武蔵野の奥座敷、深大寺。 10,06,16 仕事で飛び回っていたときにはNHKの朝ドラなど見たことはなかったが、最近では朝の散歩後ひと風呂浴びて 汗を流してから、家内と一緒に朝ドラを見るのが日課になっている。今放映中のドラマは”ゲゲゲの女房”といっ て、漫画家の水木しげる夫妻の若き日の苦労話がテーマになっている。舞台は調布市の深大寺で、夫妻はこの 緑に包まれた武蔵野の面影濃い調布市に住んでいて、貸本マンガ作りに精を出していたとの事である。深大寺 は手打ち蕎麦屋が多いことでも有名なので、ソバ好きの私としては一度は訪ねてみたい町だった。 たまたま我々夫婦がお茶の水に用事があったので、思い立って深大寺まで足を延ばしてみた。新宿から京王 線で調布駅へ、調布からバスで15分で深大寺に着く。降りてみて驚いたのはなんと蕎麦屋の多いことか、鬱蒼と 樹木が生い茂る「天台宗深大寺」を囲むように24店もの手打ち蕎麦屋が肩を寄せるように立ち並んで店を広げ ている。その店構えはいかにも手打ち蕎麦屋だといわんばかりの趣のある古風な店構えで、どの店にも入りたく なる誘惑に駆られる。友人のK君の大学時代の友人が深大寺の蕎麦屋の息子だと聞いたことがあったが、蕎麦 屋がこんなに多くてはどの店の息子か見当も付かない。こんなに蕎麦屋がひしめいていても共倒れにならない のだから、深大寺蕎麦はかなり人気が高くて且つリピーターが多いのだろう。 一応ネットであらかじめ一押しの蕎麦屋を調べておいたので、迷うことなくその蕎麦屋に入った。まず一軒目は 「湧水」。出てきたモリソバは清涼感のあるやや白いソバだ。そして細い。早速、汁につけずに数本食べてみる。 細いが実に腰が強い。ソバの風味も満点である。久し振りに本物の手打ちソバにめぐり合ったような気がした。 つゆは出汁がよく効いていて鰹の香りが心地よい。やや辛めだがソバとのバランスが非常によくとれた、レベル の高い出来映えだった。加えてよく冷えた冷酒”賀茂鶴”1合瓶がソバを待つ間にのどを潤してくれる。蕎麦屋の 酒のことを「蕎麦前」というが、これが又最高!。地元の野菜を使った天ぷらもさっぱりして美味しく、甘さを抑え た食後の蕎麦羊羹は上品な味で家内も太鼓判だった。欲を言えば1合瓶ではなくお銚子だったならば風情があ って最高なのだが、それでもこの蕎麦屋はネット一押しだけあって流石に特Aの店。 食後、深大寺の山門をくぐり、1時間ほど周辺を散策して少々腹ごなしをしてから、次に山門近くのお目当ての 2軒目に入った。「松葉茶屋」である。庭先に緋毛氈を敷いた椅子席があり、絵になるような茶店風の蕎麦屋で ある。庭先に張り出した椅子席に座り、そばがきを注文する。勿論冷酒も忘れない。出てきたそばがきは温かい そば湯が入った器に、すり潰した細かい蕎麦の実を振りかけた暖かいそばがき。つけ汁も鰹出汁がきいていて 申し分ない。そして冷酒は”白鷹”、つまみに蕎麦ミソとくればもう言うことなし。蕎麦ミソは味噌がまろやかで辛 くなく、酒のあてに最高である。思わず「うめえ」と唸る。 店内には樫の老木が屋根を貫いている。先々代がこだわって作った店構えだとの事だった。店内に常連さん が一人、ビールを飲んでいたが、この御仁は水木しげるさんの弟さん(80数歳らしい)とゴルフ仲間だと親しげ に語ってくれた。 立ち寄った2軒の蕎麦屋は勿論、他の24店もそれぞれ、こだわったその店独自の手打ち蕎麦を出してくれる のだろう。ここ深大寺蕎麦は、全国の有名蕎麦どころの逸品蕎麦に比べても遜色ないと思えた。ほろ酔い気分 で新緑の武蔵野を歩き、長閑な雰囲気に浸った心地よい一日だった。 追記;聞く所によれば、江戸時代、深大寺の北の大地は地質がひ弱で米の生産が向かないので、小作人は米 の代わりにそば粉を寺に納め、寺ではソバを打って来客をもてなしたのが、深大寺蕎麦の始まりとのことだった。 そういえば、蕎麦の名産地としては、戸隠蕎麦や川上蕎麦に代表される信州蕎麦、山形の板蕎麦、新潟の小 千谷のへぎ蕎麦、福島の白河蕎麦、山梨の八ヶ岳蕎麦、蓼科蕎麦などなど、印象に残る思い出の蕎麦は枚挙 にいとまないが、信州にせよどこの名産地にせよ、例外はあるが概して米作が不向きな痩せた土地ほど蕎麦 が名物になっているようだ。 話は変わるが、そういえば新撰組の近藤勇はたしか調布の生まれだったと後で気が付いた。 |
美味いそばがきを食べた「松葉茶屋。」 「手打ち蕎麦きり」の旗が掲げてある。 このような趣のある蕎麦屋がずらりと並んでいるの が深大寺なのです。 |