ミミズの戯言2 氏・素性。        09.01,15

   会社の釣り仲間のSa氏は福島県出身、Se氏は岩手県出身である。
  先日彼らと和やかに新年会をやったが、かく言う小生は宮城県出身なので、期せずして
  東北訛りの消えやらぬ田舎者同士が怪気炎を上げた事になる。この二人には釣り以外
  にも色々と世話になっている。岩手県大船渡出身のSe氏は、かって1mもある新巻鮭を
  氷詰めで送ってくれた。当時は魚の捌き方も知らないので苦労したが、生筋子が腹いっ
  ぱいに入っているのに驚かされたものだ。福島出身のSa氏は今でも田舎からの土産と
  いって、キャベツ、白菜、ネギ、ズイキ(芋がら)、干し柿、など 懐かしい産物を届けてく
  れる。実家が消滅した私は只おこぼれに預かるのみで肩身が狭い。

   話が横道にそれたが、きょうの話題は出身地の事である。私は宮城県生まれで高校
  生活を岩手県で過ごしたが、会社の県人会では、宮城県人会と岩手県人会の両方に
  所属した。出身高校の繋がりを重視するか、生まれ育った県を重視するかだが、仲間
  との話題がまるで違っていて、両県人会ともに大変面白かった記憶がある。従って私は、
  初対面の人には、「岩手県人です」と言ったり、「宮城県人です」と言ったりの2重人格者
  になっている。

   もう少し言えば、私の両親は共に岩手県で生まれ育ったので、息子の私は岩手県人
  の血を100%受け継いでいる。「岩手の血を引いて宮城で育ち、岩手で青春を送った
  東北人です。」というのが正確な氏素性と言う事になる。ついでに言えば、氏又は姓とは
  血統のことで、苗字とは意味が違う。苗字は通称・俗称で、一部の人を除いて明治に
  入ってようやく名乗る事が出来るようになったものだ。江戸時代までは、苗字を持たない
  人が多数を占めていた。また、氏素性については差別問題もあるので、一般的には公
  にはできない事が多かったようだ

   ところで、岩手県出身の総理大臣は何人か?岩手は東北の片田舎なのに長州(山口)
  についで多く、就任した順にあげると、原敬、斎藤実、米内光政、東条英機、鈴木善幸
  の5人である。しかし、「岩手の宰相は何人か」には定説がなく、5人説、4人説に分かれ
  ている。いわずと知れた東条英機を岩手県人とするか否かである。「東条英機は東京生
  まれだから岩手県人ではない」とする4人説、東条英機の祖父英俊、父英教が江戸詰め
  の南部藩・盛岡藩のれっきとした藩士・岩手県人で、英機は東京で生まれたものの、南
  部藩士としての教育を受けてきたから岩手県人だという5人説に分かれる。
   つまりは「岩手出身者」と「岩手人」をどう見るかで見解が異なる。岩手生まれのみを
  県人とする4人説は前者、氏素性を重視する5人説は後者という事になる。戦前までは
  5人説が有力で、戦後は東条のA級戦犯を嫌って4人説が有力になった。

   話を元に戻そう。岩手出身の両親を持ち、宮城で生まれ育ち、愛着のある青春を岩手
  で過ごした小生は、宮城県人か、岩手県人か、生まれを重視すれば宮城県人だし、氏
  素性を重視すれば岩手県人となる。大変困った積年の難問である。その時によって都合
  よく使い分ける私の日和見主義を、きっちりと諌めてくれる賢者の叱咤を只々待つのみ
  である。ついでを言えば、我が息子や娘は、どう見ても岩手人、宮城人とは言い難い。
  神奈川人がふさわしい。素性よりも生まれた県で名乗るのが適当のようだ。岩手人か
  宮城人かの設問はどうやら私だけの難問のようだ。ただし、釣り仲間のSa氏やSe氏に
  は
宮城出身と名乗っている。その方が出身県が宮城、岩手、福島、と3県に広がりが
  あってなにかと話題豊富になるからである。