囲碁の珍問・奇問。     19,02,18

   今から12年ほど前に、かって上司だった博識のS氏から、囲碁のなぞかけのよう
  な珍問を出されて答えに窮した思い出がある。

   それは、①碁盤はなぜ四角か、②碁盤はなぜ19路盤か、③碁石はなぜ丸いのか、
  ④碁石はなぜ白と黒で、なぜ下手が黒を持つのか、➄碁盤の脚はなぜ山梔子(クチ
  ナシ)型か、という禅問答のような5つの難問だった。

   日本や中国の囲碁に関する古い文献を悪戦苦闘して調べて、漸く①から④まで
  は調べられたが、➄のクチナシは遂に判らずじまいのままだった。

   それが最近ある本でようやく答えらしき一文に遭遇し、永年のどに刺さったままの
  魚の骨がようやくとれたようなすっきりとした気分になった。

   その本の著者は、プロ棋士として、また囲碁の観戦記者や雑誌ライターとして、
  また海外普及活動家として活躍した囲碁の雑学の大家、今は亡き中山典之6段で、
  人柄をしのばせるユニークで洒脱な著書「囲碁風雲録」に山梔子(クチナシ)型の
  脚の記事が載っていた。

   彼によれば、クチナシの実は六角形で,一般的な植物の実と違って、唯一割れな
  いし口を開かない珍しい植物なのだそうだ。翻って、囲碁を打つ人も見る人も囲碁
  の作法として、対局中に他人の着手に口をはさむことは嫌われる。碁盤の脚がクチ
  ナシの実の形をしているのは「他人の対局に『口無し』ということ」を示唆している。
  という。
 
   余談だが、足付き碁盤の裏側の中央部分にはへこみがある。これは「へそ」と呼
  ばれたり「血溜まり」と呼ばれることもある。対局中に横から口を挟む人間は首を
  刎ねられ、このへこみに乗せられる事になるという。

   正倉院に保存されている碁盤も、華麗な蒔絵模様が盤側や碁笥に描かれている
  一方、碁盤の脚は六角形のクチナシ型だったような記憶がある。

   少々こじつけがましくて真偽のほどは怪しいものだが、他にも諸説があるとも聞か
  れず、有力な答えも見つからないので、これを答えとして納得することにした。

   奈良・平安の昔から囲碁をたしなんだ貴人達も、横から口を挟んだりしたのだろ
  うか。碁笥をガチャガチャかき回して石の音を鳴らしたり、口三味線を弾いて相手
  を煙に巻いたりするマナーの悪い貴人がいたのだろうか。1000年も昔のことなのに、
  親しみの持てる庶民的な囲碁好きがいたのだろうかと想像するだけで愉快になる。

   そういえば、源氏物語の「葵」の巻で、光源氏と若紫が囲碁を打つ場面があった
  と記憶している。「空蝉」の巻にもあった気がするが、なにせ60年も昔の記憶である。
  彼らの棋力は如何ほどだったのだろう。