初秋の箱根1泊旅行。(その1)   17,09,23

   箱根は昔から、月に1〜2度は遊びに行ったり、仕事で乙女峠を通過したりして何か
  と馴染みのある場所だが、宿泊となると数えるほどしか思い出はない。強い印象が残
  っている旅館の1つに芦の湯温泉の「松坂屋本店」がある。

   寛文2年(1662年)創業というから350余年の長い歴史が紡がれている箱根きっ
  ての名湯である。20年ほど前に松坂屋本店に宿泊した時、当時箱根温泉組合の理
  事長をしていたご主人に話を伺ったことがある。

   イギリスのとある美術館を訪れた時、たまたま歌川広重の浮世絵が展示されていて、
  「松坂屋」と書かれた提灯が描かれている箱根の旅籠風景の浮世絵を偶然発見して、
  いたく興奮・感激をしたそうな。勿論譲ってくれるはずもなく、事情を説明して、記念の
  写真を沢山撮って持ち帰り、それが今でも店内に飾ってある。

   
       

   また西郷隆盛と木戸孝允が密会した記念の石碑や、皇族やあまたの文人墨客が
  逗留した記録もある。箱根の中心地から少し離れた地に構えているこの温泉のなに
  よりもの魅力は、毎分260gの湧出を誇る箱根でも数少ない100%源泉かけ流しの
  湯である。

   「源泉かけ流し」とは、加水・加温・循環を全くしないやり方で、箱根随一の名湯と云
  われる所以である。7000坪の広大は敷地の近くにある芦刈湯源泉からコンプレッサ
  ーによるエアーリフト方式で動力浮揚した源泉を貯湯タンクに一旦溜めて、自然に熱
  交換して、適温にしてから大風呂や各室に配湯している。松坂屋専用の自家源泉だ
  から温度管理には熟練の技能が必要らしい。

   先月、逗子の96翁宅を訪問した際、6年前の楽しかった五島列島の旅の思い出話
  をし、近々どこかへ旅をしようということになった。色々考えた末、老体のケアも考え
  て近場の箱根が良かろうという事になり、くだんの松坂屋に決めた。

   箱根の宿といっても千差万別で、喧騒を避け、静かな落ち着きと安らぎの時を過ご
  すのは、箱根の中心地から離れた芦の湯が老夫婦には似つかわしい。宣伝を一切
  しない老舗旅館で、馴染みのリピーターが多い旅館だが、何とか予約が取れた。

   松坂屋は大涌谷の噴火で客が減り、経営がピンチになって倒産し、金の竹グルー
  プがあとを引き継ぎ、1年半の沈黙を破ってこの3月にリニューアルオープンしている。

   前の主人は長年受け継いできた先祖に申し訳ないと取締役会で泣いて陳謝したと
  いう。リニューアル後の客の満足度はどうなのか、やや心配しながらの訪問である。

           
<その2に続く>