94翁との囲碁対局。  16,07,08

   家内の叔父の94翁はアマ6段という囲碁の強豪だが、碁を打つ機会がほとんど
  なくなったので、新聞碁を並べるのが唯一に趣味になっている。

   歳も90を過ぎるとかっての好敵手はみな鬼籍に入ってしまい、実戦の機会がなく
  なってとてもさみしいと述懐されているが、私とて同様である。今では、翁が拙宅を
  訪れるか私が翁宅を訪問するしか機会が無くなり、その日を1日千秋の思いで待
  っている、と云われると翁の気持ちが手に取るように良く判る。

   ”碁仇は 憎さも憎し 懐かしき”の古川柳や、落語の”笠碁”にあるように、ただ
  1人しかいない囲碁の好敵手はかけがえのない大切な囲碁仲間なのである。、

   出来れば毎月お互いの家を訪問したいが、なかなか思うようにいかず、今回が
  今年3度目の対局となった。拙宅に老夫婦をお迎えして、私と94翁は囲碁対局、
  家内と叔母はお茶と和菓子で四方山話を楽しむのがいつものパターンである。

   94翁は健啖家で特に歳に似ず肉が大好きなので、前夜から牛肉のブロックを
  赤ワインに浸して柔らかくしておき、ビーフシチューを振る舞うことにした。具材は
  牛肉、ジャガイモ、人参、玉ねぎ、といたってシンプル、オーソドックスなシチュー
  だが、横浜の料理教室で習ったレシピ通り忠実に再現するので味は太鼓判の筈
  である。ドミグラスソースは先日料理教室で買い求めてあるのでこれを使った。

   さて対局だが、今年は1勝2敗と今のところ分が悪い。私の常先で開始し、いつ
  ものように1局3時間になんなんとする熱戦の末に結局私の7目敗け、今年の通
  算1勝3敗となった。

   中盤まで私が優勢だったが、劣勢を挽回すべく翁の放った勝負手を巡り緊迫し
  た応酬があり、その勝負所での翁の着手は冴えに冴えを見せ、寸分の緩みもな
  かったのが結局翁の勝因となった。

   局後の缶ビールと「越乃寒梅」がよほど美味かったのか、ついつい度を過ごして
  叔母からご注意が出るほどご機嫌だったのは、囲碁に会心の勝利を収めた故か、
  ビーフシチューがお気に召した故か、いずれにせよビーフシチューを3度もお代わ
  りをして健啖家ぶりを示してくれた。


    

   提供した私にとってもこんなに絶賛されると、ついつい今度は何を作って差し上
  げようかと次のチャンスを窺う、至って単純でご機嫌な料理人なのであります。