本榧(かや)柾目・7寸の碁盤 。 14,06,06 「起雲閣」という熱海の観光施設がある。非公開の岩崎別荘、住友別荘とならぶ熱海の 三大別荘と称賛された名邸だが、政財界人の別荘になり、一時旅館として生まれ変わっ て現在は観光客が訪れる熱海の観光施設の名所の一つになっている。 5月の末に葉山文化財研究会の一行15人で、頼朝の石橋山旗揚げと安房脱出の遺跡 を訪ねて真鶴〜熱海の1泊旅行をしたが、その時久し振りに「起雲閣」を訪れた。 かって起雲閣が旅館だった時代に一度宿泊したことがあるが、記憶は僅かしか残って いなかった。ひとつだけ新しい発見があって、今まで見逃していた応接間の一角に見事 な碁盤が展示されていた。厚さ7寸(21,2センチ)の本榧(かや)柾目の碁盤だった。こん な碁盤は今では決して手に入らないし、目にすることもできない幻の逸品である。 昭和24年に時の本因坊・岩本薫(本因坊薫和)と無冠の天才棋士呉清源の10番碁の 何局目かがこの起雲閣で打たれた記念の碁盤とのことだった。当時破竹の勢いで居並 ぶ日本棋院の強豪との10番碁をことごとく撃破した呉清源なので、本因坊薫和との10番 碁も呉清源の圧勝だったと記録に残っている。 この碁盤に負けず劣らずの逸品をお持ちなのが私の好敵手の91翁で、改めてご自宅 を訪問して拝見すると、やはり厚さ7寸(21,2センチ)の本榧(かや)柾目の碁盤だった。 盤面の美しい柾目の模様といい、飴色の上品な色彩といい、打音といい見事なもので、 この碁盤に向き合うと自然に背筋がピンとするから不思議である。 さて5月29日、91翁と今年3度目の対局をしたが、翁は4月に誕生日を迎えられ、めで たく満92歳になられたのでこれからは92翁と呼ぶ。3月の対戦から手合いは私の常先 になっている。3月には私の1目勝ちの熱戦だった。果たして今回はどうか。 お互い歳に似ず序盤から一歩も引かない激しい戦いになり、形勢はどちらに傾いたか 優劣不明のまま中・終盤を迎えた。寄せ合いでさらに大きな振替えがあったが、この振 替もどちらに有利か不明のまま終局となった。並べてみたら結局私の2目敗け。大熱戦 の対局は3時間半に及び、忘我の至福の時間は終わった。これで常先の対局は1勝1敗。 2人の実力差からみればこの手合いが穏当と云うべきだろう。 それほど衰えを知らない92翁の棋力だから、まだまだ壮健で私と対戦できるだろう。 私との対局だけが楽しみで生き甲斐だと嬉しいことを言って下さる好々爺である。夕食 には「浦霞」の冷やを二人で2合飲んで、楽しい時間を過ごしたのは言うまでもない。 この日の為に佐島港の魚市場で25センチもある新鮮な「カサゴ」を買い求め、カサゴ の煮付けを作り、さらに具だくさんのあんかけうどんを振る舞ったが、旨い美味いと両方 とも完食してくれた。次回は92翁邸を訪問して対局・懇親をすることになっている。 勿論、翁の秘蔵の本榧・柾目・7寸の碁盤で対局できるのが何よりの楽しみである。 |