箱根1泊旅行(その2)  17,09,23

   9月20日、最近の不安定な天気はどこへやら、からりと晴れた秋晴れの行楽日和だった。
  午後1時、逗子の叔父宅出発。K翁夫妻は95歳と92歳。慎重にも慎重な運転に心掛け、カ
  ーブの曲がり方にも気を付け、のんびりと相模湾沿いの西湘バイパスを走った。我が愛車
  はクラウンハイブリッドで静粛性も走行安定性も抜群だから心地よい走りで快適なドライブ
  である。

   1時間半で箱根湯本到着。そこから旧道を走り、甘酒茶屋を過ぎて、畑宿の箱根寄せ木
  細工の店「浜松屋」で停車。この街道には何店かの箱根細工の店が並んでいる。お目当て
  のからくり細工の土産を買い、細工造りの実演を見て、あまり車の出入りのない旧道筋を
  走り「松坂屋」に向かった。

   予約した部屋は、露天風呂付きの離れ2部屋。いずれの部屋も三菱財閥岩崎家の別邸
  を移設した重厚で見事な由緒ある部屋を現代風に若干改装してある。K翁ご夫妻と我々夫
  妻の4人でしばらく館内を見物。2000坪の野趣あふれる庭を眺めながらしばし歓談し、我々
  は内風呂ではなく大風呂で一風呂浴びた。

   江戸時代、箱根7湯といわれた名湯は今でも箱根の旅館仲間でさえ気に入って入りにや
  ってくるという。湯量と云い湯質といい湯船の広さと云い満足この上もない。入浴後、夕食
  までのひと時をK翁と一局打つ。今回の旅行の目玉の一つが、温泉でゆっくりと碁盤を囲
  む事だったので、予め碁盤を部屋に用意させておいた。

   この所互先で4局私が立て続けに勝っているが、ほぼ1時間半の熱戦で私の中押し負け。
  K翁の会心の笑顔が微笑ましかった。

   夕食は別室で京風懐石料理。フライや天ぷらや揚げ物など、若者好みの油ものは一切
  ない。年寄りに優しい食べ物ばかりでしかも料理の種類は多いがそんなに量は多くない。
  K翁ご夫妻はことのほか喜んでいた。総料理長は京都東山の有名な老舗料亭「菊の井」の
  料理長を務めた若宮さんという料理人で、京風の伝統的な味付けが素晴らしい。

   給仕してくれた若い男女はベトナムから修行に来ていて、たどたどしい日本語だが、一生
  懸命勉強して母国で日本料理の仕事をしたいと云っていた。真面目そうな若者で好感が持
  てた。

   旬菜も土瓶蒸しもお造りも美味かったが、中で目を引いた料理は、「相州牛の八丁味噌
  朴葉焼き」と「太刀魚の幽庵焼き」。豊橋の八丁味噌と下呂の朴葉を使った「朴葉焼き」は
  かって仕事仲間と一緒に岐阜の下呂温泉でよく食べた懐かしい食べ物。これに地元神奈
  川の相州牛を使って食べる一品で舌がとろける美味しさだった。

   また、太刀魚の料理が最近マンネリなので、プロの造る「太刀魚の幽庵焼き」に大変興味
  があった。幽庵焼きの造り方を知りたいと云ったら、忙しい中をわざわざ総料理長が部屋
  にやってきて懇切に説明してくれた。これは私の大切なレパートリーになる。帰ってタチを
  釣ったら早速試してみたい。

   翌朝の朝食も味・見栄え・種類とも申し分がなかった。最近は夕食も朝食も手っ取り早い
  バイキングが主流で、それはそれでいい面が沢山あるのだが、時々はこうして個室で世話
  をしてくれる係の人の給仕で食べるのも悪くない。キンメの干物、湯豆腐、自家製の納豆、
  自然薯と麦とろが普段のホテルの朝食と違って美味しかった。

   朝風呂に2回も入って出発は午前11時。老夫婦はことのほかこの旅館の雰囲気と接遇
  に喜んでくれて、こんな旅館によく連れてきてくれた。こんなに贅を尽くして採算が取れるの
  だろうかと心配していた。確かに広大な敷地と多くの個室の維持だけでも莫大な費用が掛
  かる。採算面では元が取れないかもしれないと余計な心配をしながら宿を後にした。

    この日も秋晴れの最高の行楽日和。無理をしないのんびり旅の2日目である。
  旅館のすぐそばに「箱根ドールハウス美術館」がある。92歳の叔母はことのほか人形に
  趣味があるのでこの珍しい美術館訪問を楽しみにしていた。箱根の旧道沿いにあるので
  観光客もめったに訪れることもない穴場スポットだ。

   日本人には馴染みのない珍しいミニチュアの名品が揃っている。
  ドールハウス(doll's house)とは人形の家と訳されるが、一定の縮尺(12分の1)で作られ
  た模型の家のことで、建物の外観よりも部屋の内装、家具、調度品、人形などの生活空
  間を主として表現する。19世紀ヨーロッパの中流家庭の子供達に人気の玩具で実に精巧
  に作られている。

   館内に展示されているものでは、茅葺屋根作りの南イングランドのトーマス・ハーディの
  生家、バロック・ロマネスクの内装が見事なハスケル・ハウス、産業革命時の都市労働者
  の過酷な生活を模写したフォーティーウィンクスなど、家族ぐるみで10年もかけて造った
  労作も展示されている。

    

   この珍しい美術館を後にして宮ノ下に向かった。いわば箱根の裏通りから本通りに向か
  ったことになる。俄然人通りが激しくなった。

   箱根には岡田美術館、成川美術館、彫刻の森美術館、ポーラ美術館、箱根美術館など
  沢山の美術館があるが、老夫妻の希望で、仙石原の「ガラスの森美術館」に行き、紀元前
  に作られたベネチアガラスの名品を鑑賞して、ガラス細工の土産を買い、カンツオ―ネの
  演奏を聴いて一休みにした。ここから5分も走れば私のゴルフのホームグラウンドの箱根
  CCがある。

   小腹がすいた時間なのでゴルフ場に案内して食堂で軽食を食べた。支配人はじめ馴染
  みの従業員たちが、「今日はゴルフではないのですか?」と笑顔で尋ねてきた。今日は快
  晴でゴルフ日和で、2階の食堂から見る18番の真っ青な芝が眩しかった。

   箱根CCを失礼して宮ノ下に戻り、富士屋ホテルでお茶にした。ここのシュークリームは
  抜群に美味しい。4人共これを食べて歓談した。2020年のオリンピックに向けて近々大改
  装をするらしい。暫らく休業するとの事だったが、老朽化の改装だけなのか、チャップリン
  も泊まったクラシックな部屋など、歴史ある建物全体が改装されるのか大いに気になると
  ころだ。

   午後3時、90歳を超える老夫婦との2日間の箱根旅行はこれが多分最後の宿泊旅行に
  なるだろう。お2人からは、思い出に残る楽しい旅だったと感謝されたが、我々にとっても
  楽しい旅だった。思いがけず箱根の知らない顔を見ることも出来た。

   富士屋ホテルから湯本に下り、相模湾を見ながら西湘バイパスを走り、午後5時に無事
  に逗子の翁宅に帰着出来た。事故もなく、突然の発病もなく、ホッとした旅だった。                    

              <旅日記おわり。>