長崎・五島列島の旅。 11,11,25 幾人かの知人から勧められて、九州の西のはずれの五島列島に2泊3日の旅をしてきた。 知人の一人は五島列島の出身で写真家のTさん。この夏に相模湾を見下ろすお宅を訪問して五島 列島から空輸したばかりの新鮮な魚の数々と五島牛をご馳走になり、是非五島の絶景を見に行く ように勧められ、Tさん撮影の美しい教会や海の写真を見せてもらった。 もう一人は三浦半島一円で広く文房具業を営んでいるKさん。Kさんはかってロータリークラブの仲 間だが、去年五島にTさんと一緒に一週間の気ままな旅をしてきて実に素晴らしい島だったと述懐さ れ、やはり是非行ってきなさいと勧められた。もう1人はTさんと同じく五島出身で先祖が五島の小さ な島の城主だったという元A新聞社の政治部長のNさん。 賢人会で話題になったそんな話を親戚の90翁と86歳の奥様に話したところ、是非一緒に行きたい と懇望され、2家族夫婦4人でついに11月15〜17日の3日間の旅となった次第。五島の道路案内、時 間割、宿泊手配などすべて写真家のTさんのお世話になった。 五島の福江空港には福岡または長崎から飛行機で行くコースと長崎からジェットフォイルで行く コースがある。我々は羽田〜福岡〜福江を飛行機で、帰りは福江〜長崎をジェット、長崎〜羽田 を飛行機にした。羽田から福江までは待ち時間を入れておよそ4時間で行く。 五島列島は大小140くらいの島で成り立ち、調べるほど見どころ満載なので本来ならば観光には 1週間は必要だが、ご高齢の夫妻同伴なので2泊が限度。加えて観光ツアーでは振り回されてつい ていけないので、レンタカーを借りて3日間自由気ままの旅にした。かいつまんで五島列島の魅力を 紹介しよう。魅力は@歴史(教会、空海)、A景色。B食べ物(魚、肉)、C人情であった。 五島列島はまともな観光地図やガイドブックも売っていないいわば秘境の地、辺境の地である。 西海国立公園をなす景勝の地で、100余の島々からなり、下五島島と上五島島がその中で最も大 きい。人口およそ6万、80余りの大小の教会と歴史に彩られている。 五島といえば何と言っても教会だ。明治始めに造られた大小の教会は隠れキリシタンが迫害を逃 れてこの島々にたどり着きひっそりと信仰の火をともし続けた証が至る所にある。石造りの荘厳な 教会、民家の裏側にひっそりと佇む教会、どこの教会もきれいに掃き清められていて季節の花々 が飾られている。近所の民家の信者たちが毎日清掃をするのが彼らの日常生活なのだろう。 7世紀の終わりごろ、遣唐使として唐に旅立った僧空海の日本最後の寄港地が東シナ海を望む 下五島柏崎で、空海直筆の「辞本涯」という大きな石碑が建っている。遭難を覚悟で「日本の涯を 辞する」という意味らしい。観光客はなかなかここまでは来ないが、宿の主人が親切に案内して くれた。大宝寺という空海が開いたお寺も見物できた。五島はキリスト教と空海の密教が共存する 辺境の地・宗教の島であった。 大小140もの島で成り立つ五島列島なので、海山の景色は見事というほかない。エメラルド色の 海の色は沖縄を思わせ、相模湾や東京湾とは一味違う。特に東シナ海に沈む夕陽は息をのむ美 しさであった。レンタカーで走り回ったが、道路やトンネルは整備されていて道路にはごみひとつ、 落ち葉一枚も見当たらないほどきれいに清掃されていた。こんなに観光資源が豊富なのに、観光 パンフレットがまるでないのが不思議であった。 東シナ海の荒波で育った五島の魚は抜群においしい。宿泊した民宿とホテルで特別食として豪華 絢爛の肴のオンパレードをご馳走になったが、同行のKさん夫妻は生涯でこんなにおいしい魚は初 めてだと感激しておられた。伊勢海老、アワビ、サザエ、ウニ、石鯛、カツオ、キビナゴ、水イカ、カン パチ、ハコふぐ、鯨肉、カニみそ、その他数えきれない海の幸が食卓一杯に並べられ、どれも舌が とろけるような美味だった。料理人は民宿の主人の弟さんだが、東京・大阪で修行した腕っこきの 板前さん。さすがの包丁さばきで盛り付けなどはとても参考になった。五島肉は九州では有名な霜 降り肉。ステーキは柔らかい美味しさでしかも格段に安い値段で手に入る。Kさん夫妻はこの肉を 福江で買い求め土産にしていた。 五島の人達は旅人に実に親切だ。観光案内所、タクシー、フェリーの改札、コンビニ、レンタカー の職員、宿の従業員、皆が親切に旅人の心を癒してくれた。きっと信仰心の厚い島人の伝統を受け 継いでいて優しい心を持っているのだろう。心温まる3日間の旅だった。 3日間とも穏やかできれいな海に囲まれた素晴らしい旅だったが、最終日、ジェットフェリーで長崎 に向かうあたりから雲が出始め、この夜から翌日にかけて台風のような低気圧の大雨が五島列島 を襲い、道路は2か所がけ崩れで寸断され、フェリーは豪雨のために欠航になったとテレビで放映 されていた。なんとも幸運な3日間の旅だった。 南部藩の地方の習慣に、「はばきぬき」という儀式がある。長旅の後で旅の無事を感謝して旅人を 囲んで一献傾ける習慣である。「はばき」とは脚絆のことで「ぬき」とは「脱ぐ」こと、つまり長旅の脚 絆を脱いで「ご苦労さん」というわけだ。帰宅して2週間後、逗子のKさん宅を家内と訪問し、慎ましく 和やかに「はばきぬき」を催したことは言うまでもない。 |
下五島・井持浦教会の内部。 | 遣唐使・空海の出航地・柏崎港。 |