秋の芸術鑑賞。    14,09,12

   このところ日の出が遅くなり晩夏とはいえもう秋の気配が漂う。毎朝の散歩も冷気が
  肌に冷たく、そろそろ長袖が恋しい。少し早いが芸術の秋。上野の東京国立博物館で
  特別展「台北故宮博物院ー神品至宝ー」が開かれているので見物に出掛けた。大宰
  府にある九州国立博物館でも10月から特別展が実施される。

   葉山の文化財研究会の仲間10数人と一緒に、何十年ぶりかで上野の精養軒で昼
  食を食べた。昔の場所から現在地に移って2周年だというので、この店と懇意の幹事
  の計らいで、全員がローストビーフのコースを格安で食べた。昼から重い食事なので
  少々腹に応えた。


      

   台北の故宮博物館の展示品は数奇な運命の歴史を持つ。初めて博物館が誕生した
  のは1925年、清朝最後の皇帝・溥儀が退去した北京の紫禁城である。オープンして
  8年後の1933年に日中関係が緊迫すると合計2万箱の文物が当時の中華民国の首
  都南京にいったん落着き、全面的な日中戦争に発展した1937年には今度は四川省
  などの内陸の奥地に疎開した。

   終戦後の1947年南京に戻ったのも束の間、今度は国共内戦で蒋介石率いる国民
  党が敗れるや、一部を台湾に持ち去って、1965年台北郊外に博物館を建設し、よう
  やく安住の地を得ている。正に数奇な運命を持つ宝物である。

   その数実に69万点といわれ、大英博物館、ルーブル博物館、メトロポリタン美術館と
  並んで世界の4大博物館と云われている。因みに北京の故宮博物館は中国政府の管
  理の下で紫禁城に現存している。

   今回の特別展の目玉は、故宮を代表するスーパースターと云われる18〜19世紀の
  清時代のヒスイ輝石の彫刻「翆玉白菜」と豚肉を表現した「肉形石」だが、残念なことに
  「白菜」は展示が7月7日で終わっていたし、「肉形石」は10月から始まる九州での展示
  なので観る事が出来なかった。

   「翆玉白菜」は写真で見たが1つの玉材の色の違いを利用して緑色の葉っぱと白い芯
  をあたかも実物の白菜のように巧みに彫り表した高さ19センチの彫刻で、門外不出、
  奇跡の出品といわれていたので是非見たかったが遅かった。

   しかしこれに次ぐ人気の「人と熊」の彫刻は目にすることが出来た。白が童子で黒が
  熊、白黒の色が自然にまじりあった玉石本来の色が鮮やかな、仲よく抱き合った高さが
  6センチのかわいらしい彫刻だった。展示品の前は人だかりが絶えなかった。
    

           


   故宮博物館の69万点に及ぶ文化財の多くは宋時代から元・明・清時代にわたる歴代
  皇帝のコレクションを受け継ぐもので、この中から代表的な作品186点を厳選した日本初
  の展覧会という触れ込みだった。

   玉の肌のように深遠な釉の色合いの北宋時代の青磁、傑作中の傑作といわれる北宋
  の大文人蘇軾の行書詩巻、東晋時代の書聖・王羲之の草書をはじめ、各時代の書家の
  楷・行・草書、南宋・元・明・清時代の図軸、図巻、青磁類、山水画の起源と思われる色付
  きの山水画はじめ各時代の山水画、、全面刺繍で表された元時代の吉祥画、清時代の
  透かし彫りの香炉や七宝の技術を駆使した回転瓶などの陶磁器類、紀元前の殷の時代
  から清の時代までの中国芸術の奥深さを示す逸品が一堂に集められた特別展だった。

   目玉の「翆玉白菜」は見れなかったが充分見ごたえのある特別展だった。

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   特別展見物終了後にメンバーたちと別れ、有楽町駅前の映画館で、かねて気にして
  いたチリ映画「NO」を観た。

   チリ映画「NO」の概要。

   今、スコットランドの民衆が「イエス」か「ノー」かで揺れている。英国からの独立を問う
  住民投票が9月18日に行われることになり、イギリスの与野党党首が必死で離脱の阻
  止の遊説に出向いている。世論調査では賛否が拮抗していて独立の行方は混とんとし
  て予断を許さない。

   これに似た民衆の直接政治参加が1980年代後半に南米チリで起こった。貧困と失
  業にあえぐ民衆、ピノチェト大統領の独裁政治、反対勢力や民衆への拷問・粛清で多く
  の民衆が殺害され、恐怖政治が蔓延していた。

   1988年ピノチェト政権の任期延長の是非を問う国民投票が実施されることになる。
  大統領支持派「YES」と反対派「NO」両陣営に1日15分だけ許されたテレビCMによる
  キャンペーン合戦。「NO」陣営に雇われた若き広告マンが、支持派の強大な権力と圧
  力に身の危険を感じながら恐怖政治と対峙し、ついに「NO」が投票で上回り勝利する。
  自由と解放を手にした民衆が歓呼の声を上げる。

   これは選挙キャンペーンによって”革命”を起こした、実話をもとにした真実の物語で
  ある。撮影にはあえてその時代に使われたビンテージカメラを使用し、民衆の迫害シ
  ーンやニュースなど実際の映像とフィクションを巧みに交錯させて臨場感を盛り上げて
  いる。主演のガエル・ガルシア・ベルナルの演技が素晴らしい。カンヌ映画祭ほか数々
  の賞を受賞した社会派の映画。

   この映画の上映劇場を探したが、神奈川県では未上映で、ようやく有楽町のヒューマ
  ントラストシネマ有楽町で上映されていることを探し当て観ることが出来た。
   CM制作とCMキャンペーン合戦のシーンがやや多く、もっと権力に対峙する抵抗の
  シーンがあってもいいという物足りなさがあるが、現在のスコットランドの住民投票と類
  似した政治情勢なので一見の価値があると感じた。またテレビCMの大衆誘導の怖さ
  も実感した。