秋の奥入瀬渓流〜十和田湖畔の散策。06,10,25〜26 1、奥入瀬 秋深い奥入瀬の紅葉を求めて新幹線八戸からバスで1,5時間、期待に違わぬ全山黄金一色の 紅葉と清流が私達を待ち受けていました。十和田湖から流れ出る唯一の川、約75キロメートルで 太平洋に出る奥入瀬川の最上流の14キロメートルの部分が、十和田湖とともに「特別名勝天然保 護区域」に指定されている奥入瀬渓流です。 渓谷の両岸には100mをゆうに越える断崖が聳え、大小の滝を掛け、渓畔の巨大な樹木群と厚く 苔を帯びた岩や、小島を洗う清冽な流れによって、原生自然そのままの景観を保ち続けていました。 奥入瀬を味わうには、子の口に向かって下流から上流へと遡るように歩く事だといわれます。 渓谷美、渓流美ともに、より低いところから上流を見上げるように眺めると、迫力あるいっそう美し い景観を味わえるからです。 十和田湖から始まる紅葉は、やがて渓谷へと下り、10月中旬から下旬が奥入瀬の錦秋、紅葉の 季節です。カエデやナナカマドの赤、ブナの黄色、針葉樹の緑、黄金色に紅に、深く濃く、鮮やかに 燃える木々が織り成す光景は、正に自然が描く名画です。岩に砕ける白い渓流、そして大小さまざ まな滝の眺めが、紅葉をさらに印象深く彩っています。 明治の国文学者、大町桂月が「住まば日の本、遊ばば十和田、歩きゃ奥入瀬、三里半。」と謳っ たとおり、起点の焼山から終点の十和田湖畔の子の口までがちょうど三里半、一里は4キロですか ら、つまりは14キロメートルということになります。 渓谷の始点とされる焼山から5キロ進んだ石ヶ戸(いしげど)が一般的な奥入瀬散策のスタートラ インなので、我々はここ石ヶ戸から終点の子の口までの9キロを上流に向かって歩くことにしました。 主な中継点と所要時間は、@雲井の滝まで、2,6キロ45分、A玉簾(たますだ)の滝まで、2,4キロ 40分、B銚子大滝まで、2,3キロ45分、C終着子の口まで、1,6キロ30分、の合計8,9キロ2時間40分、 これが標準散策時間です。私達は周辺の景色を堪能しながら子の口までの9キロを3時間掛けて ゆっくりと登りました。 一面、ブナやナラ、カエデ、クヌギ、ヒバの原生林が黄色に色づいて、さながらカーテンのように 渓流沿いの散策道に続き、足元には一面にシダが、道端の大小の岩にはびっしりと苔が群生して います。 9キロの散策道から左右に大小15の滝が見られます。渓流に沿って一般道を観光バスが登りく だりしています。しかし歩かなければここ奥入瀬渓流の醍醐味は到底味わう事は出来ません。 やや霧雨がそぼ降る空模様でしたが、それがかえって趣のある自然美を演出して、紅葉と渓流の せせらぎの音に包み込まれた夢のような3時間はあっという間に過ぎていきました。 もみじ葉の ひとひら落ちて 苔青む。 2、十和田湖 十和田湖畔の瀟洒な宿の温泉で旅の疲れを取り、夕食の炉端焼きでは、十和田湖のヒメマスや 秋田の比内鳥のきりたんぽ鍋、いぶりがっこなどの郷土料理と地酒を堪能して、翌朝早朝から地 元のボランティアさんの案内で、ようやく朝日が昇り始めた十和田湖の湖畔を約1時間散策しました。 すがすがしい朝の空気を一杯に吸い、日本第3位の深さを誇る十和田湖の湖面を眺め、熱心な ガイドさんの説明に耳を傾けながら、湖畔に群立する木々や見事な紅葉に歓声を上げての1時間 の散策は、富士と江ノ島を望む葉山の朝の海岸の散歩と甲乙つけがたい見事なものでした。 ここで見られる樹木は、カツラ、ナナカマド、カエデ,ミズナラが多く、紅葉は正に圧巻、今が盛りと 赤、黄金色に色づいていました。 秩父、高松両殿下お手植えのキタゴヨウ(5本の松葉からなる五葉松)、十和田神社、2つの半島 からなるカルデラ湖・十和田湖形成の過程と地形、などはガイドさんの絶好の説明材料とみえ、 一段と熱を帯びた口調で我々観光客をにわか物知りにしてくれました。 散策の途中で十和田神社に差し掛かったとき白鳥と思しき鳥がただの一声天空に鳴き声を発し ました。一瞬の出来事でしたが、ガイドさんによれば実に珍しい幸運な出会いだそうで、これには 一同大変気を良くしたようです。 また偶然、我々の泊まった宿の中老の従業員の方が、十和田湖のヒメマス生みの親、和井内 貞行さんのお孫さんである由。和井内貞行という人は1903年に苦心惨憺の末、ようやく十和田湖 のヒメマス養殖に成功し、湖の彼方から小波のように押し寄せてくるヒメマスの大群を見て感激の あまり、「我、幻の魚を見たり。」と叫んだのだそうです。 この和井内貞行さんをモデルに、たしか伊藤大輔監督、大河内伝次郎主演で「我、幻の魚を見 たり。」が映画化されたことなど、今の若い人たちはまるで知らない世界の事でしょう。 人のよさそうな話し好きのこの中老はまた葉山とも縁があり、若いころにはよく葉山マリーナで 楽器を弾いて青春を楽しんだものだと昔話をしてくれました。最近の葉山の様子を話すととても 懐かしげに喜んでくれたのが印象的でした。 朋あり,遠方より来る、又楽しからずや。 もう訪れることもないであろう奥入瀬の旅はこうした強い余韻を残して終わり、次の目的地、従 兄弟会の待つ厳美渓へと向かいました。 |