ただ脚力の衰えは如何とも致し方なく
  、山寺山頂の奥の院までの登拝を断念したのがなんとも悔やまれた。