枕上、燈火親しむ。            10,08,15

    枕もとに書物がないと眠れない癖は何時からだったろうか。おそらく20歳頃の5人部屋
   の学生寮の頃まで遡る事になるだろう。70歳を超えた今でもほぼ毎夜、寝床の中で30分
   から長くても1時間弱、読書を楽しみ、スタンドを消して心が満たされて熟睡する癖は直り
   そうにない。時に読みかけのままスタンドを消し忘れて眠ってしまうこともあるが、それは
   年寄りのご愛嬌というものである。

    ハードカバーの立派な本もたまには読むが最近は肩のこらないペーパーバックの文庫
   本が圧倒的に多い。仕事から解放されて8年になるが、その時に「髷物」、特に池波正太
   郎、藤沢周平、山本周五郎を集中的に読破することにしたが、昨年でほぼ完了した。

    その都度、読破した本の紹介と読後感を記載する予定だったが失念していたので、
   その後読み終えた書籍ほぼ30数点を記載する(別記)。読後感はしばらくご勘弁願うこ
   とにする。
    
    この3人の他では、阿川弘之、山崎豊子、城山三郎、などを集中的に読み、浅田次郎、
   新田次郎、渡辺淳一、藤原正彦、永井荷風、等を散発的に読んだことになる。印象に
   残る本が多い中で、強く心を打ったものをあえて選ぶとすれば、浅田次郎の「壬生義士
   伝」を挙げる。

    この本は10年ほど前に一度読み終えていたがある事情で再読し改めて感銘を受け
   た書籍である。

    南部武士の士魂を心ゆくまでに描ききった心震えるまでの傑作といえる。南部藩の
   血統を半分受け継いでいる私(後の半分は伊達藩)の身びいき・感傷かもしれないが、
   ぜひ一読をお勧めしたい。

    5年ほど前に盛岡の岩手銀行のまん前、地方裁判所の庭の「石割桜」を見たのが
   最後だが、石を割って芽を吹く見事な桜だった。南部武士の士魂は、じっと耐えに耐え
   続けて遂には見事な花を咲かせる正に「石割桜」だ。と浅田次郎は喝破しているのが
   忘れがたい。

    10数年前に「壬生義士伝」が刊行された時、地元盛岡の主力銀行のS頭取(あえて
   実名は伏すが見事な南部藩士の末裔らしい風貌だった。)が、この本を絶賛し強く購読
  を勧められたものである。

    戊辰戦争〜奥羽越列藩同盟〜秋田戦争〜函館戦争へと動乱が続く中で、何故南部
   藩が朝敵になったか、武士の「義」とは何か、南部武士の士魂とは何か、読み進めるう
   ちに読者は必ずや南部の男の揺るぎ無い一徹さ、言い換えれば「秘すれば花」の寡黙
   な心意気を理解してくださるだろう。

    さて今年だが、周五郎作品の残りの拾い読みが終えたら、いよいよ市井の人情話の
   髷物は卒業して、今流行の司馬遼太郎の膨大な著書を文庫本に収集して完読に挑戦
   するか、吉川英治か、それとも明治・大正の文豪ものか、蔵書で眠っているハードコピー
   物にするか思案しているところである。