伊豆の旅                 10,01,10〜11

   娘が3連休で毎年恒例の北海道スキーに出かけた。老夫婦が家でぶらぶらしても仕方がないので、
  家内の発案でこちらも伊豆に1泊2日の旅に出かけることにした。天城湯ヶ島の、いろりの宿「三吉」
  という手頃な値段の旅荘を予約して朝6時に家を出発した。前日にあれこれ考えをめぐらし、中伊豆
  を縦断して南伊豆の下田まで足を伸ばし、翌日は西伊豆の松崎、堂ヶ島を見て、戸田、土肥から修
  善寺に戻って、沼津インター東名高速で帰宅しようという少々欲張りな計画にした。

   連休とあって混雑を懸念したが渋滞もなく3時間強で天城湯ヶ島に到着した。旅館には立ち寄らず、
  手始めは浄蓮の滝を見物。石川さゆり熱唱の「天城越え」の歌詞が石碑になっている。このあたりは
  水がきれいでわさびが名産、茶店にはわさびを主としたみやげ物が沢山売られている。浄蓮の滝を
  出発して次は旧天城トンネル。ご存知、川端康成の名作「伊豆の踊り子」の名場面の地である。車を
  降りて旧道を徒歩30分、山道を登って天城トンネルに到着。トンネルはほぼ500メートルほど。暗い
  トンネルを通り抜け、一高生の川端はさらに湯ヶ野から下田まで足を伸ばすのだが、我々はここで
  引き返す。それでも往復1時間強のだらだら山道はいい運動になる。

   再び車で河津七滝を通過して南伊豆の下田港へ。昼の腹ごしらえは名物「きんめだい」の煮付け。
  昼食後下田の町並みを2時間ほど散歩。ペリーの来港記念の史跡と唐人お吉にまつわる史跡が多
  い。目を引いたのは「なまこ壁」があちこちにあったこと。「なまこ壁」とは鏝絵(こてえ)で有名な入江
  長八の名残か、壁が漆喰で幾何学的な模様に装飾されているもの。明日訪れる松崎には沢山ある
  らしいが一足早くこの下田でお目にかかれた。昨年はじめて浦賀のお寺で鏝絵を見たが、浦賀、下
  田、松崎と、そろって海辺の町に鏝絵が見られるのは何故だろうか、今度その道の権威に聞くこと
  にしよう。

   石廊崎探訪は省略して一路今宵の宿湯ヶ島の「三吉」に戻る。若夫婦がにこやかに迎えてくれた。
  第一印象の感じが実にいい。こじんまりとしていて清潔でいかにも家族的な隠れ宿という雰囲気。
  旅なれた私が最も好きなタイプの宿だった。けばけばしい温泉大旅館にありがちな画一的なもてな
  しは一切見られず、さりげない部屋の一輪挿し、適温の露天風呂、暖かな囲炉裏端、若女将の心の
  こもったお手製の食事、もてなしてくれる若夫婦の気配り。昨日退院したばかりの生後20日の赤ん
  坊が来客のおばさんにあやされている。4歳の息子「たいゆうくん」が屈託なく階段の手すりで遊ん
  でいる。リピーターが多いというのも頷ける心温まる伊豆のかくれ宿だった。

   翌朝食事を30分早めてもらって8時出発。西伊豆の松崎港へ。松崎は一度どうしても行きたかっ
  たところ。ここは鏝絵(こてえ)で有名な入江長八の出生地。作品が沢山陳列されている伊豆長八
  美術館、長八が幼少時に学んだ寺子屋だった浄感寺。ここには鏝絵の大作「飛天」や天井には狩
  野派らしい豪快な筆法の大作「八方にらみの龍」が描かれている。町中至る所に「なまこ壁」。これ
  らを2時間ほど見物してから堂ヶ島に移動する。松島に似た周辺の島々を巡る遊覧船を予定してい
  たが、寒風が吹いて寒そうなので中止。北上して黄金崎、恋人岬を通り抜け、土肥近くの蕎麦屋で
  昼食をとり、後は一路修善寺を経由して沼津インターから東名高速をひた走り夕方5時半に帰宅した。

   2日間500キロの旅。3連休で高速料金1000円とあって車の大混雑を覚悟していたが、東名高
  速厚木PA付近の定番の混雑もさほどなく、快適な中伊豆、南伊豆、西伊豆の旅であった。
   ー浄蓮の滝

 ♪ 九十九(ツヅラ)折り 浄蓮の滝
    舞い上がり 揺れ堕ちる肩の
    むこうにあなた・・・山が燃える〜♪
   

  旧天城トンネル。

 川端康成を読んだ何千人、何万人がこのトンネルを
 越えてロマンチックな気分に浸ったことだろう。

 孤独に悩む青年「私」が、湯ヶ島から天城峠を越えて
 下田に向かう途中に出会った旅芸人の踊り子。彼女
 への淡い恋心を詩情豊かに描いたのが小説「伊豆
 の踊り子」だが、その「私」が踊り子に出会ったのが
 この天城のトンネルだった。

  ♪ あなたと越えたい 天城越え〜 ♪
 

 
  松崎町の町並みのあちこちに「なまこ壁」が見か
  けられる。壁面に四角い平瓦を敷き、継ぎ目に
  白漆喰をかまぼこ状に盛り上げて塗ったもの。

  何回も漆喰を塗っては乾かし、これを繰り返す
  ので漆喰は塗り返すほど高く盛り上がり費用も
  かかる。富の象徴でもあったそうだ。

  このかまぼこ状がなまこに似ているので「なま
  こ壁」というらしい。